ヤクザの世界を人間ドラマとして描いた「ヤクザと家族」(308)

【ケイシーの映画冗報=2021年2月4日】1999年の地方都市。父親の自殺で家族を失った19歳の山本賢治(やまもと・けんじ、演じるのは綾野剛=あやの・ごう)は、偶然、地元ヤクザの組長である柴咲博(しばざき・ひろし、演じるのは館=たち=ひろし)の命を助けてしまいます。それがきっかけとなり、両者は“親子の杯”を交わすことになったのです。

現在、一般公開中の「ヤクザと家族 The Family(ザ・ファミリー)」((C)2021「ヤクザと家族 The Family」製作委員会)。

2005年、山本は、昔気質の柴咲組で“ケン坊”と親しまれ、夜の街でも頼られる存在となっていました。柴咲組は過去に因縁のある侠葉会と、地域の再開発による情勢の変化もあって、抗争に発展してしまいます。弟分を喪った山本は、“けじめ”のため、単身である行動にでますが、ある事情により、自分が身代わりとなって獄中に身を投じることになります。

2019年、刑期を終え、地元に戻った山本ですが、柴咲組に往時の勢いはなく、組長の柴咲も入退院をくりかえしていました。自分に娘が生まれていたことを知った山本は柴咲組を抜け、一般市民として束の間の安息を得ますが、かれの背負ってきた人生と時代のうねりは、そのささやかな安穏をも、たたき壊してしまうのでした。

本作「ヤクザと家族 The Family(ザ・ファミリー)」の監督、脚本は、一昨年公開され、日本のマスコミ界をするどく活写した「新聞記者」で高い評価を受けた藤井道人(ふじい・みちひと)です。

「現在ではヤクザが社会から排除されているけど、逆に僕ら一般市民が排除される世の中になるかもしれない。排除する側、される側それぞれに事情や原因がある。歴史をしっかり描くことで、それを表現したい」(2021年1月21日付スポーツ報知)と語る藤井監督は、本作を20年間の物語として仕上げています。

19歳の“危険を感じない”若者が“死の恐怖”を知り、自分を受け入れてくれる“家族”としてヤクザを選び、地歩を固めつつも墜ちていく“毀誉褒貶(きよほうへん)”を体現したような山本賢治役を演じる綾野剛について、藤井監督はこう述べています。

「10代から白髪交じりの40歳近くまでを演じる。10代は若さというより、青さですよね。年代によって、まったく違う演じ方をしてくれた。ほかの俳優さんではむずかしい」(前掲紙)

19歳から39歳までの20年間を、多くのキャスト陣がそのまま演じているのですが、綾野の演じた山本よりも時間の流れを感じさせるのが組長の柴咲役の館ひろしでした。

藤井監督によると、館の起用理由は、こうなっています。
「僕のリクエストです。かっこよくて、でも愛嬌もある、優しい「父親像」を館さんに託しました」(パンフレットより)

1999年に山本と“親子”となる冒頭の柴咲は、威風堂々としており、2005年でもその力強さは周囲を圧するだけの雰囲気をただよわせていますが、2019年の柴咲は病に蝕まれ、身体も動かなくなっている。その悲壮感がそのまま、時代の移ろいを強く印象づけてきます。

日本の“ヤクザ”とおなじく、結束の強い反社会勢力としては、イタリア系の“マフィア”があるとおもいますが、両者は決定的に違っています。

“マフィア”が絶対的な非合法組織(時の権力と戦うこともあったので)なのに対し、日本の暴力団は長いあいだ、“民間組織”として一定の地位を保っていたわけですが、劇中でも描かれるように、1992年の暴力団対処法、2009年の暴力団排除条例によって、社会から押し出されていくことになったという経緯が存在しています。

少年時代から山本を慕ってきた細野竜太(ほその・りゅうた、演じるのは市原隼人=いちはら・はやと)が、ヤクザから足を洗ってからの苦労を語ります。

「ヤクザ辞めても、人間として扱ってもらうには5年かかるんです。口座も、保険も、家族も」

本作はたしかに“ヤクザ”“任侠道”“義理人情”といった面が描かれていますが、表裏一体ともいえる“暴力”“非合法”“反社会勢力”という負の部分にもしっかりとライトを当てており、「ヤクザの世界で描かれた人間ドラマ」というのが適切な表現ではないでしょうか。

そして、時代の移ろいといえば、こんな逸話があります。

昨年夭逝されたある映画人が、こんな記述をしていました。父親(大正生まれ)も映画人だったそうですが、実父が昭和の初期に映画界へ入ると、父親から“勘当”されたのだそうです。

父親を“勘当”したお祖父様の稼業はナント“ヤクザ”だったそうで、時代の変遷と評価の変貌ぶりにおどろかされます。次回は「ノンストップ」を予定しています(敬称略。【ケイシーの映画冗報】は映画通のケイシーさんが映画をテーマにして自由に書きます。時には最新作の紹介になることや、過去の作品に言及することもあります。当分の間、隔週木曜日に掲載します。また、画像の説明、編集注は著者と関係ありません)