シリーズを踏襲しつつ、一歩踏み出した新「スターウォーズ」(203)

【ケイシーの映画冗報=2016年12月29日】ちょうど1年前、新生「スター・ウォーズ(以下S・W)」の第1作である「S・W/フォースの覚醒」(STAR WARS:THE FORCE AWAKENS、2015年)を本項で紹介しました。

現在、公開中の「ローグ・ワン スター・ウォーズ ストーリー」((C)2016 Lucasfilm Ltd. All Rights Reserved.)。制作費は2億ドル(約200億円)。日米で同時に公開されている。

映画ファンにとって「S・W」は、「次回作を待たされる作品」で、「フォースの覚醒」も前作の「エピソード3/シスの復讐」(STAR WARS EPISODE 3:REVENGE OF THE SITH、2005年)から10年後の公開となっています。

そんな「S・W」の新作「ローグ・ワン スター・ウォーズ ストーリー」(Rogue One:A Star Wars Story、2016年)が1年で公開されるというのはある意味で快挙ですが、この「ローグ・ワン」は本編から離れた外伝(スピンオフ)で、最初に公開された(作品内の時間軸では4作目)「S・W/新たなる希望」(STAR WARS EPISODE 4 A NEW HOPE、1977年)の直前の時間にスポットを当てた作品となっています。

銀河に圧政を敷く帝国は、惑星を一撃で粉砕してしまう究極の戦略兵器「デス・スター」を建設し、その完成に欠かせない研究者のゲイレン・アーソ(演じるのはマッツ・ミケルセン=Mads Mikkelsen)を探索していました。

ゲイレンは妻を殺され、ひとり娘のジンを逃がすことに成功しますが、自身は帝国軍に捕らわれてしまいます。時がたち、成長したジン(演じるのはフェリシティ・ジョーンズ=Felicity Jones)は、厳しい生活の中で、戦闘力はあっても、その心はすさみきっていました。

そのジンに、帝国と対立する反乱軍が接触してきます。彼女の父親であるゲイレンが、デス・スターの極秘情報を授けるため、反乱軍に情報を送ってきたというのです。ジンは自身の犯罪歴を抹消する条件で父親を探すことに同意します。

反乱軍の情報将校キャシアン(演じるのはディエゴ・ルナ=Diego Luna)ら旅の仲間とともにゲイレンを探すジンは、やがて帝国軍の基地で父親と悲劇的な再会を果たすのでした。

ゲイレンからの情報により、デス・スターの設計図が保管された惑星スカリフを知った反乱軍でしたが、乏しい戦力の反乱軍では警戒厳重なスカリフの攻略は難しく、「帝国軍に屈伏するべき」という意見が支配的でした。

これに納得しないジンや旅の仲間、彼らに共鳴した反乱軍の一部は独断で惑星スカリフへ向かいます。勝手に飛び立つ彼らは、無線での問いかけでとっさに、「我々はローグ・ワン」と答えるのでした。スピン・オフということで、本作はこれまでの「正伝」に登場したキャラクターはほとんど姿を見せません。

なおかつ、ストーリーの結末は多くの観客にとって既知のものとなっています。第1作の「新たなる希望」でデス・スターはその威力を見せつけますが、最後は「反乱軍スパイは帝国の究極兵器の秘密設計図を奪うことに成功した」ことで、最後は破壊されてしまうのを観ているのですから。

そうした視点で見ると、「観客は作品中の出来事を、実在したかのように」理解しているわけです。同時にこれまでの作品によるさまざまな「お約束」もあり、こうした部分をおろそかにすると、作品自体を破綻(はたん)させてしまうことにつながります。かといってすべてが過去作品の焼き直しでは、目新しさが消し飛んでしまうでしょう。

監督のギャレス・エドワーズ(Gareth Edwards)は、初のメジャー作品が世界で大ヒットした「GODZILLA ゴジラ」(Godzilla、2014年)であり、当人もゴジラ好きを公言していますが、小さいころに観た「S・W」の第1作が映画監督としての原点なのだそうです。いわく、
「『S・W』が好きで、これまでの人生ずっと、まるで趣味であるかのようにやっていたのに、それが仕事になるんだからね」(パンフレットより)

