最後の格闘場面で主演者が実在感を示した「アトミックブロンド」(225)

【ケイシーの映画冗報=2017年11月2日】本作「アトミック・ブロンド」の世界設定は1989年。旧東ドイツの首都ベルリンで、東西冷戦の象徴だった「ベルリンの壁」が崩壊するというタイミングで活躍する、世界各国の諜報員によるドラマを描いた作品です。

現在、一般公開中の「アトミック・ブロンド」((C)2017 COLDEST CITY, LLC.ALL RIGHTS RESERVED.)。制作費が3000万ドル(約30億円)で、興行収入が世界で9567万ドル(約95億6700万円)と1億ドル突破が確実となっている。

英国のトップ・エージェントであるロレーン・ブロートン(演じるのはシャーリーズ・セロン=Charlize Theron)は、各国の情報部員が暗躍するベルリンへ赴きます。彼女の任務は、西側のスパイの名前が記された極秘リストを見つけ出すことでした。

現地ベルリンで早速襲撃を受けたロレーンですが、圧倒的な戦闘力で撃退し、現地で活動する味方のスパイであるデヴィッド(演じるのはジェームズ・マカヴォイ=James McAvoy)と協力して、リストの捜索を開始します。

やがて、消えたリストの秘密を知るという、東ドイツからの脱走スパイであるスパイグラス(演じるのはエディ・マーサン=Eddie Marsan)の身柄を確保したロレーンは、彼を西側へと脱出させる作戦を実行しますが、裏切り者をゆるさない東ドイツの諜報機関によるはげしい攻撃にさらされることになります。

傷を負ったスパイグラスを連れて闘い続けるロレーンは、任務を達成できるのでしょうか。

本作は、「モンスター」(Monster、2003年)で実在の殺人犯を徹底した役作りで演じてアカデミー主演女優賞を受けたシャリーズ・セロンが主演する新作ですが、出演だけでなく、彼女自身もプロデューサーとして作品全体に深く関わっています。というより、自身の主演作を自分でプロデュースしたというほうが適切でしょうか。

原作の「コールデスト・シティ(原題「The Coldest City」)」というグラフィック・ノベル(絵物語)を、「当時はまだ出版前だったけど、すぐに権利を買ったわ」(「映画秘宝」2017年12月号)というほどに即応していることから、彼女の“目利き”のよさが感じられます。

そして、スタッフの選択です。監督のデヴィッド・リーチ(David Leitch)は、スタントマン出身で第2班(アクションシーンが中心となることが多い)の監督としてキャリアを積み、大ヒットしたアクション映画「ジョン・ ウィック」(John Wick、2014年)をチャド・スタエルスキ(Chad Stahelski)と共同で監督していますが、一本立ちはこれがデビュー作となっています。

本作の基本はリーチ監督によると、
「ものすごいアクションを盛り込み、ロックなスパイスリラーを作ることで、可能ならば、少し行き詰まり感のあるこのジャンルを復活させたかったんだ」(前掲誌)とのことで、本作の白眉は目を見張るセロン=ロレーンのアクションにあるといえます。

前述の「モンスター」でセロンは関係者への綿密な取材を経て、10キロ以上の体重の増量と、眉毛をすべて取り去るというメイクで“モンスター”へと変貌しています。

本作でもセロンはリーチ監督による3カ月、1日に5時間ものトレーニングをこなし、アクションシーンのほとんどを自分自身で演じており、“吹き替え”はビルの4階から飛び降りるシーンと階段から転げ落ちるシーンで、保険会社からストップがかかったのだそうです。

セロンの身体能力についてリーチ監督も高く評価しており、「彼女ならカットなしで20ぐらい動きを続けられるから、もっと長いテイクも複雑な動きも撮れる」(メイキング映像より)ということで実現したのがクライマックスでみせる、負傷したスパイグラスを連れて逃げ込んだビルの中で、ロレーンが戦い続ける7分を越える格闘シーンです。

ビルの中で複数の敵を格闘や銃撃戦で倒し、ときには一度打ち伏せた相手が復活するのに留めを刺しながら、建物を出て車に乗るというワンカットは(もちろん、本当に一発で撮影したわけではありませんが)、セロンの説得力ある格闘(ヒジやヒザといった体の固い部位での連打や急所攻撃、奪った銃やナイフなどを駆使)によって、リアリティを強く打ち出しています。

そして、すさまじい戦いに勝利するセロン=ロレーンですが、決して無敵のスーパーヒーローではなく、自身も相手の攻撃により、血まみれとなっているのです。

その実在感は冒頭から発揮されており、初登場シーンは大量の氷を浮かべたバスタブの中で、傷だらけの火照った肉体を冷ますというセクシーかつ、インパクトのあるシーンです。

本作で魅力があり、かつまた観客に続編を期待させる“謎”を充分に残した“ロレーン・ブロートン”。あの“世界一有名なスパイ”のように再びスクリーンで活躍することを望むのは、ひとり筆者だけではないはずです。次回は当方の事情により、未定です(敬称略。【ケイシーの映画冗報】は映画通のケイシーさんが映画をテーマにして自由に書きます。時には最新作の紹介になることや、過去の作品に言及することもあります。当分の間、隔週木曜日に掲載します。また、画像の説明、編集注は著者と関係ありません)。

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