航空写真に目覚めたカメラ愛好家、叶悠真「影を追うんです」

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【銀座新聞ニュース=2014年4月5日】キヤノンギャラリー銀座(中央区銀座3-9-7、03-3542-1860)で4月9日まで航空写真家の叶悠真さんによる「東京上空 暫し鳥になって・・・パート(Part)2」が開かれている。

キヤノンギャラリー銀座で4月9日まで「東京上空 暫し鳥になって・・・パート2」を開いている叶悠真さん。「空では酔いが大変だけど、地上に降りると、お腹がものすごく空いて、油っぽいものをたくさん食べてしまうんです」。

キヤノンギャラリー銀座で4月9日まで「東京上空 暫し鳥になって・・・パート2」を開いている叶悠真さん。「空では酔いが大変だけど、地上に降りると、お腹がものすごく空いて、油っぽいものをたくさん食べてしまうんです」。

飲食店を経営する叶悠真(かのう・ゆうしん)さんは仕事の傍ら、1990年代に趣味として「野鳥の会」に所属し、野鳥を追いかけて日本だけでなく、北極海、カナダまで飛び、フィールドスコープにデジタルカメラを取り付けて撮影することに面白さを覚えた。

「日本ではなかなか見られない野鳥が北極海やカナダの山に行くと身近に出会えるんです」。しかし、通常のデジタルカメラでは焦点が限られているため、4インチX5インチの「シノゴ」という大判カメラ機を使うことも覚えた。

ところが、小学生の子どもたちが加入した野球チームが選手の数があまりに少ないため、わずか数カ月で解散すると知らされると、父親として叶悠真さんは当時、メジャーリーグに挑戦する直前のイチロー選手が最後に日本で行った野球教室に参加を申し込み、なんと地元足立区で勝手に教室に参加する生徒を募集して、20人前後の生徒が集まり、集団で押しかけた。

展示されている作品。空から撮影するのは主に季節の変わり目で、普段は一眼レフを持ち歩いて地上で撮影する。「空で撮影するのと同じ重さにして、習慣化しようと心がけているんです」。

展示されている作品。空から撮影するのは主に季節の変わり目で、普段は一眼レフを持ち歩いて地上で撮影する。「空で撮影するのと同じ重さにして、習慣化しようと心がけているんです」。

それをきっかけに、かつて高校時代に全国高校サッカーに出場したことがあるサッカー少年だった叶悠真さんは18人の選手を抱える野球チームの監督、コーチを務めることになり、「いろいろな人に教えてもらい」、素人ながら、情熱一本で選手を指導した。

その傍ら、蘇ったのが写真撮影だ。仕事の合間に野鳥を追いかけていた生活から野球の生活に変わってしまったが、「選手の試合の写真を撮影して、両親にお見せするとみんな喜んでくれるんですよ」というわけで、監督、コーチ、撮影係という兼務により、次第に写真の面白さにのめりこんだ。

2010年にそうした素人写真家の叶悠真さんに大きな転機が訪れた。いつも大判のフィルムの現像をお願いする本郷の写真店で衝撃的な写真に出会ったのだ。愛媛県松山市に住む写真家の芥川善行(あくたがわ・よしゆき)さんが撮影した四国の一部と瀬戸内海を一緒にした金色の映像だった。「シノゴで撮影し、B1サイズ(728ミリX1030ミリ)でプリントした写真を見て感動してしまって。セスナ機で撮ったと教えてもらったんです」。

まもなく、日本ではどうやって航空写真が撮影できるかわからなかった叶悠真さんはニュージーランドのオークランドに1週間ほど行き、セスナ機をチャーターして「シノゴ」を持ち込んで、風景を次から次へと撮影した。帰国して本郷店でプリントすると、そこに見えたのは「ブレた写真ばかりでがっかり」。しかし、その店で偶然、芥川善行さんと出会い、相談に乗ってもらい、セスナ機を運航する飛行会社を紹介してもらった。

