日本に起こりうる危機を現実としてイメージさせた「トーキョー」(304)

【ケイシーの映画冗報=2020年12月10日】12月24日のクリスマス・イブ。行き交う人々で賑わう恵比寿のホールで爆発事件が起きます。被害者はなかったものの、犯人からのメッセージがインターネットで掲示されました。

現在、一般公開中の「サイレント・トーキョー」((C)2020 Silent Tokyo Film Partners)。

「次の目標は渋谷のハチ公前で、午後6時」

即座に渋谷の警備態勢が強化されますが、ネットで知った群衆も集まってしまい、騒然としたなか、複数の爆発が連鎖的に起こり、渋谷の一角が一瞬にして阿鼻叫喚の事件現場と化してしまいます。

恵比寿の事件現場にいた中年男性、朝比奈仁(あさひな・じん、演じるのは佐藤浩市=さとう・こういち)や夫と待ち合わせという山口アイコ(やまぐち・あいこ、演じるのは石田ゆり子=いしだ・ゆりこ)、爆発現場にいたテレビマン栗栖公太(くるす・こうた、演じるのは井之脇海=いのわき・かい)、事件を捜査する刑事の世田志乃夫(せた・しのぶ、演じるのは西島秀俊=にしじま・ひでとし)に追われるIT企業家の須永基樹(すなが・もとき、演じるのは中村倫也=なかむら・ともや)といった人物が事件によって結ばれ、突き動かされていく。

本作「サイレント・トーキョー」の原作は秦建日子(はた・たけひこ)の小説「サイレント・トーキョー And so this is Xmas」で、脚本家で劇作家、舞台演出家から映画監督まで手がける秦の脚本、演出によって、戯曲として舞台化もされています。

原作について、秦はこう述べています。

「僕はいつかこういうことが起こりうるのではないかと思っていました。日本社会から感じる雰囲気は原作を書いた頃(2016年)と今もあまり変わっていない気がしています」(パンフレットより)

監督の波多野貴文(はたの・たかふみ)は、
「大人たちは自分たちが作り上げた世界の責任を取らないといけないという物語だと脚本を作っているときに感じました」(パンフレットより)
という意識を本作に折り込んだようです。また、波多野監督には、「クリスマス・イヴの1日を99分ノンストップで見せるという趣旨だった(後略)」(パンフレットより)という意図もあったということです。

この、“限られた時間”というストーリーの芯があることから、本作は主要な人物が同時進行で、ひとつの大きな出来事に関わっていくという展開により、実際にはありえないであろうシチュエーションも存在します。

そうした部分は、エンターメイメント作品には奇異なことではありません。人員を殺傷するための爆薬や本物の銃器が使われることもないわけですから。

その点では、実際の渋谷駅前のスクランブル交差点をオープンセットで再現したという、第2の犯行現場のリアリティは、特筆に値するでしょう。もちろん、CG画像や合成による助力もありますが、トータルで1万人というエキストラによって産み出された「雑踏のなか、目的をもって動く」主要人物たちの臨場感も強く印象に残りました。

本作の主要な撮影は昨年中に終わっているということで、現在の情勢を予見したのではないはずですが、前回の「日本沈没2020」と同様に、「現在の日本に起こる危機的状況」というモチーフには、シンクロニシティ(共時性)の実在をイメージしてしまいます。

「日本列島が短期間で海没する」のはSF的な発想で、もしそうなれば、地球全体に大規模な影響が起こるのは必至ですから、日本一国の課題ではなくなりますが、犯罪となると、身近なテーマとなります。本作のような「大規模な爆弾テロ」は日本で起こりうるのでしょうか?

セキリュティ関係に明るい方に伺ったところ、「その可能性は低い」とのことでした。

「たしかに、貧富の差や世代間、生活環境などに起因する不平、不満は存在するが、これは人間の社会において、一定に存在するものである。大きな民族や宗教間の対立、深刻な怨嗟(えんさ)の構造や国内での分離独立の気運も顕著ではないので、大規模な犯罪行為が発生する要因は低い」

ただし、とつけ加えられました。
「可能性が低いのは、ゼロではない。最初の報道では、中国で発生した新型コロナウィルスのヒトからヒトへの感染は未確認、となっていたが、現状では明らかに間違った判断といえる。ある時点の事象が将来にわたって変化しないという確証は得られない」

あまり楽しい事物ではありませんが、こうした意識は常に持っている必要があるのでしょう。本作の鑑賞後、ふとそんな感覚をいだいてしまいました。次回は「ワンダーウーマン1984」を予定しています(敬称略。【ケイシーの映画冗報】は映画通のケイシーさんが映画をテーマにして自由に書きます。時には最新作の紹介になることや、過去の作品に言及することもあります。当分の間、隔週木曜日に掲載します。また、画像の説明、編集注は著者と関係ありません)。