インド、医療従事者63万人超がワクチン接種開始も、死者4人に(57)

【モハンティ三智江のインド発コロナ観戦記=2021年1月26日】インド全土の新型コロナウイルスの新規感染者数は1月19日現在、1万人台まで下落、昨年9月末に感染爆発に歯止めがかかって以来、鈍化傾向が続いている。累計感染者数は1060万人(死者数15万3000人)だが、回復率が高いため、実質患者数は40万人、人口比率から換算すると、第3波中の日本の実質8万3000人の方が2.5倍も高い。

テランガナ州ハイデラバード(Telangana Hyderabad)ベースのバーラト・バイオテック(Bharat Biotech)が開発した国産ワクチン「コバキシン」。インドは、はしかやマラリアなど、世界有数のワクチン生産国で、ワクチン開発のノウハウを持っていることが強みに転じた(画像はウイキペディアより)。

ワースト5州は、第3波中の南のケララ州(Kerala、累計感染者数85万1000人、実質数7万2000人、新規3346人)を除いては、マハラシュトラ(Maharashtra、累計数199万人、実質10万人、新規1924人)、カルナータカ(Karnataka、累計数93万2000人、実質数2万人、新規435人)、アンドラプラデシュ(Andhra Pradesh、累計者数88万6000人、実質9000人、新規81人)、タミルナドゥ(Tamil Nadu、累計数83万1000人、実質1万8000人、新規551人)と、いずれも鈍化傾向だ。

首都デリー(Delhi)の空港に英国から帰国した本国人が持ち込んだ変異種は109例と言われているが、今のところ、急拡大の兆しはない。中央政府は昨年12月22日に英国からの国際便を一旦停止したが、1月8日に週30便に半減しながらも再開、入国者は陰性証明が必要になっている。

そんな中、早々と2種のワクチン(英アストラゼネカのCovishield=コビシールド=とバーラト・バイオテックの国産Covaxin=コバキシン)が承認されたことは既にお伝えした通りだが、1月16日からオンラインで繋いだ全国3000カ所でモディ(Modi)首相の開始宣言と共にスタート、既に63万人超の医療従事者が接種した。

首相は、「世界最大規模のワクチン接種計画が始まった、インドの科学能力の高さを示す何よりの証左だ」と称揚した。

ちなみに、費用だが、コビシールドが1回200ルピー(約280円)と、国産のコバシキンの295ルピー(約420円)に比べ激安、政府は既に1100万回分をオーダー、国産ワクチンは550万本の注文を済ませ、今後の普及が期待されている。

わがホテル・ラブ&ライブの元常連客、裕子さんから、届かなかった年賀状の写真がメール送信されてきた。配達不能の理由(引き受け停止)が宛先の上に貼られているが、33年の移住生活でも前代未聞の出来事で、ショックを受けた。

首都圏では3日で38万人超が接種、予定の3分の1の人が受けに来たというが、タミルナドゥ州では16%にとどまり、ネットなどで安全性を懐疑視する声が広まっているせいか、怖がっている人が多い。ハルシュ・バルダン(Harsh Vardhan)保健・家族福祉相が、Twitter(ツィッター)でネット経由の偽情報を信じないようにと、改めてワクチンの効果や安全性を強調するひと幕もあった。

副作用は580例、現在まで4人死亡しているが、死因に直接ワクチンは関与していないとのことだ(詳細は末尾のコラム参照)。重症のアレルギー持病のある人は、ワクチンを受けないようアドバイスされている。

今後は、50歳以上ならびに基礎疾患のある人に広げていき、7月までに3億人を目指すというが、接種ペースは思ったより進んでいないようだ。

さて、当オディシャ州(Odisha)はお伝えしたように収束に向かっており、実質患者数は2000人を切った(累計感染者数33万3000人、死者数1901人)。

スクールは、クラス11・12年生(日本の高校2・3年生)に限って再開されたが、開校2日目でガジャパティ(Gajapati)地方で26人の教師と2人の生徒が陽性反応、以後サンバルプール(Sambalpur)でも19人の生徒が感染し、やや憂慮される状況だ。

しかしながら、新規感染者数が122人と激減した今、州政府はさらなる緩和策を進めており、結婚行進バンド隊もも200人までの制限で許可された。

当地プリー(Puri)では、観光名所として名高いヒンドゥ寺院・ジャガンナートテンプル(Jagannath Temple)が1月3日に開院したことで、ローカル旅行者が増え、土日ともなると、中規模ホテルの乱立する西浜は満杯、こぼれた旅客が東浜まで流れ込んできて、賑わっている。

