役者のマジックと冒険的な作りが成功した「イリュージョン2」(195)

【ケイシーの映画冗報=2016年9月8日】「タネも仕掛けもございません」ーかつてはマジシャンが舞台で述べるコメントの定番でしたが、最近では使われなくなったそうです。理由は「タネも仕掛けもあるから」。

現在、一般公開中の「グランド・イリュージョン 見破られたトリック」(TM&(C)2016 Summit Entertainment,LLC.All Rights Reserved.)。

現在、一般公開中の「グランド・イリュージョン 見破られたトリック」(TM&(C)2016 Summit Entertainment,LLC.All Rights Reserved.)。

当たり前といえば当たり前で、本当にコインを空間移動させたり、高層ビルを消してしまえるのなら、物理法則が根源から覆ってしまうのですから。

本作「グランド・イリュージョン 見破られたトリック」(Now You See Me 2)は、前作の「グランド・イリュージョン」(Now You See Me、2013年)で結成された、華麗かつ大胆なマジックによって不正に蓄えられた大金をうばい、義賊のようにバラまいて姿を消した“フォー・ホースメン(4人の騎士)”が、再結集したことから始まります。

メンバーはあらゆるマジックに精通したアトラス(演じるのはジェシー・アイゼンバーグ=Jesse Eisenberg)をリーダー格に、催眠術の得意なベテランのメリット(演じるのはウディ・ハレルソン=Woody Harrelson)、カードを巧みに操るジャック(デイヴ・フランコ=Dave Franco)という3人に、新メンバーとして、紅1点のルーラ(演じるのはリジー・キャプラン=Lizzy Caplan) という4人の“ホースメン”にプラスして、前作ではFBI捜査官でありながら“ホースメン”をひそかに統率し、チームを結成させた秘密結社“アイ”の人間でもあるディラン(演じるのはマーク・ラファロ=Mark Ruffalo)も陰のメンバーとして加わります。

新たな目標は、大手IT企業オクタ社。携帯電話事業を隠れ蓑に世界中の個人情報を手に入れようとするこの大企業のプレゼン会場を乗っ取った“ホースメン”でしたが、これは巧妙かつ壮大な罠だったのです。ディランは“ホースメン”であることをばらされ、チームの4人はニューヨークから中国のマカオへと瞬間移動してしまいます。

そこに待っていたのは、オクタ社を影で支配するウォルター(演じるのはダニエル・ラドクリフ=Daniel Radcliffe)でした。かれから“ホースメン”に提示された仕事は、オクタ社が開発した「地球上にあるすべてのコンピュータに侵入できるチップ」を警戒厳重なマカオの金庫から盗み出すことでした。

一方、正体をバラされたディランも、反撃を開始します。前回のラストで“ホースメン”に「してやられた」マジックを見破ることに長けたサディアス(演じるのはモーガン・フリーマン=Morgan Freeman)を出獄させ、協力を仰ぎます。

そして、この事件の裏には、ディランとサディアス、“ホースメン”の一員であるメリットといった面々にとって、秘密結社“アイ”の歴史もふくめた、数十年にもおよぶ深い物語が隠されていたのです。

予告編映像では、派手なイリュージョンが全面に出されていますが、そのほとんどが、キャスト自身によるもので、その実現には、共同制作に名を連ねる当代随一のイリュージョニストであるデヴィッド・カッパーフィールド(David Copperfield)や、メンタルマジック(タネや仕掛けをイメージさせないマジック)を得意とするキース・バリー(Keith Barry)があたることで成し得たとのことです。

前作のルイ・レテリエ(Louis Leterrier)から監督を引き継いだジョン・M・チュウ(Jon M.Chu)も、当初から編集で魅せるマジックではなく、キャストが実演するマジックを求めて、映像を組み立てていったそうです。

こうしたビジュアル面もさりながら、本作で特筆すべきもうひとつの要素は、ストーリーにあります。

前作で示されていた、本筋とはさほど関連がなさそうないわく因縁が、本作ではキチンと重要な筋立てとして活かされており、一瞬だけ説明されたキャストのパーソナリティが本作にきっちりと盛りこまれている(?)たとえば、前作ではセリフにしか登場しなかったメリットを裏切った弟が本作では登場する(?)のも好感を持ちました。

こうした要素を活かせるかどうかは、なによりも前作のヒットにかかっており、ある意味では、制作陣によほどの自信がなければ、楽屋落ちかうちわうけなら良いほうで、下手をすると竜頭蛇尾(りゅうとうだび)、羊頭狗肉(ようとうくにく)という印象を観客に与えてしまう危険もあり、冒険的ともいえる映画づくりといえるでしょう。

なお、本作の原題「NOW YOU SEE ME2」の直訳は、「あなたは今、私を見ていますよ」といい、マジック・ショーでステージに上がった観客に、マジシャンがかける言葉です。

タイトルのとおり、このシリーズは観客が凝視していても見破れない、マジック・ステージの楽しさを見せててくれる、一級の娯楽作といえるでしょう。次回は「スーサイド・スクワッド」の予定です((敬称略。【ケイシーの映画冗報】は映画通のケイシーさんが映画をテーマにして自由に書きます。時には最新作の紹介になることや、過去の作品に言及することもあります。当分の間、隔週木曜日に掲載します。また、画像の説明、編集注は著者と関係ありません)。