70年代を背景にモンド映画へのオマージュも込めた「髑髏島」(210)

【ケイシーの映画冗報=2017年4月6日】ベトナム戦争(1964年から1973年ごろ、第2次インドシナ戦争としては1955年から1975年)の末期となる1973年、南太平洋にある謎の島「髑髏島(どくろとう)」に、アメリカ政府の調査団が向かいます。

現在、一般公開中の「キングコング 髑髏島の巨神」((C)2016 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC.,LEGENDARY PICTURES PRODUCTIONS,LLC AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC.ALL RIGHTS RESERVED)。

一行は研究機関モナークの研究者と、ジャングルの専門家であるイギリス特殊部隊出身のコンラッド(演じるのはトム・ヒドルストン=Tom Hiddleston)、アメリカ政府の関係者や、探検チームの移動と護衛を担当するアメリカ軍のヘリコプター部隊、そして探検の秘密を確かめようとする女性カメラマンのメイソン(演じるのはブリー・ラーソン=Brie Larson)といった混成チーム。

かれらは、島に上陸したとたん、巨大な守護神コングに襲われ、すべてのヘリコプターとアメリカ軍部隊の大部分をうしなってしまいました。この島には、コングだけでなく、巨大かつ怪異な生物が無数に存在し、上陸した人間たちに襲いかかります。

制作費が1億8500万ドル(約185億円)で、興行収入が3億9210万ドル(約392億1000万円)。

人知を超えた髑髏島の本質をさとったコンラッドは生き残ることを最優先とします。ところが、コングとの遭遇戦で多くの部下を失ったアメリカ軍の指揮官パッカード大佐(演じるのはサミュエル・L・ジャクソン=Samuel L.Jackson)はコンラッドたちと別れ、軍人のみでコングへの復仇(ふっきゅう)戦へと突き進んでしまうのでした。

本作「キングコング 髑髏島の巨神」(Kong:Skull Island)では1933年に世界的大ヒットとなり、多くの派生作品を生み出すこととなる「キングコング」(King Kong)のシリーズで、コングが人類の前に姿をあらわすというプロットによる4回目の映画化となっています。

「世界8番目の不思議」と作品内で表現された1933年版のキングコングは「未知の巨大生物」という扱いでした。このときはおおよそ5メートルでしたが、本作では31メートルを超える姿に成長(?)しています。これは地球上最大の生物であるシロナガスクジラに等しく、実在できる(できそうな)生物としてぎりぎり許容できるのではないでしょうか?

舞台設定が1973年というのも興味をそそられます。1970年代は、日本だけかもしれませんが、UFOや超能力といった「科学では解明できない」事物がブームとなっていました。「ノストラダムスの大予言」の話題や日本の漁船がつり上げた「ニューネッシー」もこの時代です。

コンラッドを演じたヒドルストンは、「もしかしたら、地球上に我々の知らない神秘的な場所があるかもしれないということが信じられる、最後の時代だったと思う」(2017年3月17日付読売新聞夕刊)と、作品の年代設定に理解を示しています。

このアイディアは監督のジョーダン・ヴォート=ロバーツ(Jordan Vogt-Roberts)のものらしく、「あの頃(1970年代)の映画が持つ生々しさと怪獣を合体させたら誰も観たことのない映画になるし、いろんな可能性が生まれると思ったのさ」(「映画秘宝」2017年5月号)とのことですが、この目論見は大成功といえるでしょう。

軍用ヘリコプターの編隊とこれを迎え撃つコングとの闘いはフランシス・フォード・コッポラ(Francis Ford Coppola)の代表作「地獄の黙示録」(Apocalypse Now、1979年)を連想というより再現したものに見えます。

ほかにもスティーヴン・スピルバーグ(Steven Spielberg)の出世作「ジョーズ」(Jaws、1975年)のようなシチュエーションもあれば、モンド映画と呼ばれる、いわゆるゲテモノ的な作品へのオマージュが見受けられたりと、映画に対する豊富な知識と愛情が感じられます。

ロバーツ監督のアイディアの源泉はハリウッド映画にとどまらず、日本の映画やアニメ、さらにはゲームにまでおよんでいるのですが、1984年生まれのまだ32歳で、なんと劇場用の長編作品は本作が2作目とのことです。

これはちょうど3年前に公開された「GODZILLA ゴジラ」(Godzilla、2014年)を監督したギャレス・エドワーズ(Gareth Edwards)と同様の大抜擢といえます。

両人とも、2作目の監督作品で世界的に有名な怪獣スター(?)が主役、制作費1億5000万ドル(約150億円)を超える超大作なのですから、プレッシャーは確実ですが、作品のヒットはこうした疲労を吹き飛ばしてくれるでしょう。

なお、この2作には、作品世界が同一となっており、すでに話題になっていますが、作中に他の巨大生物の存在が語られており、本編のラストからエンドロール、そしてエピローグまで、作品の余韻と他の作品への連携を感じさせる徹底した造り込みには好感を持ちました。

なんでも将来的には2014年のゴジラと対決する「ゴジラ対コング」(Godzillavs.Kong)が待っているそうなので、この「最強怪獣大決戦」を楽しむためにも、本作を鑑賞しておくことをつよく、おすすめいたします。次回は「ムーンライト」を予定しています(敬称略。【ケイシーの映画冗報】は映画通のケイシーさんが映画をテーマにして自由に書きます。時には最新作の紹介になることや、過去の作品に言及することもあります。当分の間、隔週木曜日に掲載します。また、画像の説明、編集注は著者と関係ありません)。