そろそろ重い腰を上げて、ホテル再建に乗り出さねばならないのだが、第2波到来と再ロックダウン(都市封鎖)が懸念され、今しばらくは状況静観かと、慎重にならざるを得ない。

町を歩く人々の顔からもマスクが消えだしており、住民間にも緩みが見られるが、油断していると、足元を掬われそうで怖い。しかし、プリー民は、もうすっかり収束ムード、緩みっぱなしの昨今である。

〇コロナ余話/ワクチンの安全性に疑念
1月16日から、政府の肝煎りで始まった壮大なワクチン接種計画で、4人の死亡者が出たことを本文でお伝えしたが、うち2人の経緯を改めて付記すると。

1人は北の内陸部のウッタルプラデシュ州(Uttar Pradesh)の病棟職員で46歳、開始初日にコバキシンを接種後息苦しさと胸痛を訴え、翌日急逝、直接の死因は心臓発作と言われているが、遺族は咳や発熱もあったと、異議を唱えている。

一方、南のテランガナ州(Telangana)では、19日に42歳の医療関係者がコビシールドを接種後、胸痛を訴え、18時間後に心肺停止に至ったという。

国産のコバキシンに至っては、臨床試験中から、さまざまな疑惑が持ち上がり、異例の早期承認に科学者からの重大な懸念の声もあがっていた。

いわく、日雇い労働者を750ルピー(約1050円)で雇い、事前の同意なしに実験、接種後吐き気や息苦しさ、頭痛、腰痛、食欲不振などの副作用が出てメディカルケアが必要な状態になっても、医療費の保証はなされなかったなど。

安全性に懸念が残る中、承認を急いだことで、今後、副作用例が増えないよう祈念するばかりだ。

余談だが、私自身は、インドでワクチンを受ける気はさらさらない。過去の経験で、現地の医療システムに根強い不信感を抱いているせいである。

(「インド発コロナ観戦記」は「観戦(感染)記」という意味で、インドに在住する作家で「ホテル・ラブ&ライフ」を経営しているモハンティ三智江さんが現地の新型コロナウイルスの実情について書いており、随時、掲載します。モハンティ三智江さんは福井県福井市生まれ、1987年にインドに移住し、翌1988年に現地男性(2019年秋に病死)と結婚、その後ホテルをオープン、文筆業との二足のわらじで、著書に「お気をつけてよい旅を!」(双葉社)、「インド人には、ご用心!」(三五館)などを刊行しており、コロナウイルスには感染していません。

また、息子はラッパーとしては、インドを代表するスターです。13億人超と中国に次ぐ世界第2位の人口大国、インド政府は2020年3月24日に全28州と直轄領などを対象に、完全封鎖命令を発令し、25日0時から21日間、完全封鎖し、4月14日に5月3日まで延長し、5月1日に17日まで再延長、17日に5月31日まで延長し、31日をもって解除しました。これにより延べ67日間となりました。ただし、5月4日から段階的に制限を緩和しています。

2021年1月21日現在、世界の感染者数は9693万8729人、死亡者数が207万7005人、回復者が5347万3804人です。インドは感染者数が1061万0883人、死亡者数が15万2869人、回復者が1026万5706人、アメリカに次いで2位になっています。ちなみにアメリカの感染者数は2443万8723人、死亡者数が40万6147人(回復者は未公表)です。インドの州別の最新の数字の把握が難しく、著者の原稿のままを載せています。

また、インドでは2020年3月25日から4月14日までを「ロックダウン1.0」とし、4月14日から5月3日までを「ロックダウン2.0」、5月1日から17日までを「ロックダウン3.0」、18日から31日を「ロックダウン4.0」、6月1日から6月末まで「アンロックダウン(Unlockdown)1.0」、7月1日から「アンロックダウン2.0」と分類していますが、原稿では日本向けなので、すべてを「ロックダウン/アンロックダウン」と総称しています。

ただし、インド政府は5月30日に感染状況が深刻な封じ込めゾーンについては、6月30日までのロックダウンの延長を決め、著者が住むオディシャ州は独自に6月末までの延長を決め、その後も期限を決めずに延長しています。この政府の延長を「ロックダウン5.0」と分類しています)。