インド、新規感染が急減、集団免疫のせい?結婚行進で大音響も(59)

【モハンティ三智江のインド発コロナ観戦記=2021年2月23日】インド全土の新型コロナ感染者数は依然減退、今のところ第2波の兆しもなく、生活はほぼノーマルに戻っている。

ベンガル海の波は思いのほか、荒い。日本海を重ね合わせることも。母郷が恋しくなったとき、この海にどれだけ慰められたろう。

2月15日現在の統計では、累計感染者数は1090万人だが、97%以上が回復し、実質30万人、新規数は1万人前後で推移しており(本日は1万1649人だが、9000人台になることも)、新規の死者数は70人(累計15万6000人)と100人を割り、世界ワースト5カ国(米、ブラジル、インド、英、ロシア)の中では、ダントツの微小さだ。

ワーストトップの西部マハラシュトラ州((Maharashtra、累計206万人)は一昨日、新規感染者数が600人台と、目を疑うような激減ぶりだったが、日曜の統計ということもあったのか、本日4000人台(4092人)に戻り、何日か前の2000人台から倍増した。

既に予想したように、第3波が猛威を振るっている南部ケララ州(Kerala)は、これまで2位だったカルナータカ州(Karnataka、累計94万5000人、死者数1万2265人)を抜いて、累計100万人と、インド第2のミリオン突破州に踊り出た。

新規数も4612人と、マハラシュトラを抜く勢いだが、救いは回復数が新規を上回ることて、死者数は3985人と、マハラシュトラの最悪死者数5万1529人に比べ、極めて少ない。しかし、マハラシュトラが致死率は高いものの、ようやく減少傾向にあるのに比べ、依然懸念される状況だ。インド全土、188の地方では、1週間連続で新規ゼロをマークし、感染抑制はさらに加速化している。

日が落ちて西端の街の灯に彩られた、プリーのベンガル海。郷愁をそそる灯火と、暮れた海の対照の、シルエットが美しい。

世界的に見ても、感染者数は減少しており(ワーストのアメリカの新規数は6万人台てピーク時の4分の1)、ようやくコロナの猛威も、矛先を収めつつあるかと、少しほっとさせられるが、変異種があるので、予断は許さない。

累計感染者数は1000万人突破で、アメリカ(累計2770万人、死者数48万5000人)に次ぐワースト2位のインドのコロナ抑制における成功に、諸外国から謎の目がむけられているが、主な一因として、集団免疫ができている可能性が示唆されている。

首都デリー(Delhi、人口約2000万人)で先月行われた抗体検査では、2万8000人の56%もの被験者に陽性反応が出たことから、全人口のおよそ4分の1の3億人が既に免疫を獲得していると推測されている。南部カルナータカ州の調査でも、6400万人の人口の60%近くが免疫を得たとの可能性が報告されている。

もうひとつは、日頃から赤痢、チフス、マラリアなど各種伝染病の脅威に晒さられている環境下、感染症に強い体質ができているということだ。致死率が世界ワースト5カ国中、低率なのも、同じ理由からだろう。若い世代が大半を占めるインドの人口構成(30歳以下が64%)も有利に働いたと思われる。

インドがかろうじて医療崩壊を免れたことも、医療機関が感染症対策に慣れていて、無菌環境の先進国に比べ、比較的予防体制がしっかりしていたことも挙げられよう。

というわけで、現在はほぼノーマル化、賑わいが戻っている。ただし、国際線は依然停止したままで、外国人観光客が見込めない今、観光産業の打撃は大きく、外国人に人気のビーチリゾート地、西部ゴア(Goa)や、南部ケララは苦戦を強いられている。

当地プリー(Puri)は高名なヒンドゥ聖地で、ローカル巡礼旅行者に人気のため、外国人観光客に頼っているわけでないが、やはり、コロナ前に比べると、激減している。昨年12月から、結婚式需要が高まり、コロナ下抑制されていた挙式欲がどっと堰を切ったように殺到しており、東浜のメインロードは結婚行進のバンドが大音響で行き交い、コロナ下の静けさは失われた。

大気汚染と騒音回帰の当オディシャ州(Odisha)の累計感染者数は33万人を突破しながらも、実質数は800人を切り、死者数も1900人超と少なく、大半の州民の顔からマスクが消えている。なお、インド全土のワクチン接種回数は開始後ひと月で、850万回に達した。

〇コロナ余話/プリントメディアの不振

コロナ禍の悪影響を被って、新聞はじめ紙メディアが業績不振、現に当州では、昨年3月22日から始まったロックダウンが長引いたせいで、長期間新聞配布が中断、解除されても、再購読する読者が減っているらしい。

ひとつには、デジタルメディアの普及で、感染リスクのある紙メディアを有料で取らなくても、スマホで無料のニュースが読めるということがある。

若者の新聞離れは顕著で、現にわが息子も、英字紙は読まない。アマゾン(Amazon)で、洋書はオーダーしても、親が取っている新聞は見向きもしない。古い世代の私は、新聞くらい読めよと毒づきたくもなるが、時代が違うのだから、致し方ない。

インドでは、日本以上にデジタルが普及しているので、若い人は新聞雑誌購読には、ほとんど興味がないようだ。いまや、スマホでただで情報はキャッチできるし、コロナがさらにその傾向を加速させたようだ。プリントメディアに愛着の強い母国と違って、旧世代の私は寂しいばかりだ。

