実地調査などにより実写作品並の上質さを実現した「モアナ」(209)

【ケイシーの映画冗報=2017年3月23日】南方の島モトゥヌイ(Motunui)に暮らす少女モアナ(声の出演はアウリイ・クラヴァーリョ=Auli’i Cravalho)は、16歳となったことで、村長の地位を父親からゆずられます。

一般公開中の「モアナと伝説の海」((C)2017 Disney.All Rights Reserves.)。ディズニーは制作費を公表していないが、「Moana」の英語版ウイキペディアによると、1億5000万ドル(約150億円)で、興行収入は3月19日の時点で世界で6億670万ドル(約606億7000万円)。

村のリーダーとして人々を率いていくことへの決意を固める一方で、モアナはサンゴ礁の先に広がる大海原への憧れを断ち切れずにいました。そんなある日、モトゥヌイ島では海に出ても魚がとれず、島のココナッツも食べられなくなるという事件が起こります。

禁じられたサンゴ礁の外に出れば、魚がいるかもしれない。周囲の反対を振り切って外洋に出たモアナは、ある島で、半神半人の英雄マウイ(Maui、声の出演はドウェイン・ジョンソン=Dwayne Johnson)と出会います。

じつはマウイこそが難事の元凶でした。彼が功名心から生命の女神テ・フィティ(Te Fiti)の「心」を奪ってしまったことから、モトゥヌイと世界は危機に直面してしまったのです。

罰として閉じ込められていたマウイを助け出したモアナは、英雄として返り咲くことを誓ったマウイとともに女神テ・フィティに「心」を戻すための危険と冒険の航海に旅立つのでした。

興行通信社によると、日本では3月10日から公開され、11日と12日の全国映画動員ランキングでは、初登場1位で、動員46万6000人、興行収入5億8900万円を記録し、10日からの3日間では動員56万9000人、興収7億1500万円をあげ、最終興行収入は80億円突破が見込まれている。

本作「モアナと伝説の海」(Moana、2016年)は、2014年に日本映画界でナンバーワンのヒットとなり、興行収入212億円で歴代3位という大記録となった「アナと雪の女王」(Frozen、2013 年)と、昨年公開され、日本での興収76億円で第4位となった「ズートピア」(Zootopia、2016年)につづく「ヒロインがメインのディズニーのアニメ作品」シリーズの作品となっています。

「アナと雪の女王」が「状況によっては、家族やきょうだいでも深刻な対立が生まれる」という現実を描き、「ズートピア」でも、「物語では仲良く暮らしている肉食と草食の動物たちは本当に共存することができるのか?」というように現実世界に真っ正面から向き合った作品として仕上げており、ヒット作というだけではなく、両作品ともアメリカのアカデミー賞にて長編アニメ映画賞(第86回と今年の89回)に輝いています。

監督はディズニーのアニメ作品で名コンビといわれているジョン・マスカー(John Musker)とロン・クレメンツ(Ron Clements)で原案と脚本(共同)も両人の手によるものです。

ジャンルとしては子ども向けアニメ作品ということになるわけですが、本作にかぎらず、近年の大作アニメは徹底的なリサーチと入念なストーリー(脚本)の構築が必須となっています。アニメは「動く絵」なので一般の実写作品のように撮影中のNGというのは原則的にあり得ないわけですが、不要な作画シーンは制作費の高騰に直結するので、描けばいいというわけにはいきません。

マスカーとクレメンツ両監督とスタッフは、架空の島モトゥヌイと作品世界の源泉となったタヒチ、フィージーといった南太平洋の島々を訪れて、現地の文化や歴史などをリサーチしていったそうです。

そのなかでもあまり知られていなかったのが、ポリネシアの人々がかつて、数千キロの遠洋航海を方位磁石や海図に頼らずに行っていたという歴史が、現在ではほぼ失われてしまったとはいえ、存在していたという事実です。作品内でも風と海の守り神であるマウイによって、その航海術の一部が紹介されますが、3000年前という時代には傑出した精度だったと伝えられています。

マスカー監督は「(南太平洋の)島の人々は、今までの西洋の映画が彼らの文化を正しく描いていないと感じていました」(2017年3月17日付読売新聞夕刊)という事実を知ったことで「彼女(モアナ)が力をつけて自身のアイデンティティを見いだす姿を描く方法として、伝統的航海術の物語を語ることは必然だと感じました」(パンフレットより)と作品への取り組み方を語っています。

クレメンツ監督も「タヒチの方に『私たちは西洋の文化にのみこまれてきた。一度くらい私たちの文化にのみこまれてみたら?』と言われ、肝に銘じたんです」(読売新聞夕刊)と、現地でのリサーチの感想を述べています。

こうしたリサーチの成果を作品にしっかりと落とし込むのが脚本です。かなりの手間と改稿がなされていたことは間違いないと思います。それはストーリー上、諸悪の根源は英雄であったはずのマウイが単なる悪人ではなく、彼にも彼なりの願いがあっての行動だったという、だれもが陥ってしまうであろう心の弱さが語られています。

その一方で、彼の力の源泉であった「神の釣り針」をめぐって大海原で繰り広げられる大活劇など、内容は盛りだくさん。けっして実写作品の超大作に劣らない上質のアニメ作品で、すべての人々におすすめできる作品ではないでしょうか。

次回は「キングコング 髑髏島の巨神」の予定です(敬称略。【ケイシーの映画冗報】は映画通のケイシーさんが映画をテーマにして自由に書きます。時には最新作の紹介になることや、過去の作品に言及することもあります。当分の間、隔週木曜日に掲載します。また、画像の説明、編集注は著者と関係ありません)。