インド、居住地に初感染者、盛大な「山車祭」も微妙に(14)

【モハンティ三智江のインド発コロナ観戦記=2020年5月19日】5月11日、コロナフリー(感染者ゼロ)だった当地オディシャ(Odisha)州プリー(Puri)に感染者が3人出た。初期(4月3日)に30キロ離れたプリー地方のアップリケ手工芸品で有名な町ピプリで1人出ていたが、既に回復、以後5週間感染者が出ておらず、住民の気も緩んでいた矢先のことだった。

毎年、6月中旬から7月初旬にかけて開かれる盛大な山車祭「ラト・ヤートラ」は聖地プリーの名物、一見の価値はある大祭だが、コロナ下の敢行決定で山車作りが進められた矢先、感染者が出て催行が危ぶまれる。

そもそも、当オディシャ州は全土に3日先駆けたロックダウン(都市封鎖)を3月22日からスタート、延長に次ぐ延長で51日目に達したところで、ヒンドゥ教の4大聖地のひとつとして名高い当プリータウンが直撃されたのである。

やはり、神頼みは当てにならなかったか、6月23日に観客なしで敢行予定だった山車祭(ラト・ヤートラ)の催行も、危ぶまれる雲行きとなってきた。わが家からから4キロ離れたグランドバザールの一角に設けられた作業場では、200人以上の大工衆が厳重な警備の下、山車(だし)作りに勤(いそ)しんでおり、45日間隔離を命じられ州政府経営のロッジから通勤、朝の8時から夜の22時まてぎっちり、2交代制で従事しているという。車体はほぼでき上がり、16ある主神の巨大な車輪作りに入っているそうな。

そもそも、全土で6万人突破(6万7152人)とウイルスが猛威を振るう中、決行しようというのが無謀だが、このお祭は一旦キャンセルされると、以後12年間は催行不可との慣例があるせいで、州政府としても、各方面からのプレッシャーもあり、折れざるを得なかったようだ。前々回の12回(5月12日付)でも触れたように、ジャガンナート寺院周辺は、ヘリテッジ(遺産)化すべく急ピッチで発展整備が進められており、完成の暁には、観光効果大、売りの名物大祭が12年もストップするのは痛いというわけだ。

偶像崇拝のヒンドゥ教だけに、絵や置物のほか、神さまがテーマのジャガンナート・グッズは大人気だ。

私見では、目と鼻の先で感染者が出た以上、祭は中止すべきと思うが、どうなるかは、今後の推移を見ないとわからない。

さて、11日現在の当州全体の感染者数は377人と急増、これは州政府が州外の出稼ぎ労働者を受け入れたせいである。先に5万5000人もの移民労働者の引き揚げ、さらに4700人の追加労働者がこのほど4列車で帰郷、隔離施設へ送られた。ロックダウン下都市部で失職するも、帰る術を持たず、窮地に陥っていた貧困層の労働者を、人道上からも見殺しにはできなかったのである。

当州ならず、他州も同様、自州出身者の労働者救援に乗り出している。票田狙いという政治絡みの思惑もあるのだろうが、当州のガンジャム(Ganjam)地方から西インド・グジャラート州(Gujarat)のスーラト(Surat)にあるダイヤ工場に出稼ぎに行っていた労働者はおかげで救われた。

1日83人と急上昇した感染者内訳のほとんど(63人)は、このスーラト帰りである。帰還者は全員隔離センターに収容されており、州政府としても、多数の陽性者が出ることは想定済みで準備を怠らなかったようだ。

それにしても、そろそろ浜に出てみようかと思っていた私は、冒険心をくじかれ、がっくり、17日以降4度目の封鎖延長もありえそうで、軟禁生活51日の記録はまだまだ延びそうである。

(「インド発コロナ観戦記」は「観戦(感染)記」という意味で、インドに在住する作家で「ホテル・ラブ&ライフ」を経営しているモハンティ三智江さんが現地の新型コロナウイルスの実情について書いており、随時、掲載します。モハンティ三智江さんは福井県福井市生まれ、1987年にインドに移住し、翌1988年に現地男性と結婚、その後ホテルをオープン、文筆業との二足のわらじで、著書に「お気をつけてよい旅を!」(双葉社)、「インド人には、ご用心!」(三五館)などを刊行しており、感染していません。

また、息子はラッパーとしては、インドを代表するスターです。13億人と中国に次ぐ世界第2位の人口大国、インド政府は3月24日に全28州と直轄領などを対象に、完全封鎖命令を発令し、25日0時から21日間、完全封鎖し、4月14日に5月3日まで延長し、5月1日に17日まで再延長し、5月17日に31日まで延長することを決めました。これにより延べ68日間となります。ただし、5月4日から段階的に制限を緩和しています。

5月18日現在、インドの感染者数は9万5698人、死亡3025人。州別の最新の数字の把握が難しく、著者の原稿のままを載せています。また、インドでは3月25日から4月14日までを「ロックダウン1.0」とし、4月14日から5月3日までを「ロックダウン2.0」、5月1日から17日までを「ロックダウン3.0」、18日から31日を「ロックダウン4.0」と分類していますが、原稿では日本向けなので、すべてを「ロックダウン」と総称しています)