インド、オディシャは健闘、首都が感染爆発で医療崩壊の危機も(22)

【モハンティ三智江のインド発コロナ観戦記=2020年6月18日】6月11日現在、インド全土の感染者数は28万7000人、1日の感染者数も1万人目前とアメリカ、ブラジル、ロシアに次いでワースト4位、当オディシャ州(Odisha)も3386人(死者9人)と増えた。ただし、当州の場合、回復率が70%と高く、致死率に至っては、わずか0.27%と、インドでももっとも低い。当地プリー(Puri)も118人中、既に92人が回復、死者は3人である。

日本はそろそろ梅雨入り、あじさいが美しい時節だろうか。昨年のこの時期の写真を見て、好きな花をしのぶ。

当州が回復率が高く、致死率が極めて低いのは、ベンガル湾に面した位置で湿気が多いことと関係があるのかもしれない。とにかく、都市部の出稼ぎ労働者を何万人と引き揚げさせた割には、よく健闘している方である。ほとんどが隔離センターからの陽性者で、回復者を除いた実質的な感染者は1092人だ。

当地はグリーン・ゾーンなのに、土日はバザールも閉められ、まるでロックダウン(都市封鎖)初期のような緊迫感、表通りは閑散としている。が、ウィークデー(平日)は車も目立って増えてきて、それなりの活気は戻ってきている。

さて、ここに来て急に感染爆発が懸念されているのは、首都デリー(Delhi、感染者数3万2810人で、マハラシュトラ州=Maharashtra=9万4041人、タミルナドゥ州=Tamil Nadu=3万6841人に次ぐ)で、州首相が緩和策を講じ出してから、1日1000人以上増え続け、今日は1500人以上と、パニクった州副首相がこのままでは7月末には、首都だけで50万人に拡大すると、住民の恐怖を煽り立てるような発言をし、今後、推移を見ながら中央政府と協力して緩和措置を慎重に進めていく判断が要されそうだ。ベッド数が足りず、既に医療崩壊、ひと頃のニューヨークみたいなパニックに陥っている。医療制度が脆弱なだけに、なおさらだ。

それはさておき、中央政府としては、初期4度にわたって行われたロックダウンをひとまず解除して、低迷している経済回復のため、緩和措置を徐々に進めていく舵取りに転換したばかりて、この背景には、新型コロナの正体がやや掴めてきたことがあるようだ。

当初は感染者3億人の推定も一説には出ていたため、経済より人命優先で厳格な封鎖に踏み切ったのだが、蓋を開けてみると、現時点で死者は8000人以上と、予想したよりずっと少なく、コロナとの共生を図っていく方針に切り替えたのだ。

金沢の民家の塀から覗いていたガクアジサイ(2019年6月)。金沢は、「弁当忘れても、傘忘れるな」の名言があるくらい、雨量の多い地域、コロナ収束の街中には、色とりどりの傘の花が咲いているだろう。

インドでは、毎年15万人もの人が交通事故死しており、狂犬病による死者も2万人、いまだに治療薬のないデング熱による死者も多い。伝染病が今もって蔓延している中進国で、国民も感染症に強い免疫体質ができている。実際、欧米諸国に比べ、感染率も低いし、致死率も世界平均の半分である。そうした事情を鑑みて、コロナと共存しながらの、経済再開に向けて動き出したのである。

数だけ見れば、世界第4位で、すぐにイギリスを抜いてワースト3に踊り出るだろうが、人口が13億人以上、アメリカの3億人、ブラジルの2億人の比でない。イギリスは6600万人と1億人にもはるかに届かない。

緩和に踏み出した以上、人は動くし、感染増大のリスクは避けられず、今後も増え続けていくだろう。今月末で50万人に達する予測は立てているが、なろうことなら、デリーだけで7月末で50万人という空恐ろしい事態だけにはなってほしくない。

●身辺こぼれ話/ステイホームの気晴らし

最近、さすがにコロナ疲れで、YouTubeで日本の昔のドラマを観て、気散じしている。 先日、武田泰淳(たけだ・たいじゅん、1912-1976)原作の「貴族の階段」(1991年のTBSドラマ、3回シリーズ)を鑑賞、面白かった。2・26事件がテーマになったものだが、主演の若い女優の演技力がなかなか、斉藤由貴(さいとう・ゆき)とあって、私の中のイメージでは、目が大きいアイドル歌手という印象があったが、メーキャップのせいか、公家風の上品な顔立ち、またそれが役柄に合って、はまり役、脇を固めるベテラン俳優連、平幹二郎(ひら・みきじろう、1933-2016)や、山村聡(やまむら・そう、1910-2000)、杉村春子(すぎむら・はるこ、1906-1997)の名顔ぶれは、既に亡くなっているだけに、見ているだけで懐かしかった。

筋書きはネタバレになるので、ここには記さないが、興味のある方はYouTubeで検索してみてほしい。全編緊迫感を孕んだドラマで、ホームドラマにありがちのたるみがなく、飽きることなくフルに楽しめる、一押し名ドラマだ。

(「インド発コロナ観戦記」は「観戦(感染)記」という意味で、インドに在住する作家で「ホテル・ラブ&ライフ」を経営しているモハンティ三智江さんが現地の新型コロナウイルスの実情について書いており、随時、掲載します。モハンティ三智江さんは福井県福井市生まれ、1987年にインドに移住し、翌1988年に現地男性(2019年秋に病死)と結婚、その後ホテルをオープン、文筆業との二足のわらじで、著書に「お気をつけてよい旅を!」(双葉社)、「インド人には、ご用心!」(三五館)などを刊行しており、感染していません。

また、息子はラッパーとしては、インドを代表するスターです。13億人超と中国に次ぐ世界第2位の人口大国、インド政府は3月24日に全28州と直轄領などを対象に、完全封鎖命令を発令し、25日0時から21日間、完全封鎖し、4月14日に5月3日まで延長し、5月1日に17日まで再延長、17日に5月31日まで延長し、31日をもって解除しました。これにより延べ67日間となりました。ただし、5月4日から段階的に制限を緩和しています。

6月18日現在、インドの感染者数は34万3091人、死亡者数が9900人。すでにイギリスを抜いて、アメリカ、ブラジル、ロシアに次いで4位になっている。州別の最新の数字の把握が難しく、著者の原稿のままを載せています。また、インドでは3月25日から4月14日までを「ロックダウン1.0」とし、4月14日から5月3日までを「ロックダウン2.0」、5月1日から17日までを「ロックダウン3.0」、18日から31日を「ロックダウン4.0」、6月1日から「アンロックダウン(Unlockdown)1.0」と分類していますが、原稿では日本向けなので、すべてを「ロックダウン/アンロックダウン」と総称しています。

ただし、インド政府は5月30日に感染状況が深刻な封じ込めゾーンについては、6月30日までのロックダウンの延長を決め、著者が住むオディシャ州は独自に6月末までの延長を決めています。この政府の延長を「ロックダウン5.0」と分類しています)