ゴジラを知らない世代が描いた謎のアニメ3部作「怪獣惑星」(226)

【ケイシーの映画冗報=2017年11月30日】前回は諸事情により、休みを頂戴してしまいました。今回は「ゴジラ(GODZILLA)怪獣惑星」です。これまで本稿で何度か取り上げてきた日本の世界的映画スター“ゴジラ”ですが、1954年の劇場版第1作からおよそ60年、日本での長編アニメ化は本作がはじめてとなっています。

現在、一般公開中のアニメ「GODZILLA 怪獣惑星」((C)2017 TOHO CO.,LTD.)。

昨年、大ヒットした「シン・ゴジラ」の記憶も鮮やかですが、この“ゴジラ”は両生類然とした姿から直立歩行をする巨大生物へと進化していきます。ゴジラ対策を担当する政府機関が「巨災対(巨大不明生物特設災害対策本部)」で「まさに人知を超えた完全生物」という台詞(せりふ)もあり、あくまで生き物という存在でした。

本作の“ゴジラ”も人知を超えたという点では同一かもしれませんが、生物的な存在ではなく、むしろ無機質で硬質な、一般的な生物と異なった存在とされています。20世紀末、世界各地で巨大な怪獣が出現し、人類は危機に直面します。半世紀にも及ぶ戦いの結果、怪獣群の中でもっとも大きく、絶大な破壊力を発揮する“ゴジラ”によって地球上での生存が不可能となった人類は、選抜された人間たちで地球を脱出、新天地を求めて広大な宇宙へと旅立ったのでした。

20年後、恒星間移民船「アラトラム号」の乗員であるハルオ・サカキ(声の出演は宮野真守=みやの・まもる)大尉は、希望の持てない新天地への移住に批判的で、個人的な反乱を起こしますが、失敗に終わります。じつはハルオと同じ危惧を「アラトラム号」の上層部も持っていました。「アラトラム号」は厳しい選択を迫られます。成功する確率の低い未知の新天地への移住を目指すか、宇宙航行の関係で2万年の時を経た地球へと帰還するか。

結局、故郷へと帰還した「アラトラム号」の乗員たちでしたが、人類の繁栄の痕跡は、大自然に呑みこまれていました。そして、人類を宇宙へと追いやった“ゴジラ”も姿をみせ、地上の人々に襲いかかります。奪われた地球を奪回するため、サカキが立案した作戦で“ゴジラ”を倒すべく動き出すのでした。

水爆大怪獣(第1作のキャッチコピー)として、空襲と原爆の象徴として生まれた“ゴジラ”は、やがて人類の味方として宇宙や地底からの侵略を迎え撃ったり、伝説の存在として復活したり、近作「シン・ゴジラ」では大地震と原発事故のメタファーとして描かれるなど、変遷(へんせん)を経ていることがわかります。これも歴史のある作品の事象だといえるでしょう。

ここ最近の「ゴジラ作品」は、監督やスタッフ陣が熱心なゴジラファンであることが多かったのですが、本作のストーリー原案・脚本の虚淵玄(うろぶち・げん)、共同監督の静野孔文(しずの・こうぶん)と瀬下寛之(せした・ひろゆき)は、瀬下監督によると「僕なんかすごくライトなゴジラファン」で「虚淵さんも静野さんもゴジラを比較的ご存じなくて」(「特撮秘宝vol6 」)という状態で本作に取り組んだのだそうです。

こうした視点やスタンスの違いによるものでしょうか。本作の“ゴジラ”は前出のように、従来の作品とは異なったアプローチで創造されています。瀬下監督は「その特異な環境の中心にいる巨大な『世界樹』のような存在であろうと考えたのです」(パンフレットより)。こうした「視点の違い」は“ゴジラ”だけではなく、対峙する人類側にも影響を与えています。

瀬下監督によると、虚淵からは「とにかくガツンと肉弾戦で! 」、静野監督から「カメラがちゃんと主人公を追いかける映画にしたい」という要望があったそうです。

瀬下監督はそれを「余分な戦闘兵器をもっていない」宇宙開拓団なのだから「開拓用資財を転用した間に合わせの兵器なので、乗員はむき出し」という設定で応じたのだそうです。現在のバイクのような乗り方をする小型ホバーに爆弾をのせて落とすといった、巨大な“ゴジラ”に肉薄する視点での映像は、従来のゴジラ作品ではちょっと記憶にない鮮烈さです。

「誰が観ても虚淵さんの作品になっていますよ。かつ、静野さんや僕が入ることによる化学反応は間違いなく起こっていて、ゴジラの新解釈になっているんじゃないかなって気はします。」(前掲より)

瀬下監督のこの言葉は、本編終了後に強く意識をさせられました。公開当日まで、この「怪獣惑星」が3部作の第1弾であることは徹底的に秘匿されていたのです。これはまったく予想外の展開で、本当に驚きました。映画界としても、充分にインパクトのある作品と評価できます。

