自然なピースの組み合わせにより高完成度の「コンサルタント」(205)

【ケイシーの映画冗報=2017年1月26日】イリノイ州シカゴ郊外で会計コンサルタント業を営むクリスチャン・ウルフ(演じるのはベン・アフレック=Ben Affleck)は、無愛想だが真面目で有能な会計士として活動していましたが、その裏稼業は世界の巨大犯罪組織の資金洗浄(マネー・ロンダリング)を請け負い、状況によっては暗殺さえこなしてしまう「闇の仕事人」でした。

現在、一般公開中の「ザ・コンサルタント」((C)2016 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC.ALL RIGHTS RESERVED.)。制作費が4400万ドル(約44億円)で、興行収入がこれまでに1億5036万ドル(約150億3600万円)という。

アメリカ財務省の職員メリーベス(演じるのはシンシア・アダイ=ロビンソン=Cynthia Addai-Robinson)は上司のキング(演じるのはJ・K・シモンズ=J K Simmons)から、闇社会に出没する謎の人物を捜査するように指示されます。

一方のウルフは、新興電子機器メーカーであるリビング・ロボ社の会計監査を依頼されます。会社からアシスタントとして配された経理担当の女性デイナ(演じるのはアナ・ケンドリック=Anna Kendrick) に驚異的な集中力と計算力で15年間の不正経理の証拠を示し、多額の利益が消えていることを指摘したウルフでしたが、いきなり仕事を打ち切られてしまいます。

このことに異常なまでに憤るウルフ。じつは自閉症スペクトラムという精神的な障害を持ち、そのために幼少時からさまざまな苦労を重ねた人物でした。卓越した戦闘力も、「将来、社会で生き抜くために」と軍人だった父親によって身につけさせられたものだったのです。

メリーベスの捜査が徐々に相手の影を捉えはじめたのと軌を一にして、リビング・ロボ社の不正経理に関係した人物が不審死を遂げ、その危険がウルフやデイナにも忍び寄ってくるのでした。

「職業、会計コンサルタント 本業、腕利きの殺し屋」-少々刺激的なキャッチ・コピーをもつ本作「ザ・コンサルタント」ですが、主人公ウルフの会計コンサルタントの面と裏社会での実力者という能力の背景は、劇中で効果的かつ印象的に描かれており、「自分が思っていた以上に、楽しくて、スマートな脚本だった」(パンフレットより)と主演のアフレックは語っています。

アカデミー脚本賞(「グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち」(Good Will Hunting、1997年)を共同脚本で受け、監督・主演の「アルゴ」(ARGO、2012年)でアカデミー作品賞を手にしたアフレックのコメントですから、脚本を手がけたビル・ドゥビューク(Bill Dubuque)の力量もたしかなものだったのでしょう。

監督のギャヴィン・オコナー(Gavin O’Connor)も「プロデューサーが送ってくれた脚本を読んでみたところ、その型破りなストーリーに驚かされたんです」(HP「ギズモード・ジャパン」より)と手放しで称賛しています。

かつてアクション映画の巨匠監督が、「人間には完全な正義と完全な悪というのは存在しない。悪い面も良い面もある。それが人間だ」という要旨を語っていました。単なる善人、悪人というレッテル貼りだけでつくられたキャラクターが登場する脚本では、上記のような評価は引き出せなかったと思います。

こうしたキャラクターの掘り下げは、主役のウルフだけでなく、登場人物の多くになされています。それぞれが過去の出来事や記憶、家族関係などで軋轢(あつれき)や葛藤があり、それらが現在にまで影響しているということが、128分の本編中にさりげなくですが効果的にちりばめられています。

「このストーリーには絡み合うパズルが盛り込まれているので、ひじょうに知的な要素が生まれ、ものすごく面白いものになっています」(パンフレットより)とオコナー監督が語るように、一見すると関係のなさそうな登場人物たちが、まさしくパズルのように(作中でもパズルは重要なヒントとなっています)繋がっており、いかにも伏線めいたピースではなく、自然な組み合わせとなっているので、「伏線のために仕込んだ」エピソードになっていないのも、オープニングからラストまで、観客を一気に引きこんでしまう完成度の高さを感じさせます。

もちろん、一貫した作品をしっかりとまとめ上げたのがオコナー監督の演出とアフレックの演技なのは確実です。一歩間違えると「単なる変人」となってしまうような主人公ウルフが「器用はないが誠実に人生を生きようとする」魅力的な人物として観客に伝わってくるのですから。

なお、アメリカの銃器事情にくわしい人物によると、公認会計士は基本的に高収入なので、犯罪にあいやすく、仕事の関係で恨まれることもあるため、司法機関から護身用に拳銃を持ち歩く許可がおりやすいのだそうです。我々日本人にはちょっと想像のできない事情ではありますが、これもお国柄ということなのでしょう。次回は「マグニフィセント・セブン」の予定です(敬称略。【ケイシーの映画冗報】は映画通のケイシーさんが映画をテーマにして自由に書きます。時には最新作の紹介になることや、過去の作品に言及することもあります。当分の間、隔週木曜日に掲載します。また、画像の説明、編集注は著者と関係ありません)。