インド、パーティー禁止で花火もない静かな大歳、幸先よい白道(56)

【モハンティ三智江のインド発コロナ観戦記=2021年1月15日】コロナ元年の旋風を潜り抜けて、無事2021年の幕開けを迎えたが、大晦日は州政府が22時から6時まで夜間外出禁止令を敷いて、あらゆるパーティー、新年を祝う大人数の集会を禁じたため、異様に静かでカウントダウン後の花火も打ち上がらず、祝賀ムード皆無、異例の年明けとなった。

東の白みかけた海上に、うっすらと緋の日輪がのぼった。次第に臙脂がかって光輝を強め、清々しい白日、まさに1年の始まりにふさわしい初日の出となった。

夜道を違反者摘発のためのパトロールカーが行き交い、物々しい雰囲気の中、車や人の往来もほとんど途絶え、東浜のホテル街のメインロードは異様に静まり返っていた。例年通りとはいかないまでも、花火のひとつくらいは打ち上がるだろうとの期待を持っていた私には、まったく拍子抜けだった。遠方で散発的に花火か爆竹のあがるこだまが響くが、お祝いムードには程遠く、異例の年越しとなった。

例年なら、ホテル街は需要オーバーで東も西も満杯だが、東浜は大型ホテルを除いてはがら空き、当宿も6室埋まるのみだった。

おまけに、年末州都の空港に英国から帰着した州出身者が変異種のウイルスに感染していたことが発覚し、州政府も警戒、州民の間にも懸念が強まっている。

インド全土で変異種陽性者は1月2日現在、25人、うち8人が首都デリー(Delhi)とのことだ。中央政府は12月22日より英国からの国際線を一時停止した。

ちなみに、インド全土の実質陽性者数(41万人、累計観戦者数1030万人だが、回復率96%以上)を第3波の日本と人口比率から換算して比べてみると、驚くなかれ、日本(4万6000人)のほうが多いのだ。

漁村が近づくにつれ、浜に繋がれた素朴な木舟の列にぶつかる。蒸気船がほとんどだが、手漕ぎ舟も少数、冬季の穏やかな内海に勇ましく漁に繰り出す。

東京も先日1300人超と、1000人台を軽々オーバーしてしまい、懸念されるばかりだ。元都知事の舛添要一さんがTwitterでコロナ対策批判、クラスター潰しに躍起になるより、徹底検査と隔離を提唱しているが、インド在住で移住国のコロナ対策を逐一見守ってきた身には、正論である。

当オディシャ州(Odisha)は、膨大な移民労働者の流入で32万人超と感染爆発しながらも、今や実質陽性者は2500人超、新規は200人台まで落ち込んだ。検査回数は実に480万人超、人口4600万人だから、10人に1人が受けた計算になる。それと、徹底した隔離対策も功を奏した。

インド人は一般的にルーズだが、外出時のマスク着用義務は割と守られており、マスク代がない貧民もハンカチなどの布切れで代用、欧米よりずっと使用率が高い。厚かましいようでいて、繊細で神経質なところもあり、長いものに巻かれろでお上にはめっぽう弱いのだ。

勝ち目のない相手には下手に逆らわない、庶民的生活の知恵としたたかさが備わっており、何より、違反すると、警官に棍棒で叩かれたり、罰金を取られるので遵守するのだ。権力者の庶民待遇は手荒で、人権なんてあったもんじゃない、最悪の場合は有無を言わせず豚箱送りである。

インドでは日頃、さまざまな伝染病が跋扈(ばっこ)し、感染症に強く、鍛えられていることも幸いした。今現在、1日当たりの死者数は6月の水準の200人台まで急落した。

当州では、新年にさらなるアンロックダウンの指針が発表されたが、映画館は200人制限での再営業が認められ、宗教機関の開院やスクール開校も、容認される方向にある。

奇妙に静かだった大歳(おおとし)に比べ、明けてからの方が街に活気も戻っている。昨夜ついたちは、当界隈の夜空に花火が何発も打ち上げられた。ただし、そのほとんどが不発で、大輪の花は咲かなかったが。

マスクなしで一斉連発の華麗な花火ワールドを堪能したニュージーランド市民の動画を羨望の目で見ながら、正常に戻るのはいつのことかと、先が見えない不安の中、思いを馳せた。

毎年、大気汚染による死者が170万人も出る国だけに、汚染一の首都デリーでは、呼吸器疾患者と、コロナとの相乗の悪影響も憂慮されている。

〇コロナ禍による3大福音
1.大気汚染解消で椰子と海が生き生き
2.感染爆発都市より一時避難の息子と同居
3.自己との対話や瞑想で、インナートリップタイム増加

〇速報/新型コロナワクチン2種承認
インドの医薬品規制当局は3日、英製薬大手のアストラゼネカとオックスフォード大学が共同開発したワクチン(Covishield)と、地元のワクチン生産会社バーラト・バイオテックが開発したワクチン(Covaxin)2種の緊急使用を許可した。

