脚本に拘泥せず、即興感が魅力、パワー全開の新「燃えよデブゴン」(306)

【ケイシーの映画冗報=2021年1月7日】あけましておめでとうございます。本年も映画の話題をおとどけしますので、よろしくお願いいたします。

現在、一般公開中の「燃えよデブゴン TOKYO MISSION(東京ミッション)」((C)2020 MEGA-VISION PROJECT WORKSHOP LIMITED.ALL RIGHTS RESERVED.)。2時間かけて50キロ以上の「デブ」に変身した主人公の刑事を演じるドニー・イェン。

1970年代、日本だけでなく、世界中で“空手ブーム”が巻き起こりました。その一大源流となったのがアクション・スター“ブルース・リー(Bruce Lee、1940-1973)”です。成人後の主演作はわずか5本、しかも最大のヒット作「燃えよドラゴン」(Enter The Dragon、1973年)が公開されたとき、32歳で既にこの世から去っていたという、衝撃的な生涯も“ブルース・リー”という映画スターの大きな要素となっています。

こうした希有かつ不世出の存在であるブルース・リーとその別名“ドラゴン”は映画にかぎらず、多くのエンターメイメント作品の“素材”として活かされています。

本作「燃えよデブゴン TOKYO MISSION(東京ミッション)」(2020年)は原題も「Enter The Fat Dragon」であり、まさに「燃えよドラゴン」からの正当な派生作品といえるでしょう。

さらにはブルース・リーとの共演作品もあるポッチャリ体型ながら武術の達人であるサモ・ハン・キンポー(Samo Hung Kam-Bo)の出世作「燃えよデブゴン」(Enter The Fat Dragon、1978年)のタイトルをそのまま借りるというオマージュにもなっています。

香港で刑事として活躍するフクロン(演じるのはドニー・イェン=Donnie Yen)は、仕事に集中するあまり、捜査の第一線からはずされ、女優の婚約者ホーイ(演じるのはニキ・チョウ=Niki Chow)にも愛想を尽かされてしまいます。

6カ月後、体を動かさない閑職についたことと、ストレスによる大量の間食により、フクロンは体重120キロという、立派な体躯となっていました。

そんなフクロンに、かつて自分が関わった事件の参考人を日本へ護送するという仕事がもたらされます。久しぶりの刑事としての活動に張り切るフクロンでしたが、日本へ向かう機内でかつての恋人ホーイと偶然再会します。

彼女は日本での仕事のため、島倉(しまくら、演じるのは丞威=じょうい)という人物と一緒でした。日本で香港出身のシウサー(演じるのはウォン・ジン=Wong Jing)と出会い、島倉が日本のヤクザで、巨大な陰謀を計画していることを知ったフクロン。ついに夜の東京タワーで、島倉とフクロンは激突することになります。

本作の主演は、香港を拠点に世界で活躍するアクションの達人ドニー・イェンで、自身も監督作のある人物ですが、本作の監督は25年来の友人であるという日本人の谷垣健治(たにがき・けんじ)にまかせています。

谷垣監督によれば、もともと別のドニー・イェン作品に呼ばれたところ、その作品が止まってしまい、
「ドニーが苦し紛れに『そうだ、太った主人公はどうだ?』と言って、プロデューサーで今回出演もしているウォン・ジンが『それイイ!』とノったんです。で、ふたりは盛り上がって『監督は誰かいいかな?』『ケンジだ!』『よしそれでいこう!』って。」(「映画秘宝」2021年2月号)

このやりとりだけで映画が1本、動き始めてしまうとは、ちょっと信じがたいのですが、実際に完成しているのですから、本質的には事実なのでしょう。

谷垣監督曰く、
「バババババッて準備して、バババババッて撮影に入った」(2020年12月25日「読売新聞夕刊」)とのことなので、フットワークの軽さも傑出しています。

香港映画が他の映画産地と異なるスタイルに、「最初の脚本に拘泥しない」という部分があります。とにかく、撮影現場で「(主演するドニーが)1分、1秒でやりたいことが変わる」(前掲紙)や「脚本がないわけじゃないんですよ!ただないに等しい」(パンフレットより)という谷垣監督の言葉は、「脚本」を至上とするハリウッド系の映画システムとは異質なものといえます。

よくいえば臨機応変ですが、見方を変えれば「脚本、なにソレ?」ということもいえます。善くも悪くも、こうした即興感も香港映画の魅力でしょう。
「役者さんが『やりたい』と言ってきたら、僕は絶対『とりあえずやってみよう』と言います。やってみて変だったらそう言うだけの話で、だいたいうまくいくんですよ」(前掲紙)

それにしても50キロ以上の“増量”を2時間かかるという特殊メイクによってなしとげているドニー・イェンは、57歳という年齢をまったく感じさせないスピードと格闘技術を見せています。

30歳もはなれた島倉役である丞威との格闘シーンは、映画の撮影とはいえ凄まじく、香港映画のパワーを実感させられ、勇気づけられました。なにしろ、自分もドニー・イェンにちかい年齢ですので。次回は「スタントウーマン ハリウッドの知られざるヒーローたち」を予定しています(敬称略。【ケイシーの映画冗報】は映画通のケイシーさんが映画をテーマにして自由に書きます。時には最新作の紹介になることや、過去の作品に言及することもあります。当分の間、隔週木曜日に掲載します。また、画像の説明、編集注は著者と関係ありません)。

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