映画好き男子の琴線に触れた「テッド」(101)

【ケイシーの映画冗報=2013年1月31日】1985年、いじめっ子からも無視されてしまう8歳の少年ジョンは、クリスマスプレゼントで貰ったぬいぐるみのテディベアにテッドという名前をつけ、「友達になって欲しい」という願いをかけます。

一般公開中の「テッド」((C)2012 Universal Studios. ALL RIGHTS RESERVED.)。制作費が5000万ドル(約50億円)から6500万ドル(約65億円)で、興行収入が5億ドル(約500億円)を超えている。

その祈りが天に通じたのか、ぬいぐるみのテディベアがしゃべって、動いたのです。「キミとは生涯の友達だよ」など「しゃべって動く」テディベアはたちまち大人気となり、メディアに駆り出されルことに。新聞記事、テレビ出演とテッドは有名人(クマ?)の道を駆け上がりますが、違法薬物に手を出すなどして、アッサリと栄光からドロップアウトしてしまうのです。

一般的な映画なら、こうした経緯を中軸にして、ストーリーを構築していこうとするはずですが、本作はそこから一気に時間を進めて、畳みかけるようにストーリーが動き始めます。

そして2012年、クリスマスの奇跡から27年後の世界。35歳の中年になったジョン(演じるのはマーク・ウォールバーグ=Mark Wahlberg)は、レンタカー店で働いてはいるものの、品行方正とは言いがたい仕事ぶりで、テッドとともにDVDソフトを楽しむという、子ども時代と同じ日々を過ごして います。

テッドは幾分くたびれたものの、外見は愛くるしいぬいぐるみのまま。しかし、その中身は女好きでビールとマリファナを楽しみ、そしてジョンとじゃれ合うことが生きがいという、やさぐれた中年グマとなっていました。

そんな「子供のころから続く日常」を過ごす一方で、ジョンは恋人のロリー(演じるのはミラ・キュニス=Mila Kunis)との将来も考えていますが、新しい生活をはじめるにあたってロリーの出した条件は「生涯の友達」であるテッドと別れることでした。

「ぬいぐるみのクマが生きている」ことと「その中身がオッサン」という部分は奇抜ですが、ジョンの立場から見て「子どものころからの親友か、それとも人生の伴侶か」というのは、決して奇想天外な選択ではありません。

テッドにとっても、ジョン少年の願いがなければこの世に生を受けられなかったわけで、「親友にして生みの親」であるジョンが幸せになることが嫌ではない。とはいえ、生まれてからずっと一緒だったジョンと離れて生活することは、まったく未知の世界ということになります。

ロリーも、子供がそのままオトナになったように純粋な現在のジョンに、テッドがどれほど影響しているか承知しているものの、「このままテッドと一緒だとジョンが駄目になる」という気持ちが強く、この両者のくっつき過ぎをなんとかしたい。

この男女とぬいぐるみという、不思議で奇抜な三すくみというか三角関係(?)をみごとに作品化したのは、本作の制作・原案・脚本・監督、さらにはテッドの声を演じたセス・マクファーレン(Seth MacFarlane)です。

アニメーター兼脚本家出身のマクファーレン監督は、1999年に過激な内容のテレビアニメ「ファミリー・ガイ」(Family Guy)で制作、監督、脚本、作画、そして声の出演をこなし、これが大ヒット、現在も続く長寿シリーズとなっています。

「生きている中年ぬいぐるみグマ」が毒舌を吐き、下品にふるまう本作は、なんと全世界で5億ドル(約500億円)を越える大ヒットとなり、昨年末にはアメリカの人気トーク番組に、テッドが実在するという設定で出演するという快挙(?)をなし遂げ、日本でも劇場 公開直後に初登場1位を果たしています。

ズンダレた中年オヤジの生活を送っているとはいえ、外見は愛くるしいテッドは、監督の狙いどおり、
「ルックスはすごくバカバカしいのに、行動はまるで普通というキャラクター」(パンフレットのインタビューより)として確立しています。現実にはあり得ないシチュエーションですが、相手がぬいぐるみのクマというだけで、男同士の友情物語をキチンと描いているので、本筋が通っているのです。

その一方で、ジョンとテッドが子ども時代を過ごした年代に関する大量のクスグリ(パンフレットに解説ページがあるほど)も秀逸で、ジョンが子ども時代に見たクズ映画(本項で前々回にふれた「フラッシュ・ゴードン=Flash Gordon、1980年)をいまだに愛してやまないところなどは、正直、思い当たるフシが自分にもあります。

いまでも、幼少期に見たある映画作品を見ると、落涙してしまいます。もう数百回は、見たはずなのに・・・。言い訳めいてしまいますが、自分の周囲にも「あの映画が忘れられない」という御仁はすくなくありません。本作は映画好き男子の琴線に触れる1本といえるでしょう。次回は「アウトロー」を予定しています(敬称略。【ケイシーの映画冗報】は映画通のケイシーさんが映画をテーマにして自由に書きます。時には最新作の紹介になることや、過去の作品に言及することもあります。当分の間、隔週木曜日に掲載します)。