女性2人を置いて第1作より人間味を出した「リーチャー」(200)

【ケイシーの映画冗報=2016年11月17日】ハリウッドきっての日本通で、本作のPRで22回目の来日を果たしたトム・クルーズ(Tom Cruise)は、映画スターとしての人気もさりながら、それ以上にハリウッドで評価されているのが、敏腕の映画プロデューサーであることです。

現在、一般公開中の「ジャック・リーチャー ネバー・ゴー・バック(NEVER GO BACK)」((C)2015 PARAMOUNT PICTURES.ALL RIGHTS RESERVED.)。制作費が6000万ドル(約60億円)で、興行収入が世界で1億1575万ドル(約115億7500万円)。

現在、一般公開中の「ジャック・リーチャー ネバー・ゴー・バック(NEVER GO BACK)」((C)2015 PARAMOUNT PICTURES.ALL RIGHTS RESERVED.)。制作費が6000万ドル(約60億円)で、興行収入が世界で1億1575万ドル(約115億7500万円)。

成功したスターがプロデュースや監督業に足を踏み入れ、傲慢な「オレさま映画」を乱発したあげく、自身の活躍の場を失ってしまうという事例はすくなくありません。

その点、トム・クルーズは監督業や脚本に手を出すことはなく、プロデュースに徹することで、次世代の才人発掘に長けていることを実証してきています。たとえば、「スター・ウォーズ」の新シリーズを牽引するJ ・J ・エイブラムス(J.J.Abrams)もトムによって、テレビからハリウッドに活躍の場を移しています。

トムが映画プロデュースにはじめて参画したのは、自身が主演する「ミッション・インポッシブル」(Mission:Impossible、1996年から)シリーズからで、こちらは現在まで5作品を数える人気作となっています。

本作「ジャック・リーチャー ネバー・ゴー・バック(NEVER GO BACK)」(Jack Reacher: Never Go Back、2016年)でトムが演じるジャック・リーチャーは、もとアメリカ陸軍憲兵隊の少佐で現在は流れ者の一匹狼、自分の信念に基づいて闘う孤高のヒーローで、前作「アウトロー」(Jack Reacher、2012年)につづく、シリーズ作品ということになります。

アメリカ陸軍を離れたリーチャーの後任となった女性士官ターナー少佐(演じるのはコビー・スマルダーズ=Cobie Smulders)が、国家反逆罪で処罰されてしまいます。

リーチャーは、戦地アフガニスタンで展開されていたアメリカ軍の不正を捜査中だったターナーの無実を確信しますが、同時に軍の内部に食い込んだ民間軍事企業が自分を狙っていることも知ります。

真実を見つけ、ターナーの冤罪を証明するため、彼女を軍の施設から脱走させたリーチャーは、ひょんなことから自分に「娘」がいるらしいということを知ります。「覚えがないわけではない」リーチャーは、かれの娘だという15歳の少女サマンサ(演じるのはダニカ・ヤロシュ=Danika Yarosh )に会いますが、突然あらわれた見知らぬ男性に、彼女は冷たい態度を崩しませんでした。

ところが、リーチャーの命を狙うザ・ハンター(演じるのはパトリック・ヒューシンガー=Patrick Heusinger)がサマンサをつかってリーチャーをおびき出そうとします。サマンサを救い出したリーチャーは、ターナーと3人で敵の攻撃を逃れながら、巨悪を追い詰めていくことになります。

監督・脚本(共同)のエドワード・ズウィック(Edward Zwick)は、日本で公開された洋画の中では最大級のヒットとなった「ラストサムライ」(The Last Samurai、2003年)でもトムとコンビを組んでいます。監督によればリーチャーは「現代版の浪人(Ronin)だと思っている」(パンフレットより)そうなので、トムを“サムライ的”に表現するのにはぴったりの人材でしょう。

前作ではラスト近くに老スナイパーとコンビを組むまで孤軍奮闘していたリーチャーでしたが、今回は序盤から腕の立つ女性軍人ターナーと、即席という状況ながら、息の合ったシーンを随所に見せてくれます。

さらに、「娘」というサマンサの存在。15歳の少女には、無敵のタフガイであるはずのリーチャーも手こずり、ときには言い負かされるという、ちょっと微笑ましいシーンも。また、オトナの女性ターナーとも女性観でぶつかってしまったりと、前作とはことなった人間味を見せてくれます。

これは、シリーズを単なる“焼き増し”ではなく、現実と同じように時間の経過をリーチャーに感じさせ、魅力的な女性ふたりにはさまれたヒーローという構図が、前作では作品全体にただよっていた殺伐なムードを若干、やわらげてるように感じました。

とはいえ、随所に盛りこまれたアクションでは、タフガイであるリーチャーの魅力はトムによって存分に発揮され、50代という実年齢を感じさせないシーンの連続で、格闘シーンでは、正直、実際にやられたらかなり痛そうな技が繰り出されています。

次回作も十分に予想されますが、出演だけでなく、プロデュースの仕事もあるトムに「リーチャー次回作」の時間を用意できるのかが気になります。

現在のところ主演のシリーズ作品を複数抱えている映画スターは、事実上トムただひとりという状況なので、前作とも本作とも、また異なった解釈で描かれるリーチャー第3弾にも興味をそそられます。次回は「シークレットオブモンスター」を予定しています(敬称略。【ケイシーの映画冗報】は映画通のケイシーさんが映画をテーマにして自由に書きます。時には最新作の紹介になることや、過去の作品に言及することもあります。当分の間、隔週木曜日に掲載します。また、画像の説明、編集注は著者と関係ありません)。