近々、医療従事者から優先的に接種を始め、夏までには高齢者など3億人の接種を目指す。モディ首相はTwitterで、「コロナ戦を強化する決定的な転換点」と発表を歓迎した。

累計感染者数が1000万人超と、アメリカに次ぐ世界ワースト2位だけに、画期的で、低温物流の未整備など問題はあるが、課題を克服できれば、開発途上国におけるワクチン普及のモデルとなりうる朗報だ。

〇身辺便り/神々しい初日の出

大歳に2020最後のサンセットに1年間のお礼を言った翌早朝、初日の出を拝むために、眠いのを我慢して浜に出た。あいにく薄曇り、この分では海からのぼる赤い太陽は目撃できないかと危ぶまれたが、いつもと違う、漁村のある東方へ波打ち際に沿って歩くうちに、海の向こうの灰色の空にうっすらと淡い緋色の日神がのぼり始めた。

薄赤い太陽は次第にオレンジがかった光輝を強め、金橙色に輝いたかと思うと、まばゆい白みを増して、まさに白道(びゃくどう、浄土宗で火の河と水の河の間にある極楽浄土に通じる白い道)と表現したくなるような光の帯を海原に映し出す。

産まれたばかりの太陽の、なんと白く浄らかなことだろう。位置は沖合の真上、中間より下、霞んだ水平線に数珠に貼りつくように漁船が出ている。

赤よりもオレンジよりも金よりも壮麗で、透明感のある清い純白、清々しい白のお日様のあまりの神々しさに感激して、思わず掌を合わせていた。古来、人々が太陽を神と崇めてきた気持ちがこのときほど、実感を持って納得できたことはない。

長い人生で、これほどまでに神々しい初日の出を見たことがなかった私は感激した。同時に、幸先いいというか、2021年が昨年と打って変わって、希望に満ちた輝かしい新時代の幕開けとなるような気がして、わくわくした。眠気を押して、早朝、浜まで出てきた甲斐があったようで、充分すぎるくらい報われた。

私の2021年は素晴らしいものになるとの確信を胸に、肝心の出だしがお天道様から祝福されたことに感謝の喜びを覚えて、爽やかな幸福感とともに家路に着いた。

(「インド発コロナ観戦記」は「観戦(感染)記」という意味で、インドに在住する作家で「ホテル・ラブ&ライフ」を経営しているモハンティ三智江さんが現地の新型コロナウイルスの実情について書いており、随時、掲載します。モハンティ三智江さんは福井県福井市生まれ、1987年にインドに移住し、翌1988年に現地男性(2019年秋に病死)と結婚、その後ホテルをオープン、文筆業との二足のわらじで、著書に「お気をつけてよい旅を!」(双葉社)、「インド人には、ご用心!」(三五館)などを刊行しており、コロナウイルスには感染していません。

また、息子はラッパーとしては、インドを代表するスターです。13億人超と中国に次ぐ世界第2位の人口大国、インド政府は3月24日に全28州と直轄領などを対象に、完全封鎖命令を発令し、25日0時から21日間、完全封鎖し、4月14日に5月3日まで延長し、5月1日に17日まで再延長、17日に5月31日まで延長し、31日をもって解除しました。これにより延べ67日間となりました。ただし、5月4日から段階的に制限を緩和しています。

1月15日現在、インドの感染者数は1051万2093人、死亡者数が15万1727人、回復者が1014万6763人、アメリカに次いで2位になっています。ちなみにアメリカの感染者数は2330万7232人、死亡者数が38万8533人(回復者は未公表)です。州別の最新の数字の把握が難しく、著者の原稿のままを載せています。

また、インドでは2020年3月25日から4月14日までを「ロックダウン1.0」とし、4月14日から5月3日までを「ロックダウン2.0」、5月1日から17日までを「ロックダウン3.0」、18日から31日を「ロックダウン4.0」、6月1日から6月末まで「アンロックダウン(Unlockdown)1.0」、7月1日から「アンロックダウン2.0」と分類していますが、原稿では日本向けなので、すべてを「ロックダウン/アンロックダウン」と総称しています。

ただし、インド政府は5月30日に感染状況が深刻な封じ込めゾーンについては、6月30日までのロックダウンの延長を決め、著者が住むオディシャ州は独自に6月末までの延長を決め、その後も期限を決めずに延長しています。この政府の延長を「ロックダウン5.0」と分類しています)。