だれもが知る映画シリーズを2本、続けて手がけるというプレッシャーも相当なものだったと思いますが、こうした過去のシリーズ作品による「縛り」を利点に変えるのも創作の醍醐味ではないでしょうか。

「S・W」正伝では、正義を守り、フォースという圧倒的な力を持つジェダイ騎士団という存在が常にクローズアップされてきました。一種のエリート的存在ですが、本作ではジェダイやフォース、セリフにはたびたび出ますが、その実態や能力はほとんど見られません。

「ローグ・ワン」のローグとは、「悪漢/ならず者」で、「正伝」に登場する「選ばれた人々」とは真逆の存在であり、かつまた、「組織からはみ出した連中が、周囲の想像を超えた活躍をみせる」というのは、さまざまなエンタテインメントで描かれてきた魅力あるプロットです。

長期シリーズには「新作が過去作に囚われてしまう」懸念がありますが、本作は「シリーズを踏襲しつつ、大きく一歩を踏み出した」良質な作品だと言えるでしょう。次回は「アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場」の予定です(敬称略。【ケイシーの映画冗報】は映画通のケイシーさんが映画をテーマにして自由に書きます。時には最新作の紹介になることや、過去の作品に言及することもあります。当分の間、隔週木曜日に掲載します。また、画像の説明、編集注は著者と関係ありません)。

編集注:ウイキペディアによると、「スター・ウォーズ」シリーズは、ジョージ・ルーカス(George Walton Lucas,Jr)の構想を中心にルーカスフィルムが制作するアメリカのスペースオペラで、1977年に第1作「スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望」(監督はジョージ・ルーカス)が公開された。

映画が「エピソード1/ファントム・メナス」からではなく「エピソード4」から制作されたのは、1作目が商業的に成果を収めないとシリーズ化が厳しくなり、さらに一番「冒険活劇」としての完成度の高かったのが「エピソード4」で、これを最初に映画化することが得策だったためとされている。

また、「エピソード1・2・3」の時代は、全銀河の首都である大都市惑星コルサントの描写や、銀河共和国と分離主義勢力の間で起こった大規模戦争であるクローン大戦の描写が必須にも関わらず、当時の映像技術と予算では映画化が不可能であったことも原因となっている。

1980年に第2作「スター・ウォーズ エピソード5/帝国の逆襲」(監督は アーヴィン・カーシュナー=Irvin Kershner)、1983年第3作「スター・ウォーズ エピソード6/ジェダイの帰還」(監督はリチャード・マーカンド=(Richard Marquand)で、この3作は「オリジナル・トリロジー(旧三部作)」と呼ばれている。

続いて、「プリクエル・トリロジー(新三部作)」が制作され、監督はいずれもジョージ・ルーカスで、1999年に4作目「スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナス」、2002年に5作目「スター・ウォーズ エピソード2/クローンの攻撃」、2005年に6作目「スター・ウォーズ エピソード3/シスの復讐」が公開された。これにより、エピソード1から6までが完成した。

新たな3部作は「シークエル・トリロジー(続三部作)」とされ、ウォルト・ディズニー・カンパニーがルーカスフィルム買収後に制作した、初の「スター・ウォーズ」シリーズの映画化である。

2015年に第7作目「スター・ウォーズ/フォースの覚醒(エピソード7)」(監督はJ・J・エイブラムス=Jeffrey Jacob Abrams)は「スター・ウォーズ エピソード6/ジェダイの帰還」から30年後の姿を描いており、レイ(デイジー・リドリー=Daisy Ridley)の物語となっている。

こんご、2017年に「エピソード8」(タイトルは未公表、監督はライアン・ジョンソン=Rian Craig Johnson)、2019年に「エピソード9」(同、監督はコリン・トレヴォロウ=Colin Trevorrow)が予定されている。

今作の「ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー」はスピンオフ(外伝)作品「アンソロジー・シリーズ」の第1作目で、物語の時系列は第1作目の「スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望」の直前に当たり、「エピソード4」の冒頭でも触れられた銀河帝国軍の宇宙要塞である初代デス・スターの設計図の強奪任務を遂行した反乱同盟軍兵士の活躍が「エピソード4/新たなる希望」の開始10分前までを描ている。