予定調和にせず、破綻しない作画でシリアスに描く「日本沈没2020」(303)

【ケイシーの映画冗報=2020年11月26日】過日、検査目的で短期の入院をいたしました。自分が書籍や映像作品に入れ込むようになったのは、幼少期、3週間ほどの入院を経験したのが大きかったと自己分析してします。

現在、一般公開されている「日本沈没2020劇場編集版 シズマヌキボウ」((C)“JAPAN SINKS : 2020”Project Partners)。

このときに読んだ本の1冊が「宇宙人のしゅくだい」という子ども向けの短編小説集でした。作者の名前が読めなかったことを憶えています。

小松左京(こまつ・さきょう、1931-2011)。日本SF小説界の大家にして博覧強記、まさに“知の大巨人”ともいえる存在で、今年最大のニュースに違いない「新型コロナ」の世界的流行を予言したとされる小説「復活の日」(1964年)の著者としても知られています。

2020年の東京。将来のオリンピック陸上選手として練習にはげむ中学3年生の武藤歩(むとう・あゆむ、声の出演は上田麗奈=うえだ・れいな)は、練習を終えた直後のロッカールームで大規模な地震に遭遇します。

建物が崩落し、犠牲者が横たわる市街を抜けて辿り着いた自宅近くで、小学2年の弟である剛(ごう、声の出演は村中知=むらなか・とも)とフィリピン出身の母親マリ(声の出演は佐々木優子=ささき・ゆうこ)、建築会社に勤める父親の航一郎(こういちろう、声の出演はてらそままさき)と合流し、ネットの断片的な情報をもとに、安全地帯を求めて移動をはじめます。

大きな地震が幾度も発生し、安全、安心、安定を失った日本で、歩たちは生き残ることができるのか。

本作「日本沈没2020」はもともと映画作品ではなく、ネット配信による全10話の作品で、これを劇場用に再構成したものとなっています。本作の「勧進元」である「ネットフリックス」は世界最大の動画配信サービスのメディアで、全世界で1憶9500万人の会員に提供するため、独自のコンテンツを産み出しています。

世界的に評価の高い日本のアニメの新作にも積極的で、制作時に“世界規模”での配信を前提としているため、他言語での視聴を前提(およそ30言語の音源か字幕)として作られているというのも、ネット時代を取り入れた発想でしょう。

本稿でいくどもふれていますが、コロナ問題によって社会は大きな変化を求められています。ハリウッドでもメジャーな大作がアメリカ各地での映画館の閉鎖から、公開の目処がたたず、劇場公開を取りやめてしまい、ネット配信に切り替えるといった事象も起きています。

本作の原作小説「日本沈没」が発行されたのは1973年で、作者の小松左京が執筆を開始したのが1964年なので、前回の東京オリンピック(同年)、大阪の万国博覧会(1970年)のような高度成長から第一次オイルショック(1973年)による世界的な経済危機までの9年間を要したことになります。

「時代が作品を呼んだのか、作者が時代を読んだのか」

個人的には両者がかみ合ったのだと思いますが、「日本沈没」は上下巻で380万部という空前のベストセラーとなり、刊行前から進んでいた映画「日本沈没」は1973年の年末に公開され大ヒット、1974年の邦画部門(配給収入)で1位となっており、2006年にも映画化されています。

そのほかラジオドラマやテレビドラマもありますが、どの作品も「日本列島が海没するにあたり、政府や科学技術がどう対応するか」がストーリーの主軸となっています。

監督の湯浅政明(ゆあさ・まさあき)は、本作を「日本が沈没するという状況下にいる人たちの物語」(「映画秘宝」2020年8月号)として描いたとしています。

そして、前回の「ザ・ハント」(The Hunt、2020年)と同様に、意外というか“シビア”なストーリーに驚かされました。とくに“登場人物の退場”について、「普通はこうなるのが王道だが、本作では・・・」というシーンがいくども描かれ、恐ろしくも現実味のある展開がちりばめられていたのです。

湯浅監督によると「(観客の)期待していたものとは違った」(パンフレットより)という意見も多かったそうです。予定調和的な「めでたし、めでたし」としないことが、湯浅監督の狙いだったのではないでしょうか。

アニメーター出身の湯浅監督は、ときに大きく崩した作画によって、観客に強く訴えてくる映像が見受けられます。おおきくディフォルメしながら“破綻しないギリギリの作画”でシリアスな状況を描けるのは、まさにアニメ作品ならではの持ち味だと感じます。

「日本沈没」のコンセプトは、「日本人とは何か、日本とは何か」だと、原作者の小松左京はとらえていたそうです。そのコンセプトならば、また違った視点で描くことができるでしょう。「今度はどんな映像表現で描かれるのか」勝手ですが、期待しています。次回は「サイレント・トーキョー」の予定です(敬称略。【ケイシーの映画冗報】は映画通のケイシーさんが映画をテーマにして自由に書きます。時には最新作の紹介になることや、過去の作品に言及することもあります。当分の間、隔週木曜日に掲載します。また、画像の説明、編集注は著者と関係ありません)。