徹底的なリサーチでリアリティを追求した「シン・ゴジラ」(193)

【ケイシーの映画冗報=2016年8月11日】子どものころ、テレビで見た映画で憶えたセリフです。

現在、一般公開中の「シン・ゴジラ」((C)2016 TOHO CO.,LTD.)。

現在、一般公開中の「シン・ゴジラ」((C)2016 TOHO CO.,LTD.)。

「すぐで半年、よかろで2年、審議審議で5、6年。お役所仕事じゃ、それだけ(時間が)かかるという誰かの唄さ」

日本の行政機関における対応を揶揄(やゆ)したものですが、これを教えてれくれたのは、「ゴジラ」映画の4作目「モスラ対ゴジラ」(1964年)でした。作り手は「子ども向け」という括(くく)りで作品を生み出してはいなかったのです。

本作「シン・ゴジラ」は、1954年の第1作「ゴジラ」を強く意識した作風になっており、“正体不明の未知生物”としてのゴジラ像となっています。

東京湾で崩落事故が発生しますが、詳細は不明で、日本政府は情報収集にあたるのみ。内閣官房副長官の矢口(演じるのは長谷川博己=はせがわ・ひろき)は、ネット上の動画から“巨大不明生物”の存在を指摘しますが、総理補佐官の赤坂(演じるのは竹野内豊=たけのうち・ゆたか)ら、関係者からは一蹴(いっしゅう)されてしまいます。

やがて“巨大不明生物”は、東京に上陸、周囲を破壊しながら品川へ。政府内でさまざまな議論がなされ、書類の束を抱えた関係者が動き回るなか、ようやく自衛隊による攻撃が開始されようとしますが、一般市民への被害を恐れた首相の大河内(演じるのは大杉漣=おおすぎ・れん)によって中止されると、“巨大不明生物”は海へと帰っていきました。

「巨大不明生物特設災害対策本部(巨災対)」が設置され、矢口が事務局長となります。そんななか、アメリカ大統領特使であるカヨコ(演じるのは石原=いしはら=さとみ)が、矢口に“巨大不明生物”をアメリカで研究していた日本人学者の存在を伝えます。つい最近、東京湾で行方不明となったその学者の資料から、放射性廃棄物が生み出した“人知を超えた完全生物・ゴジラ”がその正体であることが判明します。

ゴジラはふたたび上陸し、東京へと迫ります。首都侵攻をくい止めようと奮戦する自衛隊でしたが、前回よりも強大な存在となった“ゴジラ”は近代兵器の猛攻をものともせず、東京を破壊し、焼き尽くしてしまいます。

壊滅的被害を受けながら“ゴジラ”対策に奮闘する矢口率いる「巨対災」は、カヨコからもたらされたデータからゴジラの活動を停止させる策を見つけ出し、その実現を進めていきます。

その一方で、アメリカや国際社会は根本的に“ゴジラ”を抹殺することを画策していました。本作の脚本・総監督の庵野秀明(あんの・ひであき)は、アニメーション界の出身で、1990年代を代表するヒット作品「新世紀エヴァンゲリオン」の生みの親として知られていますが、学生時代には自主制作の8ミリ映画として特撮ヒーローの作品を手がけていました。

30年以上前ですが、偶然、そのうちの1作を視聴する機会がありました。とうぜん映写機によるスクリーン上映です。当時は自分たちでも映像作品を撮ったりしていたのですが、正直、完敗でした。すでにプロとして活躍しているスタッフが関わっていたこともあり、作品の完成度が商業作と遜色のない品質だったのです。

そんな早熟かつ、憧憬(どうけい)と実力を兼ね備えた庵野総監督のわきを固める監督・特技監督の樋口真嗣(ひぐち・しんじ)は1984年に復活した「ゴジラ」に特撮スタッフとして参加しているベテランですが、アニメである「エヴァンゲリオン」にも参加しており、日本映画界の名コンビのひと組といえるでしょう。

赤坂を演じた竹之内は、撮影現場について、
「何か庵野さんにはない大胆さを樋口さんはもたれていて、逆に樋口さんにはない繊細なところを、庵野さんが補っているように思えました」(パンフレットより)
と伝えており、情景を想像させます。

庵野総監督は、脚本を仕上げるにあたり、関係各所に徹底的なリサーチをおこない「可能な限り現実に則した物語」を求めていったそうです。こうしたリサーチは、登場人物の大半を占める政府関係者や省庁スタッフのセリフや表現に活かされており、脚本に示された自衛隊の描写には防衛省も驚いたとのことです。

一部には「日本政府を美化しすぎ」という声もあり、批判的な意見もあるようですが、これは「空想特撮映画」(庵野総監督)ですので、べつにかまわないと思います。こうした作品は娯楽であって、市井(しせい)への教導でも扇動でもありません。人間から“空想”や“想像”の羽をもぎ取ってしまえば、“創造”も難しくなりますから。

「新聞は報道であって、裁く権利はないんだよ」。これも前述の「ゴジラ対モスラ」で新聞記者の語る言葉でした。次回は「ゴーストバスターズ」の予定です(敬称略。【ケイシーの映画冗報】は映画通のケイシーさんが映画をテーマにして自由に書きます。時には最新作の紹介になることや、過去の作品に言及することもあります。当分の間、隔週木曜日に掲載します。また、画像の説明、編集注は著者と関係ありません)。