手の込んだ舞台と優雅な犯罪で楽しめる「オーシャンズ8」(245)

【ケイシーの映画冗報=2018年8月23日】本作「オーシャンズ8」では伝説の犯罪チームのリーダー、ダニー・オーシャンの妹であるデビー(演じるのはサンドラ・ブロック=Sandra Bullock)は、刑期を終えるにあたって犯罪や犯罪者との関係を切ることを誓いますが、自由を得るとさっそく窃盗や詐欺に手を染め、旧友のルー(演じるのはケイト・ブランシェット=Cate Blanchett)に、次の大仕事の話を持ち込みます。

現在、一般公開中の「オーシャンズ8」((C)2018 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC., VILLAGE ROADSHOW FILMS NORTH AMERICA INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC)。制作費が7000万ドル(約70億円)、興行収入が今のところ5848万ドル(約58億4800万円)。

デビーが刑務所のなかで練り上げた計画、それはニューヨークのメトロポリタン美術館で毎年ひらかれるファッションの一大イベントである「メット・ガラ」で、招待されたセレブリティから宝飾品を盗み出すというものでした。

最大の獲物はハリウッド女優のダフネ(演じるのはアン・ハサウェイ=Anne Hathaway ) の首もとをかざる1億5000万ドル(約150億円)というカルティエ製のネックレス“トゥーサン”。デビーとルーは、天才ハッカーや宝石職人、盗品ブローカーといった「裏社会のプロフェッショナル」の女性を集め、あらたなオーシャンズを結成、この計画を進めていくのです。

本来なら、「反社会的行為」である犯罪ですが、映画をはじめ、フィクションの世界では「ピカレスクロマン」として、確固たる地位を持っています。

日本で現在も連載中のコミックスで最長となっているのは超A級スナイパーという暗殺請負業の「ゴルゴ13」(1968年に連載開始、さいとうたかを作)ですし、いまも5度目のテレビアニメが放送中の「ルパン三世」(1967年に連載開始、モンキー・パンチ作)も、主人公は怪盗アルセーヌ・ルパンの3代目を自称する大泥棒です。

本作の根源は「オーシャンと十一人の仲間」(Ocean’s Eleven、1960年)で、この作品を2001年に「オーシャンズ11(イレブン)」(原題はおなじ)としてリメイクしており、こちらは、2004年、2007年にも続編が作られました。

この2001年からのシリーズは、本作の主役デビーの兄であるダニー(演じたのはジョージ・クルーニー=George Clooney)が犯罪チームのリーダーとして活躍しています。

こうした継承というか引き継ぎをしっかりと描くことが、こうした「伝承シリーズ」モノには欠かせません。

デビーが兄のダニーと「再会」するのは、少々さびしい空間なのですが、2001年からの3作品を見ている観客にはうれしい再会があったりと、「伝承」については成功していると感じました。

もうひとつのポイントはチームの結成。新オーシャンズが生まれるまでのストーリーです。親友(というより腐れ縁?)のデビーとルー。そこに旧友と新人たちが組み合わさっていくわけですが、この流れはキャラクターや設定としては定番ながら、小気味よくまとまっています。

彼女たちが犯罪に加担する理由も、過去の栄光への追想や、底辺での生活からの脱出、あるいは日常生活への不満など、それなりに整合性があるものとなっています。このあたりをおろそかにしてしまうと、流麗な犯罪が単なるいたずらレベルに落としこまれてしまう危険性があるので。

現状に対する不満は、オーシャンズのターゲットとなるハリウッドセレブのダフネにもありました。頂点を究めた彼女は、台頭してくる新人たちに焦燥感をいだいており、「ここでもう一度・・・」という気持ちから、メットガラに高級ブランドであるカルティエのネックレスを身につけてのぞむことになるのです。そのこと自体がオーシャンズの作戦の一部であるというのに。

こうした「仕込み」のどこか地味めな映像がメトロポリタン美術館での「メットガラ」となると一変します。着飾ったセレブ、豪奢な内装、贅(ぜい)を尽くした料理・・・。こうしたきらびやかな世界で繰り広げられる、犯罪でありながら華麗に実行に移される入念な作戦。

興味を引いたのは犯罪の舞台となるメトロポリタン美術館と、被害者となるカルティエが、本作に全面協力していることです。メトロポリタンは撮影のために(営業時間外ですが)、映画の撮影としては最長という2週間のスケジュールを確保し、カルティエも自社名を前面に出して、多くの宝飾品を提供したほか、レプリカとはいえ1億5000万ドルのネックレス“トゥーサン”を創作しています。

現実には、本作のような犯罪は(過去のシリーズにおいても)不可能にちがいありません。とはいえ「ウソから出たマコト」を観客に見せるには、なによりも説得力のあるキャラクターと設定、そして周囲のディティールが欠かせません。

作りこまれた舞台での優雅な犯罪という、あぶなげながら楽しい作品となっています。次回は「アントマン&ワスプ」の予定です(敬称略。【ケイシーの映画冗報】は映画通のケイシーさんが映画をテーマにして自由に書きます。時には最新作の紹介になることや、過去の作品に言及することもあります。当分の間、隔週木曜日に掲載します。また、画像の説明、編集注は著者と関係ありません)。