制作陣が子供心で取り組んだ「アップライジング」(236)

【ケイシーの映画冗報=2018年4月19日】当コラム3月22日付の「シェイプ・オブ・ウォーター」(The Shape of Water 2017年)の監督ギレルモ・デル・トロ(Guillermo del Toro)が手がけた「パシフィック・リム」(Pacific Rim、2013年)は、巨大ロボット対巨大カイジュウ(KAIJU)という、日本のアニメ、ヒーロー作品を色濃く反映した仕上がりによって、大ヒットを記録しました。

一般公開中の「パシフィック・リム:アップライジング」((C)Legendary Pictures/Universal Pictures.)。

さっそく続編の企画が動くのですが、紆余曲折を経て、デル・トロ監督は「シェイプ」に集中するため、続編の監督を降板してしまいます。デル・トロ監督のサブ・カルチャーへの愛情が、前作の原動力となっていることは明白だったので、監督交代は残念に感じていました。

バトンを受け取ったスティーブン・S・デナイト(Steven S.DeKnight)はテレビドラマ出身、映画はこれがデビュー作ということで、少々の不安も感じましたが、デナイト監督も生粋のマニア監督であり、本作「アップライジング」の仕上がりもみごとでした。

太平洋の裂け目から出現する巨大な“カイジュウ”を、人類が巨大なヒト型ロボット“イェーガー”(ドイツ語で狩人)で迎え撃ち、一応の平穏を得ておよそ10年。かつてPPDC(環太平洋防衛軍)のエース・パイロットであったジェイク(演じるのはジョン・ボイエガ=John Boyega)は、父親が高名な司令官であったことのプレッシャーから部隊をはなれ、現在では遺物をあさって生活するようになっていました。

そんなジェイクは、たったひとりで違法な小型イェーガーを組み上げた少女アマーラ(演じるのはケイリー・スピーニー=Cailee Spaeny)とともに、身柄をPPDCに拘束されてしまいます。罪を償うため、ジェイクはかつての同僚であったイェーガーのパイロットを育てるネイト(演じるのはスコット・イーストウッド=Scott Eastwood)の補佐として、アマーラはパイロット候補生としてPPDCで活動するようになります。

カイジュウとの「次の決戦」に備えるPPDCでは、無人で活動する次世代モデルの実用化を進めていました。その発表のイベントで“無人イェーガー”が一斉に反乱を起こし、PPDCの施設を破壊するとともに、史上最大のカイジュウを出現させました。カイジュがめざすのは日本列島の富士山です。残されたわずかな4機のイェーガーと未熟なパイロットたちと最終決戦に赴くジェイク。東京を戦場に人類の存亡をかけた決戦がはじまるのでした。

前作では暗めのトーンで全編が統一されていた(デル・トロ監督の嗜好と思われます)のに対し、本作は陽光がきらめくシーンが盛り込まれています。じつは、こうした特撮やCGを駆使した作品は、画面を暗めにして、事物のディティールを抑えるほうが、リアル感を高めることに直結するため、巨大な事物を出すには、夜や雨のシーンに設定することが少なくありません。

デナイト監督はあえて、むずかしい状況でのカイジュウやイェーガーを活躍させたそうです。
「同じことをやるとデル・トロ監督にはかなわないからね。細部まで作り込まないといけないので、自分にとっても、視覚効果担当にとっても大きなチャレンジだったよ」(4月11日付読売新聞夕刊)

最終決戦の地が東京、そして富士山になったのもデナイト監督の発想で、「日本の怪獣映画や特撮ドラマが大好きで、東京がめちゃくちゃなるのを何度も見てきたんだ。映画監督になった時には、絶対に自分でやりたいと思っていた」(同)

こうした嗜好はデナイト監督だけでなく、主演のジョン・ボイエガやスコット・イーストウッドも同様とのこと。プロデューサーも兼任したボイエガは来日すると秋葉原に買い出しに赴き、日本のマンガも大好きなのだそうです。イーストウッドもゴジラのファンでアニメのポケモンもよく見ていたとコメントしています。

「ゴジラ」第1作は60年以上前、ポケモンのアニメも20年以上、放送されています。ボイエガが熱狂的なファンだという「機動戦士ガンダム」も40年近い歴史を持っているのですから、2世代、3世代のファン層が生まれているわけです。

演劇の世界で「子どもと動物には勝てない」という言葉があります。「(ウケようとか、カッコつけようといった)邪念がない」というのがその理由だそうです。

オリジナルを構築したデル・トロ監督や本作のデナイト監督、主演のボイエガといったメンバーは、よい意味で子どもなのではないでしょうか。「好きなものは好き」なのは厳然たる事実で、「好きこそものの上手なれ」を具現化したのが本作ではないでしょうか。次回は「レディ・プレイヤー・1」を予定しています(敬称略。【ケイシーの映画冗報】は映画通のケイシーさんが映画をテーマにして自由に書きます。時には最新作の紹介になることや、過去の作品に言及することもあります。当分の間、隔週木曜日に掲載します。また、画像の説明、編集注は著者と関係ありません)。