現在の声優につながる弁士の世界を教えてくれる「カツベン」(279)

【ケイシーの映画冗報=2019年12月26日】1897年、当時の最新技術であった、スクリーンに上映されるシネマトグラフが日本にもたらされ、「活動写真」として時代の最先端のメディアとなりました。

現在、一般公開中の「カツベン!」((C)2019「カツベン!」製作委員会)。

当然ながら白黒(モノクロ)で無声(サイレント)でしたので、純粋に“動画”を鑑賞するものでしたが、世界で日本でのみ、“音声”が加えられました。映画の内容を説明し、登場人物のセリフを語る“活動弁士(カツベン)”は、日本での映画創成期から登場した日本独自の映画の興行形式だったのです。

大正の終わり。子どものころから活動弁士に憧れていた青年、染谷俊太郎(そめや・しゅんたろう、演じるのは成田凌=なりた・りょう)は、弁士としての力量がありながら、実力者弁士をかたる“インチキ弁士”として、ドロボウ一味と行動を供にしていました。

語り芸といっても、悪事の“カタリ”をする生活を見切りをつけた染谷は、悪事で得た大金を手に、地方の小さな映画館「青木館」へ下働きとして身を寄せます。

そこでは、染谷の目標としていた山岡秋聲(やまおか・しゅうせい、演じるのは永瀬正敏=ながせ・まさとし)が酒びたりながら、座付きの弁士となっていました。あるきっかけから、国定(くにさだ)という名前で「青木館」の弁士となった染谷は、おなじ劇場の人気弁士である茂木(もぎ、演じるのは高良健吾=こうら・けんご)にライバル視されながら、弁士としての人気を確立していきます。

そんな染谷に女優をめざしているという栗原梅子(くりはら・うめこ、演じるのは黒島結菜=くろしま・ゆいな)が声をかけてきます。染谷と梅子は、10年ぶりに再会した幼なじみであり、弁士と女優という、将来の夢を語り合ったふたりでもあったのです。

そして、染谷が隠していた大金がおもわぬトラブルを生み、ライバルの映画館や袂(たもと)を分かったドロボウ一味、それを追う警察も巻き込んだ騒ぎへと発展していきます。
監督の周防正行(すお・まさゆき)は、初期の日本映画について、こう述べています。
「サイレント(無声)映画をサイレント(無音)のままで見ていた人なんていない。当時の観客は、語りと音楽とともに映画を楽しんでいたという当たり前の事実に気づいたんです」(2019年12月13日付読売新聞夕刊)

日本独自の文化である活動弁士を映画化したことは、
「少なくとも誕生から30年間、日本映画を支えていた人たちの中に活動弁士がいたことを知っていてほしいんです」(パンフレットより)
とコメントされています。

コメディから社会派作品まで、さまざまなジャンルの作品を手がけてきた周防監督ですが、時代物(設定はおよそ100年前)の映画を手がけたのは初めてだそうで、入念な準備をして作品にのぞむことで知られるだけあって、本作でも3年ほどの準備期間をかけたそうです。

一般的な映画では、すでに見られなくなった活動弁士ですが、全盛期(本作の時期)で全国に約8000人の弁士がいたそうで、現在でも10数名の方が活動弁士としての仕事をされています。

落語や講談、浪曲など、演者がひとりで語りかける“しゃべり芸”の基礎は、鎌倉期に生まれた“説教節”だといわれています。こうした“話芸”と日本人は相性が良いようで、近似の文化が他の国ではないように感じます。

そういえば、日本のテレビのレギュラー番組で視聴率74.2%という最高記録を持つのは、アメリカの実写ドラマ「スーパーマン」(Adventures of Superman、日本では1956年から放送)でした。原音は英語なので、日本の声優による“吹き替え”で、放送当初は、放送時間に合わせての一発勝負だったそうです。これこそ、テレビで復活した“活動弁士”だったのかもしれません。

こんなことを思い浮かべてしまうのも、周防監督のこんな一文を目にしたからでしょうか。
「活動弁士が出て来て『待ってました!』って声がかかり、映画が始まる。(中略)しゃべりも毎回変わって、一回一回が勝負だった……。日本人が声優大好きっていうのも、日本の語り芸の歴史があってのことだと思います」(「映画秘宝」2020年1月号)

いま、日本の声優は世界的な人気となり、海外のイベントにも呼ばれることも多くなっているそうです。

先述の「スーパーマン」に出演されていた声優の愛称のひとつが“ヨイドレベンシ”だったことを思い出しました。本作はタイトルの「カツベン!」という、古くて新しい“活動弁士の世界”にひたらせてくれる楽しい作品だといえるでしょう。次回は「スターウォーズ スカイウォーカーの夜明け」の予定です(敬称略。【ケイシーの映画冗報】は映画通のケイシーさんが映画をテーマにして自由に書きます。時には最新作の紹介になることや、過去の作品に言及することもあります。当分の間、隔週木曜日に掲載します。また、画像の説明、編集注は著者と関係ありません)。

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