危機を仲間に救ってもらう場面が増えた「新ミッション」(244)

【ケイシーの映画冗報=2018年8月9日】以前にも記しましたが、ハリウッドに限らず、最近のエンタティンメント産業では、続編やシリーズ作が増える傾向にあります。「過去の名声に載っかった安易な企画」か、「長年かけて確立したIP(知的財産権=キャラクターや創作物の権利)の有効活用である」とするかはさほど意味がないと思います。「(作品として)面白いかどうか」あるいは「(利益を生む)収益物件」であることのほうが、はるかに大事なのではないでしょうか。

現在、一般公開中の「ミッション:インポッシブル/フォールアウト」((C)2018 Paramount Pictures.All rights reserved.)。制作費は1億7800万ドル(約178億円)で、興行収入が約2億1545万ドル(約215億4500万円)となっている。

本作「ミッション:インポッシブル/フォールアウト」(Mission:Impossible–Fallout)も往年のテレビドラマ「スパイ大作戦」(Mission:Impossible 1966年から1973年)をハリウッドの人気俳優トム・クルーズ(Tom Cruise)が自身の手でプロデュースし、主演もこなすシリーズ「ミッション:インポッシブル」の6作目となっています。

IMF(Impossible Mission Force=不可能作戦部隊)のエージェントであるイーサン(演じるのはトム・クルーズ)に下された今回の任務は、核兵器に転用可能なプルトニウム3個をとりもどすことでした。一旦は成功したかに見えましたが、何者かにプルトニウムを奪われ、作戦は失敗に終わります。

IMFに不信感を持つCIAは、独断専行をこのむイーサンに監視役としてオーガスト(演じるのはヘンリー・カヴィル=Henry Cavill)を同行させ、監視させます。

イーサンは、かつて逮捕したテロ組織のリーダーであるソロモン(演じるのはショーン・ハリス=Sean Harris)をわざと逃がし、プルトニウムを確保している組織と合流させるという作戦を実行しますが、本当なら味方のであるエージェントのイルサ(演じるのはレベッカ・ファーガソン=Rebecca Ferguson)に襲撃され、事態は混乱する一方に。

いくつもの思惑と組織が錯綜するなか、任務に全身全霊をかけるイーサンは思わぬ再会におどろきながら、プルトニウム奪還へと突き進んでいきます。

本作はシリーズの中ではじめて、監督(脚本)のクリストファー・マッカリー(Christopher McQuarrie)が、前作の「ローグ・ネイション」(Rogue Nation、2015年)から続投しています。

これまで、作品ごとに監督を代えることで作品のスタイルを変えてきたわけですが、「目指したのは『前作と、まったく違う作品』にすること」(読売新聞2018年7月27日付夕刊)と語るマッカリー監督は、プロデュースを兼ねるトム・クルーズと「彼とはツーカー。周囲の人が、誰も理解してくれないこともあるくらい」(同)という強いつながりを持っており、クルーズの意を酌んでの連投なのでしょう。

トム・クルーズといえば、「人生を映画作りにささげている」と公言しているほど「映画を愛している」ハリウッド・スターですが、その本気度は生半ではありません。
「デイズ・オブ・サンダー」(Days of Thunder、1990年)で主演では実際にレースカーを運転して撮影し、近作「バリー・シール/アメリカをはめた男」(American Made、2017年)では役がパイロットだったので「すべての飛行シーンを自分で操縦した」という気合の入りよう。

本作では「ヘリコプターの操縦」に挑戦し、多忙なスケジュールのなか、2000時間を費やしてライセンスをとり、ヘリによる危険なスタント飛行もこなしています。

また、前作でのクルーズは、離陸する輸送機に捕まったまま、1500メートル上空まで“飛び上がった”スタントをこなしていますが、本作では、軍の特殊部隊が行うという「ヘイロージャンプ(高高度降下低高度開傘)」で、7620メートルから“飛び降りる”スタントを自分自身でおこなっています。撮影ですから何度も繰り返すわけですが、マッカリー監督によれば「リハーサルを含めて105回もジャンプ」(パンフレットより)したそうです。

ちなみに、実際の軍隊では200回もパラシュート降下すれば「超ベテラン」だそうですから、クルーズの映画作りへの姿勢が理解できるのではないでしょうか。

そんなクルーズが6本も演じているイーサン。当初は自分中心のキャラクターという要素が強く描かれていましたが、近作では危機やアクシデントを仲間に救ってもらうというシークエンスが増えているように感じます。

ハリウッド・スターとして30年以上、活動しているクルーズですが、毀誉褒貶も少なくありません。ですが、こうして映画に関わってこられたのも仲間の存在があってのことではないでしょうか。どんなに有能でも人間の能力には限界があるのですから。
なお、タイトルの「フォールアウト」(Fallout)ですが、「影響/落下/仲たがい」といった和訳のほか「(核爆発などによる)放射性降下物」という意味があることを知っていると、より深く物語が楽しめるかと思います。

次回は「オーシャンズ8」を予定しています(敬称略。【ケイシーの映画冗報】は映画通のケイシーさんが映画をテーマにして自由に書きます。時には最新作の紹介になることや、過去の作品に言及することもあります。当分の間、隔週木曜日に掲載します。また、画像の説明、編集注は著者と関係ありません)。