〇極私的動画レビュー/ドラマ「過ぎし日のセレナーデ」

YouTube(ユーチューブ)にアディクト気味の昨今、サーチしていたら、ずっと前から全編見たかったドラマがアップされていた。過去にサーチしたときは、細切れアップで、続きが見たいのに叶わず、断念していたが、奇特な人が3カ月前にアップしてくれていたのだ。

画像はあまりよくなく、著作権に触れないようにテーマ曲(ヤン・スギョンの「愛されてセレナーデ」、情感たっぷりの名曲)を変えたり、画面全体に雪を降らせたり、やや見づらいのだが、全21回の大長編をたった3日で見尽くした。

その名も、「過ぎし日のセレナーデ」は1989年から1990年、フジテレビ(木曜劇場)で放映された、鎌田敏夫脚本の見応えのある重厚なラブストーリー。

主演は田村正和、メインのサブを、高橋恵子と古谷一行が演じ、半世紀に及ぶ女1人を挟んでの異母兄弟の確執を描いたもの。豪華キャスト陣で、見終わったあとには、ずしりと胃もたれがするような手応えある余韻に浸れる。

兄弟の間で繰り広げられる、企業戦争も見ものだが、メインは恋愛で、1人の女を手に入れるために、事業すらもひとつの手段でしかなく、賭けに打って出る男のロマンが胸を打つ。

田村正和はハマり役で、2人の男の間を揺れ動く清楚で美しい、が、限りなく罪な女はまさに、高橋恵子の面目躍如たるところ、古谷一行も熱演だ。

それにしても、1人の女のために、一生を棒に振って落ちぶれて死んでいく男は哀しくロマンチックだ。純粋な男のロマンを、冷酷に踏みにじるのはいつも女だ。女の打算、しかし、それは生殖本能に裏打ちされた、家庭の安寧を選ぶがゆえ、烈しい恋よりも、子のいる家庭で長年培われた情愛を選び取った気持ちは、女だからこそよくわかる。

しかし、美しく、表向きは清楚で罪がないだけに、意識しないところで、すこぶる冷酷だ。やはり最後は、誰にも看取られず、ひっそりと死んでいきたいという主人公に同情が募ってしまう。。

枕際に集う親族の中に、昔烈しく恋し、裏切られた異母兄の妻、初老にしてなお美しい女の顔が。酷薄と、思ってしまうのは私だけだろうか。

男の窮極の恋愛ロマンと、女の打算・裏切り(意図しないだけに罪作りな)の対比を、これほど鮮やかに描いたドラマは希少だ。超お薦め、特選秀逸ドラマ、消されないうちに、鑑賞されることを強くお勧めする。蛇足ながら、震災前の神戸ロケシーンも、一見の価値がある。

(「インド発コロナ観戦記」は「観戦(感染)記」という意味で、インドに在住する作家で「ホテル・ラブ&ライフ」を経営しているモハンティ三智江さんが現地の新型コロナウイルスの実情について書いており、随時、掲載します。モハンティ三智江さんは福井県福井市生まれ、1987年にインドに移住し、翌1988年に現地男性(2019年秋に病死)と結婚、その後ホテルをオープン、文筆業との二足のわらじで、著書に「お気をつけてよい旅を!」(双葉社)、「インド人には、ご用心!」(三五館)などを刊行しており、コロナウイルスには感染していません。

また、息子はラッパーとしては、インドを代表するスターです。13億人超と中国に次ぐ世界第2位の人口大国、インド政府は2020年3月24日に全28州と直轄領などを対象に、完全封鎖命令を発令し、25日0時から21日間、完全封鎖し、4月14日に5月3日まで延長し、5月1日に17日まで再延長、17日に5月31日まで延長し、31日をもって解除しました。これにより延べ67日間となりました。ただし、5月4日から段階的に制限を緩和しています。

2021年2月16日現在、世界の感染者数は1億0922万7418人、死亡者数が241万0034人、回復者が6142万4060人です。インドは感染者数が1092万5710人、死亡者数が15万5813人、回復者が1063万3025人、アメリカに次いで2位になっています。ちなみにアメリカの感染者数は2769万5000人、死亡者数が48万6332人(回復者は未公表)です。日本は感染者数が41万9762人、死亡者数が7157人、回復者が38万8399人(ダイヤモンド・プリンセス号を含む)。インドの州別の最新の数字の把握が難しく、著者の原稿のままを載せています。

また、インドでは2020年3月25日から4月14日までを「ロックダウン1.0」とし、4月14日から5月3日までを「ロックダウン2.0」、5月1日から17日までを「ロックダウン3.0」、18日から31日を「ロックダウン4.0」、6月1日から6月末まで「アンロックダウン(Unlockdown)1.0」、7月1日から「アンロックダウン2.0」と分類していますが、原稿では日本向けなので、すべてを「ロックダウン/アンロックダウン」と総称しています。

ただし、インド政府は5月30日に感染状況が深刻な封じ込めゾーンについては、6月30日までのロックダウンの延長を決め、著者が住むオディシャ州は独自に6月末までの延長を決め、その後も期限を決めずに延長しています。この政府の延長を「ロックダウン5.0」と分類しています)。