監督と主演俳優のアイデア満載の新「ジョン・ウィック」(274)

【ケイシーの映画冗報=2019年10月17日】ハリウッドの人気スター、キアヌ・リーブス(Keanu Reeves)が、伝説の殺し屋ジョン・ウィックを演じたアクション映画「ジョン・ウィック」(John Wick、2014年)は、射撃と格闘技を組み合わせた“ガン・フー”を創出し、実弾射撃をふくんだ徹底的なトレーニングをこなして撮影に臨んだリーブスと、監督(共同)のチャド・スタエルスキ(Chad Stahelski)のはげしくも流麗なアクション・シーンの演出によって大ヒットしました。

現在、一般公開中の「ジョン・ウィック:パラベラム」((R),TM&(C)2019 Summit Entertainment, LLC.All Rights Reserved.)。制作費が7500万ドル(約75億円)、興行収入が3億2170万ドル(約321億7000万円)。

第1作でロシアン・マフィアを壊滅させ、2作目の「ジョン・ウィック:チャプター2」(John Wick:Chapter 2、2017年)で、イタリアン・マフィアのドンを射殺したジョンですが、裏社会の掟を破ったことから世界中の殺し屋に狙われる賞金首となったところから、本作「ジョン・ウィック:パラベラム」(John Wick: Chapter 3-Parabellum、2019年)ははじまります。

雨のニューヨーク。傷だらけで逃走するジョン・ウィックは、襲いかかる敵を倒しながら、ある建物を目指します。そこは表の顔はバレエ劇場ですが、裏の顔はロシア系犯罪組織のアジトで、孤児であったジョンを殺し屋に育てた故郷ともいえる場所で、取り引きとして焼き印を押されたジョンは、苦痛と引き換えにモロッコのカサブランカへ向かうのでした。

その目的はカサブランカにいる、殺し屋の集合組織である“首席連合”のトップと交渉することで、大銃撃戦の結果、約束を交わしたジョンは“掟破り”の罪を償うため、ニューヨークへと戻ります。しかし、そこには最強といわれる格闘技の達人ゼロ(演じるのはマーク・ダカスコス=Mark Dacascos)を筆頭に、無数の刺客が待ち構える絶対の窮地となっていました。

監督のチャド・スタエルスキと主演のキアヌ・リーブスとの親交は20年にもなるそうで、最初の出会いはCGを多用し、斬新な映像でいまも記憶に残るSF映画「マトリックス」シリーズ(The Matrix、1999年から2003年)で、キアヌのスタントをスタエルスキ監督が演じたのが縁となったそうです。

前々回の「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」(Once Upon a Time in Hollywood 、2019年)の主人公コンビのような両人ですが、良好な関係で映画作りに取り組んでいるとのこと。

「監督のチャド・スタエルスキも僕も、アクション映画は大好きなんだ。自分たちなりの料理をしたのが、ジョン・ウィック」(2019年9月27日付読売新聞夕刊)
とキアヌはコメントしていますし、スタエルスキ監督も、「(前略)毎回そうやって集まるたびに、キアヌは山のようにアイディアを持ち込んでくるんだよね。僕も同様」(パンフレットより)と主演俳優との共同作業を楽しんでいるようです。

こうしたアイディアが集束して、日本のニンジャが源泉である黒装束の殺し屋“ゼロ”となったのでしょう。

屋台のようにオープンな寿司屋(“平家”というネオンが)を部下と切り盛りしているゼロ(名前の元ネタは日本の“ゼロ戦”?)は、たとたどしい日本語(演じるダカスコスは日系で日本語は得意)も繰り出すキャラクターで、現実には“あり得ない存在”なのは当然です。

日本産ウィスキーを愛飲するというスタエルスキ監督と、「日本に来るとかならずラーメンを食べる」というキアヌは、劇中のような寿司屋が存在しない(フグは寿司ネタではない)ことは承知のことでしょう。

ですが、「自分たちの神話を作り上げているような気もする」(パンフレットより)というスタエルスキ監督にとって、“寿司職人が表の顔の殺し屋”というキャラクターも、ジョン・ウィックの世界には存在しているのです。

前半、ジョンは馬に乗ってニューヨークの夜を疾走し、これまで手にしてきた最新の銃器ではなく、西部劇に登場する旧式な拳銃で窮地を脱します。これも、「2作目を録り終えた時、僕には馬上にいるジョンのイメージが浮かんでいて」(前掲紙)というキアヌのアイディアの映像化にちがいないのです。

動物では、ジョンが犬と共闘するという状況もあり、もはや“この世のすべてがジョンの戦い”に取り込まれるような勢いすら感じます。

「今は4作目に向かって、色々なアイディアを集めているところ」(前掲紙)と語るキアヌですが、出世作であり、ふたつの才能が結びついた「マトリックス」の新シリーズがスタートするという情報もあり、ジョン・ウィックの新たな戦いはしばらくお預けになってしまうかもしれません。

ですが、両人とも無為に時間をつかうことなく、より一層のアイディアとイメージを盛りこんだ4作目が登場することを、楽しみに待ちたいと思います。次回は「ジェミニマン」を予定しています(敬称略。【ケイシーの映画冗報】は映画通のケイシーさんが映画をテーマにして自由に書きます。時には最新作の紹介になることや、過去の作品に言及することもあります。当分の間、隔週木曜日に掲載します。また、画像の説明、編集注は著者と関係ありません)。