古典的SFの要素が強くなった新「アイアンスカイ」(268)

【ケイシーの映画冗報=2019年7月25日】「第2次世界大戦の末期、月に逃げのびたナチスドイツの残党が、UFOに乗って現在の地球に攻めてくる」という、トンデモないストーリーの映画「アイアン・スカイ」(Iron Sky、2012年)は、フィンランドの音響技術者であった監督・脚本(共同)のティモ・ヴオレンソラ(Timo Vuorensola)の出世作となったのと同時に、6年の歳月をかけて完成させた作品で、ネット上での募金活動、いわゆる“クラウドファインディング”により資金を調達した映画としても知られています。

現在、一般公開中の「アイアン・スカイ第三帝国の逆襲」((C)2019 Iron Sky Universe, 27 Fiims Production, Potemkino. All rights reserved.)。

「アイアン・スカイ」はかつて本稿でもとりあげましたが(2012年10月11日付)、題材的にもストーリー・キャラクターについても、メジャーな会社では実現について二の足を踏む企画でしょう。そこで骨子をいじり、「会社の思惑に沿った」仕上りとなれば、作品そのものの魅力も減じてしまうはずなので、「面白いけど、ウチではちょっと・・・」というのが一般的な対応になったはずです。

「アイアン・スカイ」の成功によって本格始動した本作「第三帝国の逆襲」(Iron Sky: The Coming Race、2019年)は、前作のラストから物語がはじまります。

月面ナチスとの最終決戦によって、地球は全面核戦争に突入し、壊滅的打撃を受けてしまいます。地球を離れた一部の人々は月面にあるナチスの基地にたどりつき、月面ナチスの残党との共同生活をはじめたのでした。

制作費は1700万ユーロ(1ユーロ=120円換算で約20億4000万円)。制作費は前作の750万ユーロから2倍以上に膨らんでいる。

それから30年、月面に残されたわずかな生き残りの人類も、資源の枯渇から滅亡の危機に直面していました。そんな月面基地に、地球からの訪問者がやってきます。月面で出迎えた女性エンジニアのオビ(演じるのはララ・ロッシ=Lara Rossi)は、パイロットのサーシャ(演じるのはウラジミール・ブルラコフ=Vladimir Burlakov)らから、「地球の地下は空洞になっており、人類の希望となる新エネルギーがある」ことを知ります。

オビは高齢の母レナーテ(演じるのはユリア・ディーツェ=Julia Dietze)を救うため、サーシャや月面の仲間たちと、地球の深部へと分け入ります。しかし、そこは、爬虫類的な種族(レプタリアン)のヒトラー(演じるのはウド・キア=Udo Kier)が“歴史上の極悪な指導者”として率いる、恐ろしい世界でした。オビたちは新エネルギーを月にもたらすことができるのか。恐竜人類ヒトラーの野望とは・・・。

前作が宇宙戦艦まで繰り出した「スペース・オペラ」的な味付けだったのに対し、本作では「秘境探索モノ」や「恐竜世界」といった古典的SFの要素が強くなっています。こうした事例と、ディフォルメされているとはいえ、ナチス=ナチズムが結託するのは、驚いたことに、まるきりデタラメでもないのだそうです。

ナチスの指導者アドルフ・ヒトラー(Adolf Hitler、1889-1945)は、オカルト傾向の強い人物で、“地球空洞説”に関心を示し、実際に“地下へ通じる穴”を探させたという逸話が残っています。一説には「地下の空洞を使って敵国アメリカを地下から直接攻撃する」という構想だったとか。

「いくらなんでも」と思いますが、日本でも大東亜戦争中に「神国ニッポンに迫る敵には“神風”が吹く」とか「歴史上、日本は外敵に不敗である」といったトンデモ言説も一般的にあったので、大同小異かもしれません。

本作をオカルト色が強く、さらに荒唐無稽に仕立てたヴオレンソラ監督ですが、こうも話しています。

「ジョークだったはずの『アイアン・スカイ』の世界がどんどん現実になり、笑えなくなっているということは確実にある。(中略)到底あり得なさそうな話を書くと、次の日にはそれとそっくりな話が現実にニュースとして新聞に載っているんだからね。(中略)風刺的なジョークだったはずのものが現実になっている。(中略)月面ナチスが発見されても驚かないよ」(「映画秘宝」2019年8月号)

