最後に現実を見せ、厳しさを観客に投げかけた「クランズマン」(260)

【ケイシーの映画冗報=2019年4月4日】数日前、こんな新聞記事を目にしました。
「『人種』の概念、科学で使わないで 米で差別助長を懸念」(朝日新聞3月27日付電子版)

現在、公開中の「ブラック・クランズマン」((C)2018 FOCUS FEATURES LLC,ALL RIGHTS RESERVED.)。制作費が1500万ドル(約15億円)で、興行収入が9149万ドル(約91億4900万円)となっている。

遺伝子研究でノーベル賞を受けたアメリカの高名な学者が、たび重なる「人種差別発言」から、自身が所長を勤めたかつての研究所から名誉職を剥奪(はくだつ)されたというものです。この御仁、おおきな研究の成果はあるものの、一方で「白人以外の人種は劣等」という発言をくりかえしており、「研究成果があるだけに厄介」だったそうです。

ちょうど黒人差別を扱った本作「ブラック・クランズマン」(BlacKkKlansman、2018)を鑑賞した直後でしたので、この事例がつよく印象に残りました。

1970年代なかばのアメリカ。コロラド州コロラドスプリングスの警察署に、警察官としてはじめて黒人のロン(演じるのはジョン・デヴィッド・ワシントン=John David Washington)が採用されます。所内でも同僚に差別されるという状況であったロンですが、ふてくされることもなく、黒人の学生運動への潜入捜査で評価を受けるなど、実力を見せていきました。

そんな時、偶然目にした新聞広告にロンは電話をかけます。相手は白人至上主義を標榜し、過激な活動で知られたKKK(クー・クラックス・クラン)の地方支部でした。その会話が“評価”されたロンはKKKへの入会を求められます。

「黒人がKKKのメンバーになれるわけがない」。ロンは一計を案じ、実際の面接には同僚の白人刑事フリップ(演じるのはアダム・ドライバー=Adam Driver)を行かせることにします。

面接をなんとかこなし、KKKのメンバーとして活動をはじめたフリップ(とロン)でしたが、フリップはじつはユダヤ系で、反ユダヤも掲げているKKKという組織のなかで、自身のアイデンティティを見つめなおすことになります。

ある時、ロンはKKKで爆薬を使った黒人団体への攻撃計画があることを知ります。潜入捜査で親しくなった女子学生の黒人活動家のパトリス(演じるのはローラ・ハリアー=Laura Harrier)もターゲットのひとりでした。

そのタイミングで、なんとKKKのイベントで警備をすることになったロン。ここでロンとフリップが正式にメンバーとなる儀式も予定されています。

ロンは平静をよそおい、黒人への差別が連呼されるKKKのイベントに、内心ではパトリスの身を案じながら、唯一の黒人として参加していたのです。

タイトルとなっているクランズマン(klansman)とは、まさに“KKKのメンバー”という意味で、黒人の参加はありえないはずですが、原作を著したロン・ストールワース(Ron Stallworth、1953年生まれ)は、本当にKKKの幹部と白人として電話をしていたそうです(ただし、実際には、最初は手紙で連絡をとったとのこと)。

当たり前ですが、アメリカ人の英語にも訛りがあり、英国系やフランス系、ドイツ系など、出自によるアクセントや発音の違いは、自分でもわかることがあります。

ロン本人も同僚にこう言われたそうです。「この捜査を成功させることはできない。すぐに黒人と白人の声の違いに気づかれてしまうぞ」(パンフレットより)

しかし、ロンの声に「黒人特有」な部分を見つけることは誰にもできず、ついに正体は露顕(ろけん)しませんでした。

劇中に、KKKの幹部デービッド・デューク(David Duke、1950年生まれ。演じるのはトファー・グレイス=Topher Grace)がロンとの電話で「黒人の英語は発音でわかる」と言い切っているシーンがあります。デービッドは下院議員にもなる(1989年から1992年)、博士号を持ったインテリで、決して無教養な人物ではありませんが、こうした過ちをおかしてしまうのです。

前述の“問題発言”のノーベル賞受賞者のようなノーベル賞を受けた人物(物理学賞)を引き合いに出し、デービッドは「白人の優秀さ」を堂々とスピーチします。

こうした「一見、科学をよそおった学説や学問」は、ナチスドイツが活用していました。遺伝子的に白人が優秀であるという優生学や、頭蓋骨(ずがいこつ)の形状で人種を選別する骨相学といった現在では否定されている学説ですが、いまでもすくなくない人々が、自身の民族や血統を必要以上に神聖視し、他者に排他的にふるまったり、実力行使にまでいたることが散見されます。

前回の「グリーン・ブック」でも触れましたが、過去の問題は現在でも、根深く残っているようです。本作のエンディングはその現実を突きつけており、現況のきびしさを観客に投げかけてくるので、ご留意ください。次回は「バイス」を予定しています(敬称略。【ケイシーの映画冗報】は映画通のケイシーさんが映画をテーマにして自由に書きます。時には最新作の紹介になることや、過去の作品に言及することもあります。当分の間、隔週木曜日に掲載します。また、画像の説明、編集注は著者と関係ありません)。

編集注:ウイキペディアによると、「KKK(クー・クラックス・クラン、Ku Klux Klan)」は、アメリカの秘密結社、白人至上主義団体で、団員は「クークラクサー」、もしくは「クランズマン」と呼ばれた。1865年12月24日に南軍の中将だったフォレスト(Nathan Bedford Forrest、1821-1877)によってテネシー州プラスキで結成され、民主党最右翼の人種差別過激派として保守的な白人の支持を集め、著しい成長を遂げるも、1871年には政府から非合法のテロリスト集団と認定され、摘発が開始され、1874年に自然消滅した。

第1次世界大戦の最中の1915年に、アトランタで白人の伝道師シモンズ (William Joseph Simmons、1880-1945) により2番目の「KKK」が結成され、強硬的な過激派として、従来の黒人差別のみならず、有色人種全体の排撃を主張、さらに、セム人種ユダヤ系やムスリムも攻撃の対象とし、白人貧困層の絶大な支持を集め、一時、会員が500万人に達したが、1944年に当時のKKK指導者が強姦と殺人で有罪判決を受けたことが決定打となり、「第2のKKK」は一気に崩壊した。

1946年に3番目のKKKが結成され、今も存続している。2005年時点での推定では約3000人のメンバーが100から158あるKKK系の団体に所属していたとされる。このうち3分の2の団体が旧南部を拠点にし、3分の1は中西部を拠点にしている。また、現在のKKK系の団体に横のつながりはほとんどなく、中央組織のようなものも存在しない。

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