丸善丸の内で慶応図書館が「欧州初期の印刷本」展、42行聖書等

【銀座新聞ニュース=2018年10月1日】大手書籍販売グループの丸善CHIホールディングス(新宿区市谷左内町31-2)傘下の丸善ジュンク堂書店(中央区日本橋2-3-10)が運営する丸善・丸の内本店(千代田区丸の内1-6-4、丸の内オアゾ、03-5288-8881)は10月3日から9日まで4階ギャラリーで「第30回慶応義塾図書館貴重書展示会『インキュナブラの時代-慶応義塾の西洋初期印刷本コレクションとその広がり」を開く。

丸善・丸の内本店で10月3日から9日まで開かれる「第30回慶応義塾図書館貴重書展示会『インキュナブラの時代-慶応義塾の西洋初期印刷本コレクションとその広がり」ンもフライヤー。

「慶応義塾図書館貴重書展示会」は、慶応義塾図書館が所蔵する数ある貴重書を各回テーマに沿って展示し、通常は閲覧が制限される貴重書を無料公開している。

今回は活字による15世紀のヨーロッパ初期印刷本を「インキュナブラ(incunabula)」と呼び、さまざまな変化と工夫を経て、現代の本のルーツとなっている。なぜ「印刷革命」と呼ばれ、今に至る影響力があるのか。当時の技術の粋を尽くした活版印刷の美と、そこから広がる疑問、謎解きの世界を展示紹介する。

主な展示資料は「42行聖書」(マインツ:42行聖書の印刷者、ヨハン・グーテンベルクとヨハン・フスト=Johannes Fust、1400-1466=、1455年頃、零葉)とグーテンベルクの活字を使い別人が印刷した「36行聖書」や、印刷方法が論争の的となった「カトリコン」と合わせて展示する。

ウイキペディアによると、「42行聖書」とはグーテンベルクが活版印刷技術を用いて印刷したヨーロッパ初の印刷されたグーテンベルク聖書のことで、ほとんどのページが42行の行組みであることから「42行聖書(42-line Bible、42B)」と呼ばれた。イタリア出身のフランスの枢機卿ジュール・マザラン(Jules Mazarin、1602-1661)のコレクションから発見された歴史的経緯から「マザラン聖書(the Mazarin Bible)」とも呼ばれる。当時もっとも広く流通していたラテン語聖書「ヴルガータ」をテキストとしている。

「36行聖書」はページの行数から呼ばれた聖書で、かつてはグーテンベルクによって印刷された、あるいは「42行聖書」より早く印刷されたと考えられていた。現代ではグーテンベルクから「DK」(ドナトゥス・カトリコンの意味)と呼ばれる活字セットを譲り受けたアルベルト・プフィスター(Albert Pfister、1420-1466)が1460年ごろ印刷を行ったものと考えられている。

「36行聖書」が「42行聖書」より後のものであるということを示したのは19世紀の研究者カール・ディアッコ(Karl Dziatzco)で、「36行聖書」は15部しか現存していない。

また、イングランドの詩人、ジェフリー・チョーサー(Geoffrey Chaucer、1343-1400)の「カンタベリー物語」(初版、ウェストミンスター:ウィリアム・キャクストン=William Caxton、1422-1492=、零葉)と第2版(ウェストミンスター:ウィリアム・キャクストン、1483年、零葉)も展示する。第2版の現存数が少なく、初版と第2版を並べて見ることができるのは国内の研究機関としては初めてとしている。

エウクレイデス(ユークリッド、Euclides、英語Euclid、BC3世紀?-?)の「幾何学原論」(ベネツィア:エアハルト・ラートドルト=Erhard Ratdolt、1442-1528=、1482年5月25日)も展示する。余白には多くの図形や線分が印刷され、ロトゥンダ体活字とアラビア数字による本文と調和しているという。読者による書き込みは、実用的に使われた様子を伝えている。慶応図書館では、複雑な音楽理論の図示や写実的な医学の図版など、科学の書における図版の力を伝える書物と並べて展示する。

さらに、「ローマ式典礼の時祷書(じとうしょ)」(パリ:フィリップ・ピグーシェ=Philippe Pigouchet、1488-1518)=とシモン・ヴォートル=Simon Vostre、1486?1518=、1498年9月16日)も展示する。慶応図書館によると、写本が注文生産を基本としていたのに対し、印刷本は見込みで生産され、在庫となる。インキュナブラ時代に、販売までの一時的な識別のため標題紙が登場し、やがて購買意欲をそそる版画や宣伝を添えた標題紙へと発展していく。

本書の標題紙には、印刷業者の大きな商標の下に標題や店の住所などが示されている。時祷書とは平信徒向けの祈祷文集で、14世紀、15世紀には手書きの細密画が施された写本が数多く制作された。本書の本文の周囲は数多くの版画で埋め尽くされており、写本の挿絵に、量で対抗し差別化を図ろうとした様子がわかる、としている。

