電流戦争を通してエジソンの天才性が見える「エジソンズ・ゲーム」(292)

【ケイシーの映画冗報=2020年6月25日】先月末、こんな報道がありました。
「ゼネラル・エレクトリック(GE)、照明事業を売却」
<照明事業は、トーマス・エジソンの発明による実用的な発熱電球に始まる同社の原点であるが、業績不振がつづき、売却先が検討されていたが、今回、成立した>

現在、一般公開中の「エジソンズ・ゲーム」((C)2018 Lantern Entertainment LLC. All Rights Reserved.)。制作費が3000万ドル(約30億円)、興行収入が1080万ドル(約10億8000万円)。

「発明王」としてアメリカを代表する人物であり、日本でも偉人伝の定番となっているトーマス・A・エジソン(Thomas Alva Edison、1847-1931)は、生涯で1000を越える発明や技術革新を成しとげたのですが、かなりの“利かん坊”で、対立する相手には、マスコミを使ったキャンペーンや訴訟などで戦いを挑む人物でもありました。

本作「エジソンズ・ゲーム」(原題:The Current War、2017年)で、19世紀の後半、人類のあつかう照明が“炎”だった時代、エジソン(演じるのはベネディクト・カンバーバッチ=Benedict Cumberbatch)は、自分の発明した電球と、自説の“直流送電”によって、「闇を葬る」と宣言します。

列車を安全に停止させる“エアブレーキ”の発明によって富を得た実業家のジョージ・ウェスティングハウス(George Westinghouse,Jr、1846-1914、演じるのはマイケル・シャノン=Michael Shannon)は、そのエジソンに共同事業を持ちかけますが、無視されてしまいました。地位や名声を意識しないエジソンにとって、実業家という存在は、興味の対象ではなかったのです。

やがて、直流よりも大きな電力を供給できる“交流送電”をウェスティングハウスは大々的に発表、エジソン陣営への挑戦を表明します。

「人殺しには関与しない」と語っていたエジソンでしたが、“交流送電”への対抗措置として、“電気椅子”という存在に手を染めます。また、自身の特許権侵害をマスコミに広めるといった手段で立ち向かっていくのでした。

この作品には、元プロデューサーのハーヴェイ・ワインスタイン(Harvey Weinstein)のカット版とアルフォンソ・ゴメス=レホン監督のディレクターズ・カット版があり、日本で現在、公開されているのはディレクターズ・カット版となっている。

豊富な資金を活用し、“交流送電網”を広げていくウェスティングハウスは、ひとりの発明家に声をかけます。かつてエジソンの元で働き、“交流式”の採用という意見を容れられずに仲たがいをしたニコラ・テスラ(Nikola Tesla、1856-1943、演じるのはニコラス・ホルト=Nicholas Hoult)で、彼を引き入れることで、“電流戦争”の最終決着を画策していました。

一見すると「天才発明家と資本家とのたたかい」にも見える構図となっていますが、本作で描かれる人物たちは決して単純な表現で描写されてはいません。

監督のアルフォンソ・ゴメス=レホン(Alfonso Gomez-Rejon)はこう述べています。
「ウェスティングハウスには人々の生活を良くしたいという思いしかなく、有名になることに興味はなかった。対するエジソンは、自身の社会的イメージを意識していた。(中略)脚本には“エゴ対謙虚さ”という問題が喚起されていた」(パンフレットより)

天才にありがちな「自身より非力な存在を容認できない」感性の持ち主であるエジソンに対し、ウェスティングハウスは、現在では一般的となった「週5日間労働」を提言し、経営危機に直面すると、最初に社員の雇用確保を求めるなど、“傲慢(ごうまん)な大金持ち”といったイメージはあまり感じられません。

18世紀に独立して100年ほどしか経っていない当時のアメリカには、代々の大富豪や王侯貴族は存在せず、成功者のほとんどが“成り上がり者”だったのです。

そんな時代、アメリカで財を築くおおきな手段の一つがエジソンやウェスティングハウス、テスラたちが取得した「パテント/特許」であり、その権利を法律で保護するという、アメリカ政府の方針でした。

現在のように、さまざまな分野で特許や版権など、いわば“かたちのないアイディア”や著作権、キャラクターといった“知的財産権”が認められるようになり、「ひとつのアイディアが莫大な富を生む」時代を向かえたため、エジソンのような発明家が活躍できたのでしょう。

エジソンたちの“電流戦争(原題)”によってアメリカの電気技術は急速に発達し、20世紀になると、世界一の電気先進国となります。軍事技術にくわしい友人によると、戦艦や空母をモーターで(発電は蒸気機関)動かしたのはアメリカ海軍だけとのこと。また第2次世界大戦中のアメリカの軍艦は、他国の軍艦よりも発電能力が高かったので、レーダーのような電気で動くシステムへの対応もうまくこなせたのだそうです。

そして、現在のネットワーク社会の基幹であるパソコンやスマートフォンの電源はエジソンの提唱した“直流”で給電されています。いまの時代にエジソンが生きていたら、ネットやスーパーコンピュータ-を駆使して、すばらしいなにかをなし遂げるかもしれません。次回は「ランボー ラストブラッド」の予定です(敬称略。【ケイシーの映画冗報】は映画通のケイシーさんが映画をテーマにして自由に書きます。時には最新作の紹介になることや、過去の作品に言及することもあります。当分の間、隔週木曜日に掲載します。また、画像の説明、編集注は著者と関係ありません)。