現実的だけど、暗くはない「フリー・ファイヤー」(213)

【ケイシーの映画冗報=2017年5月18日】1978年のボストン。裏社会で生きる女傑ジャスティン(演じるのはブリー・ラーソン=Brie Larson)はギャングのクリス(演じるのはキリアン・マーフィ=Cillian Murphy)と仲間たちを仲介人オード(演じるのはアーミー・ハマー=Armie Hammer)に紹介します。

現在、一般公開中の「フリー・ファイヤー」((C)Rook Films Freefire Ltd/The British Film Institute/Channel Four Television Corporation 2016/Photo:Kerry Brown)。制作費は1000万ドル(約10億円)。

ジャスティンからの依頼で、オードはクリスたちに闇の武器商人ヴァーノン(演じるのはシャールト・コブリー(Sharlto Copley)から大量のライフルを手に入れる算段をつけたのでした。

夜の廃工場での取引は無事に終わるかと見えましたが、“取引の品”に問題がありました。

「頼んだのはM16ライフルだ。だが、ここにあるのはAR70。約束が違う」
不満をあらわすクリスにヴァーノンが反論します。
「俺が聞いたのはライフルということだけだ。M16もAR70もおんなじライフルだぞ。タマも一緒だ」

ジャスティンやオードの計らいもあり、なんとか取引は終了するかに見えましたが、ある諍いが原因でクリスとヴァーノンの部下が殴りあってしまい、一発の銃声から合計10人が銃口を向け合う大乱戦へとヒートアップしていきます。
さらにこの現場には謎の狙撃手がふたり隠れており、銃撃戦はさらにエスカレートしていくのでした。じつは本作「フリー・ファイヤー」(Free Fire、2016年)の存在を知ったのは映画館に置かれたチラシからでした。

「世界が認めた最狂映画! /クレイジーバトルロワイヤル勃発!」という文字が踊り、興味をそそるキャストと製作総指揮にアカデミー監督賞を持つマーティン・スコセッシ(Martin Scorsese)とあるだけで、映画の重要な構成要素である監督と脚本が記載されてなかったのです。

かつては著名映画人の名前を借りた「傑作」や「話題作」といったフレコミの海外産の映画は珍しくありませんでした。ネットのない時代は、異国の情報を確認することが極度にむずかしかったためです。

やがて監督/脚本(共同)のベン・ウィートリー(Ben Wheatley)の情報に触れると、期待できそうなプロフィールでした。イギリス生まれのウィートリー監督は短編映画作家とアニメーターとしてさまざなまメディアで活動した後、映画監督としてデビューしています。

30代後半の監督デビューは決して早くはありませんが、こういう経歴の映像作家はその経験から「なにができて、なにができないか」をあいまいにせず、作品に不必要な要素をしっかりと刈り込むことを躊躇しない傾向があります。

本作の源泉について、監督はこう述べています。
「言ってみれば、これは純粋な映画だ。(中略)ダイナミックで躍動感のある作品を作りたかったんだ」(パンフレットより)

そのイメージに大きく補完したのが、監督が大量に読んだというFBIの報告書で、そのなかに延々と40分も続いた銃撃戦があったのだそうです。「40分も銃撃戦をやっていれば弾が当たらないこともあるし、ミスって仲間を撃つこともある。そんなことを映画にできるんじゃないか?」(「映画秘宝」2017年5月号より)

じつに本編90分の半分以上、50分にもなる銃撃シーンは、合計12人のキャストで「6000発ほど撃ちまくった」とのことですが、「怒声と銃弾の応酬」のなかで、被弾して修羅場から「退場」することがほとんど、ありません。

それは、作品の冒頭に示される監督からのメッセージにもあるとおり、「銃で撃たれても人間は簡単には即死しない」という事実に則しているのだそうです。

これは直接、実戦経験のある方にうかがったのですが、実際に戦場で「死体だと思って近寄ったら生きていた」という光景に出くわしたそうです。「10発以上命中していたから、生き長らえることはなかったと思う」とのことでしたが、「呼吸はしていた」とのこと。

現実だとやもすれば陰惨となる情景ですが、本作では、これだけ銃撃戦にリアリティをもとめながら、全体的なイメージは決して暗くなっていません。

「人間のあれこれが削ぎ落とされて、狭い空間のアクションに集約されるから、その人本来の性分が見えてくる」(パンフレットより)という監督の明確な演出意図を的確にくみ取り、“命のやりとり”というまさに本性むき出しのはげしい銃撃戦とセリフの応酬が芸達者なキャストたちによって、「リアルだけどダークではない」という不思議な作品世界を作り出すことに成功した逸品に仕上がっております。

自分のような「アクション映画好き」だけでなく、むしろ「こういった嗜好の映画が苦手」という向きにこそ、おすすめしたいですね。次回は「メッセージ」の予定です(敬称略。【ケイシーの映画冗報】は映画通のケイシーさんが映画をテーマにして自由に書きます。時には最新作の紹介になることや、過去の作品に言及することもあります。当分の間、隔週木曜日に掲載します。また、画像の説明、編集注は著者と関係ありません)。