2020年を先取りした古くて新しい30年前の「アキラ」(287)

【ケイシーの映画冗報=2020年4月16日】2013年9月7日、2020年のオリンピック・パラリンピックが東京での開催となりました(過去形ですが)。このとき、古手のSFやアニメ、マンガのファンは(もちろん、映画好きも)、ある作品を連想したはずです。

4月3日よりIMAXシアターで上映されている「AKIRAアキラ」((C)1988マッシュルーム/アキラ製作委員会)。

緻密(ちみつ)な描き込みとインパクトのある作風で知られるマンガ家・大友克洋(おおとも・かつひろ)が1982年から1990年にかけて雑誌連載し、原作者自身が監督したアニメ映画として1988年に公開された「AKIRAアキラ」です。

1988年に勃発した「第3次世界大戦」から、30年で復興したネオ東京。この新世界では、2020年の東京オリンピックを目前にして、権力を駆使する軍部と反政府組織が各地で衝突し、行き場のない若者が荒々しく疾走する、すさんだ世相となっていました。

そんな、復興と混沌(こんとん)がない交ぜになった近未来の都市を舞台に、世界を粉砕してしまうほどのスーパーパワー“アキラ(AKIRA)”をめぐっての暗闘や、権力によって人生を歪められてしまった人々が描かれ、マンガとしてもSF作品としても高く評価されています。

2019年のネオ東京。少年不良チームのリーダーである金田(かねだ、声の出演は岩田光央=いわた・みつお)は、対立する暴走集団との抗争のなかで、仲間の鉄雄(てつお、声の出演は佐々木望=ささき・のぞむ)が軍の組織に連れ去られてしまうのを目撃します。指揮官の大佐(たいさ、声の出演は石田太郎=いしだ・たろう)は鉄雄に、かつて世界を破壊した存在“アキラ”との接点を見いだし、鉄雄の能力を覚醒(かくせい)させます。

ナンバーズと呼ばれる超能力者たちを越えるほどのパワーを得た鉄雄は、自身の能力にとまどいながら荒れ狂います。大佐は軍部隊を、ナンバーズは超能力を、そして、金田は“健康優良不良少年”(原作コミックより)の生命力で、暴走する鉄雄に挑んでいくのでした。

この作品、1988年という実質的な“昭和最後の年”の公開ということもあってか、製作当時の現状と将来への傾向がない交ぜとなっている部分があります。

現在のアニメでは、フィルムによる撮影はほぼ消え、アニメーターの握るペンで描かれ、筆で彩色されたセル画も淘汰されてしまっています。

本作では作画枚数が15万枚と、通常の劇場用アニメの2倍から3倍の枚数が使われており、セル画用の絵具が50色、あたらしく用意されました。このときはまだ、人間の腕と筆がアニメを産み出していたのです。

現状、アニメの作画作業はほとんどデジタル化されており、人為的な作画ミスがほぼ根絶された反面、ヒトの手による、ある種の“妙味”が喪われたという意見もあります。その反面、ごく一部のシーンですが、CGによる画像もあり、日本の映像作品としては、かなり早くコンピューターによる映像も取り入れていました。

また、本作はアニメ映画として、当時では破格の製作費10億円が投入され、現在の日本映画界では主流となっている製作委員会方式(複数の会社が資金を出し合い、一社ごとのリスクを軽減させ、作品にまとまった資金を投入する)を思わせる体制となっていました。

リスクの軽減という、経営者サイドとしては評価されるシステムですが、最近では、実務運用上の決定権が“船頭多くして”という状況となり、齟齬(そご)が生じているという指摘も出ています。

その一方で、2019年という“本年の1年前”の設定でありながらコンピューターは研究専門で、携帯(電話)はおろか、“スマホ”もインターネットも存在しません。ちなみに、日本国内でインターネット接続サービスが開始されるは1993年、本作公開時の5年後になります。

ストーリーの基本も、「新型爆弾の爆発と戦後復興の混乱期」という現実世界の1960年代から1970年ぐらいまでの日本を下敷きにしているのは真実でしょう。そのころは過激派やデモ隊がめずらしくなかったですし、爆弾騒ぎや成田空港の闘争など、世情も騒然としていたので、「あの時代のなぞりなおし」という見方をしても、納得できる「古くて新しい」作品なのは間違いありません。

さて、4月11日の時点で、新型コロナウイルスの影響で日本国内で公開が延期された新作映画は90本以上といわれています。映画館も閉まり、上映作品を楽しむことができない状況となっています。

ハリウッドを代表する世界的映画人がこんなことを言っていました。
「映画は試写室で観るものじゃない。映画館で回りの観客と一緒にポップコーンを食べながら観るものだ」

できなくなってはじめて、その楽しさに気付くことがあると、あらためて、考えさせられています。次回も、なんらかのかたちで映画についてお伝えいたします。スクリーンで作品に出会えるその日まで(敬称略。【ケイシーの映画冗報】は映画通のケイシーさんが映画をテーマにして自由に書きます。時には最新作の紹介になることや、過去の作品に言及することもあります。当分の間、隔週木曜日に掲載します。また、画像の説明、編集注は著者と関係ありません)。