「体力のあるものでも賢いものでもなく、変化に対応できるものだけが生き残れる」という言葉があります。“ゴジラ”はその具現化かもしれません。次回は恐縮ではありますが、未定とさせてください(敬称略。【ケイシーの映画冗報】は映画通のケイシーさんが映画をテーマにして自由に書きます。時には最新作の紹介になることや、過去の作品に言及することもあります。当分の間、隔週木曜日に掲載します。また、画像の説明、編集注は著者と関係ありません。なお、ケイシーさんは現在、自宅療養中で、こんごの予定はすべて未定になっています)。

編集注:ウイキペディアによると、「ゴジラ」は東宝が1954年に公開した特撮怪獣映画で、演技者がぬいぐるみ(着ぐるみ)に入って演じる手法を主体とし、この手法は以後、日本の特撮映画やテレビ特撮番組の主流となっている。怪獣や怪獣同士の格闘のみならず、逃げ回る住民や攻防する軍隊などの周辺の人間描写も毎回描かれ、好評を得ている。海外でも上映されて人気を呼び、「ハリウッド・ウォーク・オブ・フェーム」に日本のキャラクターとしては唯一の例として登録されている。現在までに海外版を除いて第30作「GODZILLA 怪獣惑星」まで公開されている。

1954年11月3日に第1作“水爆大怪獣映画”「ゴジラ」が公開された。制作が田中友幸(たなか・ともゆき、1910-1997)、監督は本編が本多猪四郎(ほんだ・いしろう、1911-1993)、特撮が円谷英二(つぶらや・えいじ、1901-1970)で、原作は香山滋(かやま・しげる、1904-1975)、脚本が村田武雄(むらた・たけお、1907-1994)と本多猪四郎だった。出演は平田昭彦(ひらた・あきひこ、1927-1984)、河内桃子(こうち・ももこ、1932-1998)、宝田明(たからだ・あきら、1934年生まれ)ら。

身長50メートルの怪獣ゴジラは人間にとっての恐怖の対象であると同時に、煽り文句などで「核の落とし子」や「人間が生み出した恐怖の象徴」として描かれ、核兵器という人間が生み出したものによって現れた怪獣が、人間の手で葬られるという人間の身勝手さを表現した作品となった。観客動員数は961万人を記録、1955年に第2作「ゴジラの逆襲」が公開された。

東宝はゴジラ以外の怪獣・特撮映画を作っており、1962年にシリーズ第3作「キングコング対ゴジラ」が制作され、当時の歴代邦画観客動員数第2位の記録となる1255万人を動員した。以降、日本国外で好調なセールスを買われた昭和ゴジラシリーズは、外貨獲得の手段として1960年代に新作が次々と制作された。

1964年の第5作「三大怪獣 地球最大の決戦」でゴジラが人類の味方として戦っているが、これ以降、ゴジラは恐怖の対象として役目が希薄になり、娯楽作品へのシフトが進み、当初のテーマであるSFとしての特色もシリアス路線からエンターテインメント性重視のものに変わり、1972年の第12作「地球攻撃命令 ゴジラ対ガイガン」以降は正義のヒーローとして描かれるようになった。

その後、テレビアニメ最盛期では、「東宝チャンピオンまつり」というタイトルのテレビ作品と混載の5、6作品混合プログラムの中の1作という扱いになり、1975年に公開された第15作「メカゴジラの逆襲」では観客動員数97万人と、歴代ワースト1位を記録した。1991年公開のシリーズ第18作「ゴジラvsキングギドラ」以降は正月映画として1995年公開の第22作「ゴジラvsデストロイア」まで毎年1本のペースで制作されたが、この作品でシリーズの終了が決定し、1997年に第1作からゴジラ映画を制作してきた田中友幸が死去した。

1998年にアメリカ・トライスター・ピクチャーズ提供による「GODZILLA」が公開され、興行面では成功を収めたが、軽快な作風のモンスタームービーに仕上げられた作品は従来のゴジラ像の乖離から酷評が相次ぎ、第19回ゴールデンラズベリー賞で最低リメイク賞、最低助演女優賞を受賞、関連グッズ売り上げも低調で、シリーズ化には至らなかった。

1999年のシリーズ第23作「ゴジラ2000 ミレニアム」でゴジラ映画が再開されたが、シリーズは100万人から200万人ほどの観客と大幅に減少し、そのため平成ゴジラゴジラ50周年の節目である2004年にシリーズ集大成となる最高の「ゴジラ映画」を作り上げ、2004年公開の第28作「ゴジラ ファイナルウォーズ(FINAL WARS)」でゴジラシリーズは再度終了となった。

東宝制作によるシリーズが約12年ぶりに全国公開されることになり、2016年に「シン・ゴジラ」が公開され、2017年11月に3部作のアニメの第1部「怪獣惑星」が公開され、2018年5月に第2部「決戦機動増殖都市」が公開される。