多彩な人物、多様な基地で、多層な作りの新「インデペンデンスデイ」(191)

【ケイシーの映画冗報=2016年7月14日】1970年代から1980年代にかけて、ハリウッドでは映画人たちの世代交代が進みました。同時に、ヨーロッパを中心とした他国の映画人も、ハリウッドにやってきます。このころ、映画業界の低迷は世界規模で起きていたのです。

現在、公開中の「インデペンデンス・デイ:リサージェンス」((C)2016 Twentieth Century Fox Film Corporation All Rights Reserved.)。

現在、公開中の「インデペンデンス・デイ:リサージェンス」((C)2016 Twentieth Century Fox Film Corporation All Rights Reserved.)。

本作「インデペンデンス・デイ:リサージェンス」(Independence Day:Resurgence)の監督、脚本のローランド・エメリッヒ(Roland Emmerich)も、ドイツからハリウッドに招かれた映画人のひとりとなっています。

エメリッヒ監督の作風はまさに「無理が通れば道理が引っ込む」というもので、ヒトもモノも徹底的に破壊される大災害を描いた作品をいくつも手がけており、“ハリウッドの破壊王”とあだ名されるほどのディザスター(大破壊)映画の巨匠としての地位を確立しています。

その嚆矢(こうし)となったのが1996年の「インデペンデンス・デイ」(Independence Day)でした。「エイリアンに侵略された人類が壊滅的被害を受けながら反撃に転じ、最終的には勝利する」というストーリーは従来のセオリーに則ったものでしたが、巨大な宇宙船が世界各地をビーム攻撃で粉砕してしまうシーンが鮮烈で、映像の派手さに比例するかのように興行収入も、制作費に10倍する8億ドルという大ヒットを記録しています。

制作費は1億6500万ドル(約165億円)、興行収入がこれまでのところ2億6993万ドル(約269億9300万円)。

制作費は1億6500万ドル(約165億円)、興行収入がこれまでのところ2億6993万ドル(約269億9300万円)。

それから20年後に公開される本作は、作品世界も前作から20年後となっており、当時の俳優陣がそのまま出演しているのもポイントでしょう。

エイリアンの侵略と戦い、世界人口の半分を失った人類はこの危機によって結束し、未知の脅威に備えた地球防衛部隊(ESD)を設立、宇宙人のテクノロジーを取り入れたことで発達した科学技術は、一方で兵器にも転用されていました。

この厄災から20年目となる節目の2016年の7月、かつてエイリアン撃退に多大な貢献をしたデイビット(演じるのはジェフ・ゴールドブラム=Jeff Goldblum)は、墜落した宇宙船の残骸が“再起動”したことを知ります。

土星との通信が途絶え、ついで月に置かれたESDの基地に、前回より巨大な宇宙船が迫ってきます。20年前の戦いで両親を喪ったジェイク(演じるのはリアム・ヘムズワース=Liam Hemsworth)や、英雄の息子ディラン(演じるのはジェシー・アッチャー=Jessie Usher)といったESDパイロットの奮戦もかなわず月基地も壊滅しました。地球へと到達したエイリアンの巨大宇宙船は、前回を上回る破壊のかぎりを尽くし、人類はふたたび、絶滅の危機に瀕するのですが、デイビットらは、かすかな希望をかつて墜落した宇宙船から見つけ出していました・・・。

前作では不器用なデイビットを気づかう父親との関係や、本作にも登場しているホイットモア(演じるのはビル・プルマン=Bill Pullman)が若くして大統領となったことで苦悩するといったドラマが随所に折り込まれ、単なる“大破壊シーンだけの映画”とならず、これが大ヒットの要因となったと思われます。

本作ではそれに加え、孤児であるジェイクと英雄の息子ディラン、ホイットモア元大統領の娘パトリシア(演じるのはマイカ・モンロー=Maika Monroe)の同期生による人間関係や、アフリカの戦闘部族と政府の会計担当との奇妙な友情、友人の復活を20年待ち続けた科学者といった多彩なメンバーによるドラマ部分が付け足され、作品の舞台も月やアフリカ、アメリカの秘密基地と多岐にわたり、多層的なつくりになっていますが、構成がキッチリしていることから、理解はしやすくなっています。

エメリッヒ監督は、「本作の芯は古い世代が子どもたちに安全な世界を残す」(「映画秘宝」2016年8月号)ことだと述べています。そういえば、少々唐突に、子どもだけで避難するグループが年長者に助けられるというエピソードが入りますが、これが世代間の深みを本作に与えています。

20年あれば、新生児が成人してしまうのですから、1996年以降に生まれたという“戦後世代”というジェネレーションを組み込むことで、圧倒的な状況に翻弄されるという非日常の中に「パニックに唖然とする若者を年長者が冷静に教導する」という、日常的な状況を置くことでバランスをとっているのでしょう。

たしかに“無理が通れば・・・”という監督の作品なので「そんなバカな」という情景もありますが、現実を描くのが映画の仕事というわけではありませんから、そのスペクタクルな部分をキッチリ楽しむことが本質だといえるでしょう。基本的に映画は娯楽ですからね。

こうした“ハリウッド・メジャー”の作品づくりに適合できたからこそ、エメリッヒ監督が30年にわたり、娯楽作品を作り続けられているのでしょう。次回は「トランボ ハリウッドに最も嫌われた男」の予定です(敬称略。【ケイシーの映画冗報】は映画通のケイシーさんが映画をテーマにして自由に書きます。時には最新作の紹介になることや、過去の作品に言及することもあります。当分の間、隔週木曜日に掲載します。また、画像の説明、編集注は著者と関係ありません)。