主人公のサングラスに意味を持たせた「アウトレイジ最終章」(224)

【ケイシーの映画冗報=2017年10月19日】小さいながらも武闘派として組を率いていたヤクザの大友(おおとも、演じるのはビートたけし)は、旧知の間柄である韓国系実業家の長(チャン、演じるのは金田時男=かねだ・ときお)会長のほどこしで、韓国のリゾート地である済州島(ちぇじゅとう)で隠居同然の生活を送っていました。

現在、一般公開中の「アウトレイジ 最終章」((C)2017「アウトレイジ 最終章」製作委員会)。日本ではワーナー・ブラザース映画が配給しているが、アメリカでは2011年に設立されたアンナプルナ・ピクチャーズが英語版を配給している。

そんなおり、関西系で巨大暴力団「花菱組」の構成員がトラブルを招いてしまいます。長会長の配下が殺されたことから、長グループと花菱との対立は深刻化し、長会長がヒットマンに狙われてしまいます。

恩人の危機に責任を感じた大友は、弟分の市川(いちかわ、演じるのは大森南朋=おおもり・なお)らと日本へもどり、花菱会に暴力で挑んでいくことになります。その花菱会でも、内部で権力争いが勃発していました。

新参の2代目会長の野村(のむら、演じるのは大杉漣=おおすぎ・れん)と古参の幹部である西野(演じるのは西田敏行=にしだ・としゆき)らが、長グループとの抗争と並行して花菱会の主導権を争っていたのです。

本作「アウトレイジ 最終章」は2010年の「アウトレイジ」、2012年の「アウトレイジ ビヨンド」ににつづく3作目で、表題の通りの完結編となっています。

「アウトレイジ」では関東の巨大暴力団「山王会」の内部の熾烈な権力闘争、2作目では大きくなりすぎて組織にほころびの出た「山王会」と、そこに付け入る関西の大手「花菱会」の暗躍を描いています。

2作目のラストで、勢力を減じた「山王会」は、関西を本拠地とする「花菱会」の配下となります。自分を裏切った組織に“ケジメ”をつけ、自分を利用するだけ利用した刑事に銃弾を撃ち込むことで決着をつけた大友に闘う理由は無くなり、「全員悪人完結。」というキャッチコピーどおりの作品となっていましたが、結果的には、こうして3部作としての成立となったわけです。

シリーズを通して感じるのは、膨張した組織が崩れていってしまう“栄枯盛衰”のおもむきです。1作目で裏切りと下克上によってトップが変わり、勢力を強めた「山王会」は、2作目で他のヤクザ組織の配下となるという苦渋の選択を迫られますし、下克上で成り上がった幹部のヤクザには大友がキッチリと“落とし前”をつけているのです。

そして、「山王会」を納めた「花菱会」もこの3作目では、先代会長の娘婿であるというだけでトップに立つ野村が、会長という立場で高圧的に振る舞うのですが、古参の幹部連中からはまったく人望がなく、組織としての規律にゆるみが生じてしまっています。

こうした事例は、ヤクザのような裏社会だけでなく、一般的にも珍しいことではありません。会社間の買収や売却、子会社化や吸収合併といった報道はしょっちゅうですし、なかには齟齬(そご)があったり、組織同志のかみ合わせに不具合が出たりといったことも、表面化しているよりもずっと多く存在しているはずです。

ヤクザ世界のように暴力や銃弾をともなわないだけで、揉めごとが存在するのは当然です。そして、地位や立場が変わった瞬間、それまでとはガラッと豹変してしまう人物も奇異ではありません。

本シリーズでも、成り上がった瞬間、物言いがガラッと代わってしまう人物が幾人も登場します。出世や金銭によって変化するのか、それとも下地が出てくるのは、さだかでないのですが。

監督、脚本、編集の北野武(きたの・たけし=ビートたけし)は、自身が演じ、また演出した大友という人物をこう表現しています。
「単純な男だよね。頭の悪い昔気質のヤクザ、(中略)要するに馬鹿なんだな」(「映画秘宝」2017年11月号)

シリーズを通じて「ヤクザにも守んなきゃいけない道理があんだよ」(「アウトレイジ ビヨンド」)というセリフ通りの行動をとる大友は、組織間の抗争に巻きこまれながらも一本気を地でいく人物で、たしかにシリーズ中でも変化の少ない単純なキャラクターです。

そんな大友ですが、本作では多くのシーンでサングラスをかけています。不要なはずの夜の繁華街であっても。
「そこはけっこう重要なんだ。大友の敬意の度合いを表しているんだよね。そのへんを意識しながら観てもらうと、大友の心理の変化がわかって面白いと思うよ」(前掲誌)

北野監督はこう述べていますが、純粋すぎる大友が、人間が根底の部分で持つ欲望や、世俗的な猥雑さに直面するとき、視界にフィルターをかける(まさに色ネガネ)という意味合いがあるように感じました。

「こんなドロドロした“本音”に距離を置きたい」、そんな感情の実体化が大友のサングラスだと、私には思えたのですが。次回は「アトミック・ブロンド」を予定しています(敬称略。【ケイシーの映画冗報】は映画通のケイシーさんが映画をテーマにして自由に書きます。時には最新作の紹介になることや、過去の作品に言及することもあります。当分の間、隔週木曜日に掲載します。また、画像の説明、編集注は著者と関係ありません)。