「インキュナブラ」とはヨーロッパで作られた最初期の活字印刷物のことであり、15世紀(グーテンベルク聖書以降、1500年まで)に活版印刷術を用いて印刷されたものを指す(本だけではなく、一枚物=ブロードサイド・broadside=も含む)。揺籃印刷本、インクナブラともいう(incunabulaはラテン語で「ゆりかご」の意味)。

1455年にグーテンベルク(Johannes Gensfleisch zur Laden zum Gutenberg、1398頃-1468)による「グーテンベルク聖書」が出版されてから、およそ半世紀の間に、ヨーロッパ各地の都市(ドイツ、フランス、イギリス、イタリア、ネーデルラントからスウェーデン、スペイン、ポルトガル、コンスタンティノープルなどまで)に活版印刷術が伝わり、約4万版が刊行されたとされている。

キリスト教関係の本や人文主義者の著作などがあり、中には装飾写本を模して手書きで彩色をほどこしたものもある。当時、フィレンツェでもっとも多く出版されたのは、15世紀末のドミニコ会修道士のサヴォナローラ(Girolamo Savonarola、1452-1498)の説教であった。

インキュナブラとされる古書の3分の1は、印刷した事業者、著者、挿絵画家について名前すら書かれていないか、書かれていてもほとんど無名の者によるものであった。今日、印刷者についてはプロクター・ヘーブラー法で判定される。この方法では印刷活字の「M」をリスト化したヘーブラー表と比較することによって印刷者を判定する。また、ページ数、版画の規格などによって、その他の情報が得られることがある。
ヨーロッパの歴史ある図書館では、インキュナブラ(あるいはそれ以前の写本)の所蔵数で歴史的価値が判定され、また、古書収集家はインキュナブラを何冊持っているかを競うことがある。

慶応義塾図書館は1907年に慶応義塾創立50周年を迎えた記念事業として1908年に起工され、1912年に竣工された。設計は曽祢中條(そねなかじょう)建築事務所、施工は戸田組で、1969年に国の重要文化財に指定された。1981年に新図書館が完成したのに伴い、本館は記念図書館、研究図書館として改修再生され、現在、旧館には福沢研究センター、斯道文庫(しどうぶんこ)、泉鏡花(いずみ・きょうか)展示室、大会議室、小会議室がある。

5日18時と8日14時から慶応義塾大学文学部准教授の安形麻理(あがた・まり)さんによるギャラリートークを開く。

安形麻理さんは1976年生まれ、1999年に慶応義塾大学文学部図書館・情報学科を卒業、2001年に同大学大学院文学研究科図書館・情報学専攻修士課程を修了、2003年に英国・ロンドン大学大学院大学院修士課程を修了、2005年に慶応義塾大学大学院文学研究科図書館・情報学専攻博士課程を修了、2006年に同大学文学部助手、2011年から同大学文学部准教授。

2006年に「グーテンベルク聖書と写本の伝統」で三田図書館・情報学会学会賞、2013年に日本図書館情報学会優秀発表賞、2014年に「西洋活字の歴史」の翻訳により、第7回ゲスナー賞「本の本」部門(銀賞)を受賞している。

6日14時から慶応義塾大学理工学部専任講師の池田真弓(いけだ・まゆみ)さんが「インキュナブラの装飾と挿絵」と題して講演する。

7日14時から慶応義塾大学文学部教授の藤谷道夫(ふじたに・みちお)さんが「ダンテ『神曲』の数的宇宙」と題して講演する。

池田真弓さんは2002年に慶応義塾大学文学部哲学科美学美術史学専攻を卒業、2002年9月から2004年5月までアメリカ・ニューヨーク大学美術史研究所に留学、2004年6月から2009年3月まで慶応義塾大学デジタルアーカイヴ・リサーチセンター(DARC) のリサーチ・アシスタントとして勤務した。

この間、2006年10月から2010年12月まで英国ロンドン大学コートールド美術研究所美術史学科に留学、2009年7月から2010年3月までドイツのマインツ・ヨーロッパ史研究所博士課程奨学生として留学、2011年4月から2014年3月まで日本学術振興会特別研究員(PD)、上野学園大学音楽学部非常勤講師を兼務、2012年4月から2013年3月まで明治学院大学文学部芸術学科非常勤講師を兼務、現在、慶応義塾大学理工学部外国語・総合教育教室専任講師。

藤谷道夫さんは1958年広島県生まれ、1983年に慶応義塾大学文学部フランス文学専攻を卒業、1991年に筑波大学大学院文学部文芸・言語研究科(西洋古典学)博士課程を満期退学、この間に1988年までイタリア給費留学生としてフィレンツェ大学に留学した。帝京大学助教授、教授を経て2013年から慶応義塾大学文学部教授。

開場時間は9時から21時(最終日は16時)。入場は無料。

注:「慶応」の「応」と「ローマ式典礼の時祷書」の「祷」は正しくは旧漢字です。名詞は原則として現代漢字(常用漢字)を使用しています。

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