それから叶悠真さんの「航空写真家」としての本格的な修業がはじまり、セスナ機をチャーターして、空からみた自然の風景、都心の建物、時には地方空港に出かけて、そこからセスナ機に乗って自然を「シノゴ」を使って撮影した。飛行機から撮影するので、時には飛べないことも。「そういう時は地上に降りてビールを飲むことにしています。乗る前日は酒を一切飲まないんです」。

2012年10月に富士フィルムフォトサロンで個展を開くと、1週間で9600人が来場した。「みんながほめてくれるんですよね。それがまたうれしくて調子に乗って」、さらにセスナ機に乗って撮影にでかけた。セスナ機は前に飛ぶだけで後ろに戻れないので、「空から撮影するポイントは影を追うことなんです」と影を見て一瞬の間に構図を決め、両手でシノゴを抱えて小さな窓から撮影する。

病膏肓(やまいこうこう)に入った結果、飲食店の経営はほかの人に委ね、2013年春には野球チームの監督、コーチ、撮影係も「週末が全部つぶれてしまうので、お役ご免にしてもらいました」と完全に「航空写真家」に専念できる体制をつくりあげた。しかし、それと相前後して悩んだのが機材などの問題だ。

地上ならレンズを向けて露出計ではかると絞りやシャッタースピードがわかる。ところが、機内では、小さな文字を読もうとすると「酔ってしまうので、小さな字を読めないんです」。空から地上を撮影すると、重要なのがISO感度で、ISO100の銀塩フィルムで撮影する場合、ISO400に感度をあげて撮影することもある。そうしたことも次第に「経験で判断するようになりました」と語る。

また、セスナ機は夕方の撮影には向かない。16時ころには空港に戻らないといけないのだが、「日の入りは冬でも16時過ぎなので、セスナ機では限界がありました」。それで選んだのがチャーター料が高いヘリコプターだ。ヘリコプターなら16時30分前に離陸すると、20時ぐらいまで飛行できる。

しかし、そんなに長い時間チャーターすると、ひじょうに高くなるので、冬の季節に16時29分に離陸して、それから30分の間に夕焼けや金色の景色を撮影する。「とにかく、セスナ機やヘリの操縦士は前ばかり向いているので、下を見ない。私が下を見て、ほらあんなに美しいよと言うと、操縦士も感動して、ずっと下ばかり見ているんですよ。それほどすばらしいんです」。

しかし、「シノゴ」は1枚撮影すると、次の撮影まで時間がかかるので、こんどは一眼レフのデジタルカメラを使うことにした。遅い時間帯ほど、シャッタースピードも遅くし、ISO感度を高めると、きれいな夕焼けを撮影できることがわかった。

「でも、デジタルカメラの画像は撮影後に編集しないといけないので、その時間がかかるんです。フィルムは撮影すれば終わりで、後は現像するだけ。秋の紅葉はフィルムなら自然の美しさが表現されますが、デジタルカメラだとどうしても赤くなってしまう。それを修正するのが大変」と悩みが増えるばかりだ。

でも、夕闇の金色の美しさは「デジタルカメラが最高」という。しかも、100ミリから400ミリまでの望遠レンズも使えるので、対象によって使い分ける。「カメラの技術革新はすばらしく、機内でのガタガタゆれる中で撮影するにもデジタルカメラの方がいい」という。

叶悠真さんはもし小さいころに、この世界を知っていたら、「宇宙飛行士をめざしました」と笑う。こんごの目標は2020年の東京オリンピック・パラリンピックが決まったので、「それまでの東京の変遷を撮影していきたい」と語る。空から見た東京の風景がどう変わるのか、叶悠真さんも楽しみという。

叶悠真さんは1954年熊本県生まれ、高校卒業後、愛知県名古屋市で就職、その後、上京して飲食店を経営、少年野球チームの監督も務め、現在は「航空写真家」として活動している。

キヤノンギャラリー銀座の開場時間は10時30分から18時30分(最終日15時)まで。日曜日、祝日は休み。入場は無料。