後段はさすがにないと思いますが、つい先日の日本での参議院選挙でも、「10年前なら、ちょっとなかったろうな」という結果も出ていますし、世界情勢も予断を許さない状況が散見されます。

監督によると「ナチスは人間の持つ『恐れ』の感情を利用したが、それは『笑い』によって打ち負かすことができるのだ。ナチスの存在をいかにバカバカしく描くか、ということが重要なんだ』(前掲誌)とのことです。

そういえば、没後30年になる“マンガの神さま”手塚治虫(てづか・おさむ。1928-1989)も「マンガの本質は風刺」といった言説を残しています。たしかに、「風刺」を「笑える」ことができなくなった世界は、余り考えたくないものですね。次回は「アルキメデスの大戦」を予定しています(敬称略。【ケイシーの映画冗報】は映画通のケイシーさんが映画をテーマにして自由に書きます。時には最新作の紹介になることや、過去の作品に言及することもあります。当分の間、隔週木曜日に掲載します。また、画像の説明、編集注は著者と関係ありません)。

注:ウイキペディアによると、ナチスとは「国家社会主義ドイツ労働者党(NSDAP)」の略で、1919年1月に前身の「ドイツ労働者党(DAP)」が設立され、1920年に改称した。1921年に第一議長に就任したアドルフ・ヒトラー(1919年10月19日にドイツ労働者党に入党)は、党内でフューラー(Fuhrer、指導者、総統)と呼ばれるようになり、指導者原理に基づくカリスマ的支配を確立した。

結党以来長らく野党だったが、1929年の世界恐慌以降、国民の社会不安を背景に支持を拡大させ、1932年7月の国会選挙で国会の第1党を占めるに至った。1933年1月30日にヒトラーが首相に任命されたことで政権与党となり、一党独裁体制を敷いたが、1945年の第2次世界大戦の敗戦で事実上消滅し、占領中に連合国によって禁止(非合法化)された。

党内ではヒトラーの指導を絶対のものとして受け入れるという点においては、あまり異論はなかったが、ナチ運動の内実は地域ごとの党組織や党職能組織、突撃隊、党有力者がその時々の状況に応じて勝手に活動していることが多く、統一された運動とは言い難い。農民に対する物を除けばまとまった政策綱領のようなものは存在しなかった。しかし、それが党の各組織を競合的に発展させ、運動にダイナミズムを与えた。

世界恐慌による社会不安や議会政治の混迷の原因をすべてベルサイユ条約、ワイマール共和政、ユダヤ人、ボルシェヴィズムに帰せ、強力な指導者が導く「民族共同体」を樹立することが必要であるとする単純なスローガンや運動が持つ若々しさは恐慌に喘ぐ国民に現状突破のシンボルとして広く訴えかけるものがあった。

ナチ党はワイマール憲法体制を一括して全否定することによって自らを既存体制側政党と対決する基本的選択肢であることを示した。競合する他党を影響力を持つ社会的利害団体の傀儡に過ぎないと中傷して自らを唯一の国民運動と宣伝した。

選挙では1928年に12人が当選したのにとどまったが、1933年には得票率が92.2%(7月には政党禁止法によりナチス党以外の政党は禁止)、661人が当選、1936年に741人、1938年には813人が当選した。

1945年4月30日にヒトラーが総統地下壕で自殺した後、遺言によってマルティン・ボルマン(Martin Ludwig Bormann、1900-1945)が「党担当大臣」に任命されたが、遺書は広く知られなかった上に、まもなくボルマンは消息を絶った(総統地下壕脱出の際に青酸で服毒自殺していた)。ヒトラー無きナチス党は統制能力を失い、事実上解散状態となった。
この間にヒムラー( Heinrich Luitpold Himmler、1900-1945)ら一部の幹部は逃亡を図っている。1945年5月8日にドイツ国防軍が連合国軍に降伏し、軍政下に置かれた。10月10日、ドイツの占領統治にあたった連合国管理理事会が発出した連合国管理理事会指令第二によって、ナチス党は廃止・禁止され、名称を変えての再建も禁じられた。

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