A・ゴアの弁舌や表現力に強い感銘を受けた「不都合な真実2」(227)

【ケイシーの映画冗報=2017年12月14日】先日、ノーベル平和賞を受賞した世界の核兵器廃絶を目指す連合組織「iCAN(アイキャン、核兵器廃絶国際キャンペーン)」の授賞式で、日本での被爆体験者3人が出席し、スピーチを披露されました。

現在、一般公開中の「不都合な真実2 放置された地球」((C)2017 Paramount Pictures. All Rights Reserved.)。

ちょうど10年前、1冊の本とその映画作品によって、著者で主演であった人物がノーベル平和賞を受けています。ドキュメンタリー映画「不都合な真実」(An Inconvenient Truth、2006年)に出演し、地球の環境危機(とくに温暖化)の主張をおこなったアル・ゴア(Albert Arnold “Al” Gore,Jr.)元アメリカ副大統領です。

出演者だけでなく、作品自体も第79回アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞を授かっており、たんなる「環境危機啓蒙映画」ではなく、映画作品としてもすぐれていると評価されたわけです。

アル・ゴア本人も「不都合な真実」の反応に、
「驚いたなんてものじゃない。舌を巻いたよ。(中略)今でも『不都合な真実』には説得力があったと、うれしい感想を聞くことがある」(パンフレットより)
と、その影響力に感銘を受けています。

「不都合な真実」の著作と映画はこうして知名度を高めていきましたが、認知度の高さに比例するかのように、作品の内容やアル・ゴアの地球環境に対する警句に対して、異議も発せられるようになりました。

本作「不都合な真実2 放置された地球」(An Inconvenient Sequel:Truth to Power)は、こうした前作への批判、あるいはアル・ゴア本人への無知や誤謬(ごびゆう)のコメントからはじまります。つまり自身の作品についてのネガティブなイメージからスタートさせるわけで、これは主演のアル・ゴア当人だけでなく、監督(共同兼撮影監督)のジョン・シェンク(Jon Shenk)やボニー・コーエン(Bonni Cohen)らスタッフ陣にとっても、なかなかに挑戦的な幕開けといえるでしょう。

作品内でアル・ゴアは訴えます。
「10年前(「不都合な真実」のころ)にくらべ、事態は確実に悪化しています」
そして、洪水や豪雨、水害などの被害現場へ足を運び、現実を見すえながら、「クラスメイト・リアイリティ・リーダーズ・コープス」と呼ばれるリーダー育成のための講演会を行い、地球環境への働きかけをおこなう〈気候チャンピオン〉(世界中で気候変動対策活動に励む若者のネットワーク)の構築に取り組んでいくのです。

この講演会の様子も作中で紹介されるのですが、ジョークやユーモアを交えたフランクな雰囲気ながら、ときとして痛烈な逸話も登場します。深刻な水害に直面したフロリダでの講演会に、アル・ゴアは遅刻してしまいます。待っていた観客にまず、遅参をわびるのですが、その理由が、
「私の準備した長靴が短く、服や足が濡れてしまったので着替えていたから」そして、こう続きます。
「いま、水害の現場に行ってきました。予想以上の水深に私の長靴は役に立たなかった。これほど深刻な状態であったことを理解していなかったことを、地元の皆さんへお詫びします」

単なるスタンドブレーかもしれませんが、濡れた靴下を苦労して脱ぎ、足早に講演会場に向かうアル・ゴアの姿を観たあと、このコメントは強いインパクトを観客にあたえてきます。

最近の日本で、水害の被害地域で長靴の用意がなかったことで「おんぶされた政務官」がいましたが、せめてこのぐらいの発想はなかったのでしょうか。

前作「不都合な真実」も鑑賞しているのですが、個人的には劇中で開陳される「地球の危機」より、アル・ゴア本人の弁舌や表現力により強い感銘を受けました。

これほど表現力に長けた人物でも、副大統領までの地位しか得られず、ゴア本人によると「これほど世界を変えられる地位はない」というアメリカ大統領に選ばれなかったという現実(2000年の大統領選挙で、共和党のジョージ・ブッシュ=George Walker Bush=に敗北)に、ショックを受けたためです。「言葉で説得できなければ、ほかにヒトや政治は動かす手段はなくなる」のですから。

たしかに本作やアル・ゴアの地球環境への提言に筆者は全面首肯することはありません。懐疑的なデータも見受けられますが、本作や前作を含めて、アル・ゴアが聴衆を引きつけるスピーチをおこない、また政策的に対立している人物にも環境問題で共通の認識にあると知るや、「この一点では仲間ではないか」と歩み寄りを見せる。

「言葉」、「表現力」の重要性に意識を持つというのは、本作の制作意図とは乖離してしまうかもしれませんが、観客のちいさなワガママとして、許していただければ、と勝手に願っています。次回も未定とさせていただきます(敬称略。【ケイシーの映画冗報】は映画通のケイシーさんが映画をテーマにして自由に書きます。時には最新作の紹介になることや、過去の作品に言及することもあります。当分の間、隔週木曜日に掲載します。また、画像の説明、編集注は著者と関係ありません。なお、ケイシーさんは現在、自宅療養中で、こんごの予定はすべて未定になっています)。