森林火災に対する消防士と家族の過酷さを描いた「ブレイブ」(241)

【ケイシーの映画冗報=2018年6月28日】かつてアメリカに滞在中、ホテルでボヤ騒ぎがありました。大事ではなかったのですが、大男の警察官に「英語はわかるか」と訊かれ、必死に応じていると、その横を酸素ボンベを背負った消防士たちが、バールや斧を手に、煙の中に突き進んでいきます。

現在、一般公開中の「オンリー・ザ・ブレイブ」((C)2017 NO EXIT FILM, LLC)。

かれらも長身でしたが、ベルトがおなかに食い込んでいる警察官とことなり、屈強であっても細身でした。安全確認がとれ、酸素マスクをはずしたその顔の頬はみごとにそぎ落とされており、脚力の鍛練をつよく、うかがわせるものでした。

英語で消防士は“Fire Fighter”と表現されますが、この一件は鍛えられた“戦士(Fighter)”のおもむきを実感させてくれました。そんな過去の逸話を想い出させてくれた本作「オンリー・ザ・ブレイブ」(Only the Brave、2017)は、森林火災のエリート・チーム「グラニット・マウンテン・ホットショット」の活躍と悲劇を描いた作品です。

アリゾナ州プレスコット市は、自然が豊かなアメリカ西部の街ですが、乾燥した気候から、全米でも屈指の森林火災の多発地帯でした。地元の消防隊を指揮するエリック(演じるのはジョシュ・ブローリン=Josh Brolin)は、豊富な経験と統率力を有した隊長として、隊員やその家族から絶大な信頼を得ている一方で、妻のアマンダ(演じるのはジェニファー・コネリー=Jennifer Connelly)との生活は順調とは言い難い状況でした。

制作費が3800万ドル(約38億円)で、興行収入が2348万ドル(約23億4800万円)。

そんなエリックのチームにブレンダン(演じるのはマイルズ・テラー=Miles Teller)という若者が入団を希望してきます。かれは自堕落な生活を送ってきたのですが、絶交されたかつての恋人との間に娘が生まれたことで、これまでの人生を悔いあらためて、過酷な森林消防士を志願したのでした。

エリックをはじめ、他のメンバーからの手荒い歓迎と厳しいトレーニングを経て、ブレンダンも仲間として認められたころ、エリックのチームは、地方自治体の持つ消防隊としてはじめて認定された「グラニット・マウンテン・ホットショット」として、森林火災のエキスパート・チームとなったのです。

そして2013年6月、アリゾナ州ヤーネルヒルで大規模な森林火災が発生、「グラニット・マウンテン・ポットショット」も現地に入り、防火活動を開始しますが、事態は急展開を迎えるのでした。

本稿でもハリウッド産の「実話を題材とした」映画はたびたび紹介しています。本年はこれが5本目になりますが、5年前という、比較的あらたしい史実の映画化ですが、2001年の「全米同時多発テロ」以後ではもっとも消防士が亡くなった(「グラニット・マウンテン・ホットショット」のメンバー20人のうち、19人が犠牲となった)という、単なる英雄物語ではありません。

主演のジョシュ・ブローリンは、かつてボランティアの消防士として活動しており、本作で演じた消防隊という存在に理解があったそうです。
「彼らは毎日厳しい訓練を積んでいて、どんな時も気を抜かないんだ。(中略)いつだってまったく予測がつかない状況に対処している。常に死に神につきまとわれているようなもんだ」(「映画秘宝」2018年8月号)

こうしたプレッシャーは、現場におもむく消防士より、その家族のほうが強く感じるといわれています。危険な状況でも、自分たちの訓練と経験を生かせる当事者たちとことなり、家庭や職場で“無事を祈る”ことしかできない家族たちが、精神的なダメージを負ってしまうことは決して奇異なことではありません。

そのあたりも本作ではしっかりと描かれており、環境的に安全なのに心情的には追い詰められてしまう家族の情景も、過酷で危険な火災現場とおなじような緊張感をただよわせています。

監督のジョセフ・コシンスキー(Joseph Kosinski)は、CM界で映像クリエイターとして活躍後に映画監督となった人物です。これまでの監督作はSFがメインであり、本作で実話ベースの作品に挑戦したわけですが、「本作において火は一つのキャラクターだ」(パンフレットより)と語るコシンスキー監督は撮影用にコントロールされた火災、特殊効果の炎、そしてCGで描かれた火炎という、3種類のキャラクターを巧みに組み合わせ、一瞬ですべてを焼き尽くしてしまう自然火災のパワーを描ききっているという感想に異論はないと思います。

できれば直面したくない状況ですが、本作のような激しい火災に遭遇したとき、かれらの数分の一でも正しい判断と行動したいと、考えずにはいられない1作でした。次回は「ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー」の予定です(敬称略。【ケイシーの映画冗報】は映画通のケイシーさんが映画をテーマにして自由に書きます。時には最新作の紹介になることや、過去の作品に言及することもあります。当分の間、隔週木曜日に掲載します。また、画像の説明、編集注は著者と関係ありません)。