娘からアイデアを得て「タラレバ」を具現化した「ストーム」(230)

【ケイシーの映画冗報=2018年1月25日】かなり以前のことですが、ある映像作品のお手伝いをさせていただいたことがあります。そのとき、作品には反映されなかったのですが、「気象破壊兵器」という提案がありました。「地球上の気象をコントロールして豪雨や干ばつを起こし、敵国を屈伏させる」といった事物でした。なにぶん過去のことなので、記憶のみで記していることをお断りしておきます。

現在、一般公開中の「ジオ・ストーム」((C)2017 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC., SKYDANCE PRODUCTIONS, LLC AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC)。制作費が1億2000万ドル(約120億円)で、興行収入が世界で2億841万ドル(約208億4100万円)。

本作「ジオ・ストーム」は、この「気象破壊兵器」に似たコンセプトの巨大システムによって人類が危機にさらされるという、ディザスター(災害)映画です。

2019年、地球規模で発生した異常気象を鎮静化するために、各国が協力して建造した国際気象宇宙ステーション(ISS)を基地として、無数の人工衛星を使って気象災害を防ぐ“ダッジ・ボーイ”というシステムを構築し、被害をくい止めます。

システムの開発責任者であったジェイク(演じるのはジェラルド・バトラー=Gerard Butler)は優秀なエンジニアですが「やりすぎ」てしまうクセがあることから軋轢(あつれき)を生んでしまい、“ダッジ・ボーイ”のプロジェクトから外されてしまいます。後任となったのは実の弟であるマックス(演じるのはジム・スタージェス=Jim Sturgess)でした。

2022年、アフガニスタンの村が氷結するという事件が発生します。“ダッジ・ボーイ”の不具合を予想したマックスは、システムに精通しているジェイクをISSに送り込みます。

ISSの司令官であるウーテ(演じるのはアレクサンドラ・マリア・ララ=Alexandra Maria Lara)と協力して“ダッジ・ボーイ”のシステムを修正しようとするジェイクですが、トラブルは続いて発生し、ついにはジェイク自身も生命の危険に直面してしまいます。

一方の地球では、マックスがアメリカの政府中枢に“ダッジ・ボーイ”でのトラブルに関わる、巨大な陰謀があることを知ります。宇宙と地上で危険に直面するジェイクとマックス。やがて事態は最悪のジオ・ストーム(地球規模の同時多発災害)へとなだれ込んでいくのでした。

監督・脚本(共同)のディーン・デブリン(Dean Devlin)は、俳優業から脚本家へとシフトしていった人物で、地球を侵略する宇宙人に世界が一体となって反撃するSF映画「インデペンデス・デイ」(Independence Day、1996年)や最初に作られたハリウッド版の「GODZILLA(ゴジラ)」(1998年)の脚本で知られるようになりました。ハリウッドでは30年以上のキャリアを持つデブリンですが、本作がはじめての長編映画の監督となっています。

デブリン監督によれば、本作のアイディアの源泉は、 6歳(当時)のお嬢さんから発せられた、天候に対する問いかけだったとのこと。
「どうして悪いところを直す機械をつくれないの?」

そこから急激な気象変動を制御する機械の発想と、その機械が制御不能となるストーリーが生まれたそうです。

じつは、天候をコントロールするという発想は決して新しいものではありません。日本では宮沢賢治(みやざわ・けんじ、1896-1933)は、現在でいう地球温暖化を人為的になすべきだと考えていたことが、手がけた作品などから指摘されています。

少し前に取り上げた「不都合な真実2 放置された地球」では、人類と地球環境に危険をもたらす深刻な問題として扱われている地球温暖化ですが、賢治は肯定的だったそうです。北国出身で農業に関心の強かった賢治にとって、温暖な気候をつくりだすことは、冷害への対応策だったのかもしれません。

また、アメリカではフロリダ州がタイフーンで大きな被害を受けることから、かつて、核兵器を使ってタイフーンを消滅させることが検討されたそうですが、実現不可能な大威力の原子爆弾が必要になると計算されたことで、この発案は立ち消えとなったそうです。

そして、地球は温暖な気候と氷河期を長い時間をかけて繰り返しているのです。人の一生など、地球の歴史から見れば一瞬ですし、地球そのものをわずかではありますが、着実に変化しています。

本作の災害シーンのように、海が一瞬で凍りついたり、地面が地熱で膨張し、地震のように崩れるといったことは、映画的誇張であって、実際にはありえないでしょうが、長期的なスパンで見れば、環境の変化による危険な状況は想像できるはずです。

「楽しくてワイルドなSF版“タラレバ”体験になるだろう」(パンフレットより)というデブリン監督のコメントは別な視点からの「環境への警告」かもしれません。次回も未定とさせていただきます(敬称略。【ケイシーの映画冗報】は映画通のケイシーさんが映画をテーマにして自由に書きます。時には最新作の紹介になることや、過去の作品に言及することもあります。当分の間、隔週木曜日に掲載します。また、画像の説明、編集注は著者と関係ありません。なお、ケイシーさんは現在、自宅療養中で、こんごの予定は未定になっています)。