韓国のスター3人がアウトローに徹した「悪人伝」(295)

【ケイシーの映画冗報=2020年8月6日】「これは二人の殺人者の戦いである。一人はバッジを付けている」、1971年のハリウッド映画「ダーティハリー」(Dirty Harry)のアメリカでのキャッチ・コピーです。

現在、一般公開中の「悪人伝」((C)2019 KIWI MEDIA GROUP. ALL RIGHTS RESERVED)。2005年に韓国で起こった殺人事件を元に企画制作され、ヤクザのボスを演じたマ・ドンソクは将来、米アカデミー賞で主演男優賞を獲得する可能性を感じさせるほどの俳優だ。

「犯罪とそれに対峙する存在」がだんだんと似通ってくることは珍しくないそうです。実際、テレビの「実録警察番組」の関係者にうかがったのですが、ヤクザの事務所への強制捜査のシーンでは「音声だけ聞いていると、ヤクザと警察の区別がつかない」のだそうです。

本作「悪人伝」(2019年、The gangster, The cop, The devil)の主人公、チャン・ドンス(演じるはマ・ドンソク=Ma Tong-Seok)は、腕力で組織を仕切る韓国ヤクザのボス。そのドンスが深夜、何者かに刃物で襲われます。一命をとりとめたドンスは、敵対組織の仕業と思い、相手への報復と犯人探しをはじめます。

そんなドンスに、こちらも破壊衝動の横溢なチョン・テソク刑事(演じるはキム・ムヨル=Kim Mu-Yeor)が接近してきました。チョン刑事は、連続殺人犯の被害者で唯一の生存者であるチャンに「犯人逮捕」への協力を持ちかけます。ヤクザと刑事という立場から、最初はぎこちなかった“共同捜査”も円滑に動くようになり、その後も犯行をかさねる姿なき殺人者(演じるはキム・ソンギュ=Kim Seong-Kyu)を追い詰めていくのでした。

監督・脚本のイ・ウォンテ(I Won-Thae)は、本作のポイントをこう述べています。
「善と悪を戦わせて美徳をアピールするのではなく、(中略)善と悪の相対性を問う映画にしたいと考えました。状況によっては、善が悪になり、道徳が不道徳になり、時には悪も善になる。そういったことを描ければと思ったのです」(パンフレットより)

敵対する相手には存分に制裁を加えるドンスですが、親分ということもあって豪奢(入院中も)な生活を送っています。一方のチョン刑事は、「渋滞に腹がたって」違法カジノに飛び込んで暴れるという司法もへったくれもないアウトローですが、「連続殺人犯を捕らえ、解決したい」という警官としての純粋さも持ち合わせています。

こうした背景を見せないのが連続殺人犯です。配役されたキム・ソンギュも「殺しの動機がはっきりしておらず、(中略)とにかく情け容赦のない殺人鬼と言えるでしょう」(パンフレットより)と分析しています。

作中でもクレジットされますが、本作の英語タイトル「The Gangster, the Cop, the Devil」、直訳すると“ギャングスター、警官、悪魔”ですが、ここで思い浮んだのが1966年のマカロニウェスタン「続・夕日のガンマン」の英語タイトル“The Good, the Bad and the Ugly”(善人・悪人・ズルい奴)でした。この作品の“善人”役は「ダーティハリー」のハリー刑事であるクリント・イーストウッド(Clint Eastwood)でした。

ヤクザ、刑事、殺人犯の三つ巴のなかで、ヤクザであるドンスを演じたマ・ドンソクのキャラクターは特筆するべきでしょう。韓国出身のドンソクは、家庭の事情で18歳のとき、一家でアメリカに移住、クラブの用心棒から皿洗いまでこなしながら大学で体育学を専攻、当初はスポーツ・トレーナーとして働きながら、現地で俳優となり、やがて韓国の作品からも声がかかる“逆輸入俳優”といえます。

そして、テレビドラマ出身だったイーストウッドも、イタリアで撮影されたマカロニウェスタンでの高評価によって、アメリカ映画界に凱旋したという経緯がありますので、共通点かもしれません。

今年のアメリカのアカデミー賞で、作品賞など4部門に輝いた「パラサイト 半地下の家族」(Parasite、2019年)をはじめ、韓国映画の世界進出は着実です。「悪人伝」も、ハリウッドでのリメイク作品が、「ロッキー」(Rocky)、「ランボー」(Rambo)シリーズのシルヴェスター・スタローン(Sylvester Stallone)のプロデュースによって進められており、ヤクザ役のマ・ドンソクはなんと同じ役柄での出演が予定されているそうですし、ドンソク少年が俳優を志したのも「ロッキー」の鑑賞が原点だったそうです。

イーストウッド、スターロンはともに俳優だけでなく監督(イーストウッド)や脚本(スターロン)でも評価を確立しています。ドンソクも自身で“チーム・ゴリラ”という会社を設立し、積極的に活動しているそうです。

「世界中のより多くの人々を楽しませるために、もっと映画を届けていきたいですね。それが私の目標です」(パンフレット)と語るドンソクも、いつの日か、アメリカのアカデミー賞で栄誉を得るときが来るのではないでしょうか。決して不可能ではないはずです。次回の作品は未定とさせていただきますが、映画の話題を提供させていただきます(敬称略。【ケイシーの映画冗報】は映画通のケイシーさんが映画をテーマにして自由に書きます。時には最新作の紹介になることや、過去の作品に言及することもあります。当分の間、隔週木曜日に掲載します。また、画像の説明、編集注は著者と関係ありません)。

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