殺陣、撮影にも参加した岡田准一が輝いた「散り椿」(248)

【ケイシーの映画冗報=2018年10月4日】ここ数年、「日本の歴史」がブームになっているそうです。歴史好きの女性を表す「歴女」や、刀剣の展示会が活況といった記事が珍しくなく、一過性のブームではなく、ある程度の定着をしていると思えます。

現在、一般公開中の「散り椿」((C)2018「散り椿」製作委員会)。

こうなると、映画界も歴史ものに食指をのばすと思われがちですが、時代劇の映画作品は活況とは表現しにくくなっています。その最大の理由は「金銭」であり、目の肥えている観客を納得させる映画とするのは、当然ながら十分な資金が欠かせません。

しかし、本作「散り椿」の監督(兼撮影)である木村大作(きむら・だいさく)が語るように、「黒沢明(くろさわ・あきら、1910-1998)のように本物を作ってしまうというのは、相当お金がかかる話だよね」(「散り椿」公開記念特別号)という現実的な制約があるのです。

江戸時代の中頃、扇野藩の不正を正そうとするが受け入れられず、藩を離れた瓜生 新兵衛(うりゅう・しんべえ、演じるのは岡田准一=おかだ・じゅんいち)は、先立たれた妻と最後の約束をかわしていました。「故郷の散り椿を自分の代わりに見てほしい」。

その言葉を胸に故郷にもどる新兵衛ですが、扇野藩としては、過去の不正に関わる「好ましくない存在」ということになります。刺客が放たれますが、「鬼の新兵衛」の異名を持つ剣術の達人である新兵衛はことごとく返り討ちにしていきます。

新兵衛が亡き妻との約束はもう一つありました。剣術の同門で、いまでは藩の要職にある榊原采女(さかきばら・うねめ、演じるのは西島秀俊=にしじま・ひでとし)の命を守ってほしいというものでした。

ところが、当の采女は、旧友との再会を喜びません。じつは藩の不正に関わったとして殺された采女の父を斬ったのが新兵衛ではないか、という疑惑があったためです。やがて、新兵衛と采女はついに剣を交えますが、その決着は・・・。

主演の岡田准一はいま、日本映画界でもっとも脂の乗った俳優でしょう。2015年の日本アカデミー賞で最優秀主演男優賞(「永遠の0」)と最優秀助演男優賞(「蜩ノ記(ひぐらしのき)」)をダブル受賞ということからも納得できます。

若くして絶頂をむかえた人間が陥りやすいのが「驕(おご)り」と「慢心」です。「実るほど/頭を垂れる/稲穂かな」という言葉があるように、謙虚であり続けることは難しいのですが、岡田にはその心配は無用に思われます。

「スタッフの仲間として現場にいるタイプだと思う。もっと芝居のことだけ考えればいいのに、わがままに芝居をすればいいのにって、思ったりしますけどね」(9月22日付読売新聞夕刊)と語る岡田は、本作において主演だけではなく、「殺陣(たて)」と「撮影者」にスタッフとして名を連ねていますから。

「今回は殺陣の構成にも参加させてもらったので、僕もいろいろなアイディアを出しました」、「今回キャメラを回させてもらったシーンがあるのですが」(パンフレットより)というように、スタッフとしての活動も、本格的なものであったと思われます。

殺陣に関しては、芸能界きっての「格闘家」として、複数の武術のインストラクターの資格を持つという岡田はけっして奇異ではありませんが、「撮影」については驚きを禁じ得ませんでした。

なぜなら監督の木村大作は、日本映画界でも屈指の「こわもて映画人」として知られており、前述の黒沢明監督の作品に撮影助手として参加するなど、映画界でのキャリアはおよそ60年という、映画撮影を知り尽くした人物です。

そんな木村にキャメラを託されたというのは、よほどの信頼関係があることの証左でしょう。木村はこう述べています。「芝居の質やセリフの在り方まで、岡田さんは自分の意見をどんどん言ってきました。(中略)本当に互いにセッションしながら作っていった感じがしますよ」(パンフレットより)

なお、木村は「(自身の)次回作の殺陣は出演がなくても岡田准一に」とオファーを掲示したそうです。

本作を鑑賞中、学生時代に演劇科の授業で習ったことをふと、想い出しました。劇中、岡田が演じる新兵衛が、暴れ馬を御するシーンがあるのですが、このとき、本来なら刃が上になるように差す大刀が、逆になっていたのです。ほんとうに小さな部分ですが、これは「天神差し」といって、馬に乗るとき、馬の背に刀の先端(鐺=こじり)が当たらないようにする作法なのです。

まさに「神は細部に宿る」を実感させられる、時代劇の代表作となりうる1本といえるでしょう。次回は「イコライザー2」を予定しています(敬称略。【ケイシーの映画冗報】は映画通のケイシーさんが映画をテーマにして自由に書きます。時には最新作の紹介になることや、過去の作品に言及することもあります。当分の間、隔週木曜日に掲載します。また、画像の説明、編集注は著者と関係ありません)。

編集注:「黒沢明」の「沢」は正しくは旧漢字です。名詞は原則として現代漢字(常用漢字)を使用しています。

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