日常を背景に異界へと誘う、SFの枠に収まらない「メッセージ」(214)

【ケイシーの映画冗報=2017年6月1日】19世紀末に生まれた映画というメディアは、当初から積極的に「宇宙人」と関わってきました。古典である「月世界旅行」(A Trip to the Moon 、1902年)にはもう、人類は月面にて「月人」と接触しているのですから。

現在、一般公開中の「メッセージ」。制作費が5000万ドル(約50億円)、興行収入が1億9799万ドル(約197億9900万円)。2017年のアカデミー賞で音響編集賞を受賞した。そのほか、作品賞、監督賞、脚色賞、録音賞、撮影賞、編集賞、美術賞7部門にもノミネートされた。

これまで、侵略者や友人、無慈悲な捕食者や殺戮者、ときには人類の領導者や支配者であった「宇宙人」という存在ですが、本作「メッセージ」(Arrival、2016年)では、あらたなアプローチを見せています。

オープニングは、赤ちゃんをさずかったばかりの母親の姿からはじまります。赤ん坊は幼女となり、少女へと育ち、幸福と諍いが絡み合うなか、母親はまだ少女の娘と悲しい別れを迎えることに。

ある日、地球上の12カ所に巨大な宇宙船が出現します。女性言語学者のルイーズ(演じるのはエイミー・アダムス=Amy Adams)は、アメリカ軍のウェバー大佐(演じるのはフォレスト・ウィテカー=Forest Whitaker)から謎の宇宙船との「通訳」の依頼を受けます。

ルイーズは、理論物理学者のイアン(演じるのはジェレミー・レナー=Jeremy Renner)とともに、宇宙船の内部で巨大な異星人「ヘプタポット」(七本脚)との接触を開始します。

ルイーズやイアンは2体の異星人に「アボット」と「コステロ」という名前をつけ、音声ではなく「表記」によるやりとりで、ゆるやかにコミュニケーションをはかれるようになりますが、ルイーズの中にも変化が生まれていました。「時間」にたいする認識が人類と異なる「ヘプタポット」と交流するにつれて、「経験していない未来を想いだす」といった不思議な体験をするようになります。

中国系アメリカ人のテッド・チャン(Ted Chiang)の短編小説「あなたの人生の物語」(Story of Your Life、1999年)を基にした作品で、2016年9月1日にベネチア国際映画祭でプレミア上映され、日本では2016年10月の第29回東京国際映画祭・特別招待作品として先行上映された。

こうしてゆっくりとすすむ「異文化交流」ですが、正体不明の異星人への不信感はやがて恐怖となり、一部の国や軍人が武力攻撃を示唆しはじめることで、人類側に不協和音が見えてくるのでした。

監督のドゥニ・ヴィルヌーヴ(Denis Villeneuve)は、片田舎での誘拐(ゆうかい)事件を美しい風景に重ねながら冷徹に描いた「プリズナーズ」(Prisoners、2013年)や、メキシコでの過酷な麻薬捜査に翻弄されるFBIの女性捜査官を描いた「ボーダーライン」(Sicario、2015年)などの良作を生み出しています。

個人的にヴィルヌーブ監督の持ち味は作品全体の構成に対する綿密な配慮にあると感じます。本作でも、「脚本(担当はエリック・ハイセラー=Eric Heisserer)は何度も書き直し、撮影、編集時も知的な部分とエモーショナルな部分のバランスをとるために腐心しました」(2017年5月26日付読売新聞夕刊)と語っています。

こうした緻密さに付随して、「日常を描きながら異界へと観客を引き寄せてしまう」という構成の巧みさも、ヴィルヌーブ監督の強みだと思っています。

「プリズナーズ」では見慣れた風景が、最愛の娘を呑みこんだ(誘拐した)世界に変貌してしまった恐ろしさが画面から流れ出てきましたし、「ボーダーライン」でも犯罪捜査のつもりで参加したチームが、まるで軍隊のように組織犯罪と闘っていることに軋轢(あつれき)を感じるFBI捜査官の焦燥が、観客にもじわじわと迫ってきたのです。

本作でも何気ない日常が「宇宙人の出現」によって変貌していくことを過激でもヒステリックでもなく、淡々と描いていくことで、一般社会とかけ離れていた主人公ルイーズの存在を際立たせており、そのルイーズがウェバー大佐によって、通訳業務に引きこまれることによって、一変してしまいます。

どこか世捨て人めいた存在だったルイーズが、いきなり現実の緊張に投げ込まれると、厳重な管理と警備、そして宇宙船という特殊環境での活動のための防護服などといった「息苦しい環境」をイアンと体験するわけですが、最初は対立気味だったルイーズとイアンが、やがておなじ学究派だということで意気投合、宇宙船の内部で防護服を脱ぎ去ってコミュニケーションに没頭するふたりは、かえって狭苦しい基地内よりも躍動して見えるほど。

こうしたギャップは作品内に(多分、意図的に)みられ、地上が飛び交う軍用機で騒がしいのに、宇宙船の内部は静謐に支配されていることや、研究の成果が出ることに一喜一憂する研究陣に対し、軍人たちはいつ終わるかわからない警戒任務に焦燥感をおぼえたりと、さまざなまポイントが鮮やかに描かれています。

そして、衝撃のラスト。まさに「すべてのピースがおさまった」という他に言葉がないエンディング。ジャンルこそSFなのでしょうか、決してその単純な枠におさまらない良作だと感じました。次回は「武曲 MUKOKU」を予定しています(敬称略。【ケイシーの映画冗報】は映画通のケイシーさんが映画をテーマにして自由に書きます。時には最新作の紹介になることや、過去の作品に言及することもあります。当分の間、隔週木曜日に掲載します。また、画像の説明、編集注は著者と関係ありません)。

編集注:ウイキペディアによると、SF映画は、SF(サイエンス・フィクション)をモチーフにした映画で、SFは現在の世界とは違う作品世界を、社会的、文化的、技術的な考証を元に構築するが、SF映画では非現実の世界を映像で実現することと、一般大衆を対象にした物語が要求され、作品世界の背景を解説するより、映像的な驚きに主体を置き、勧善懲悪の物語の作品が多い。

世界初のSF映画は、1902年にジョルジュ・メリエス(Marie Georges Jean Melies、1861-1938)がジュール・ヴェルヌ(Jules Gabriel Verne、1828-1905)の小説に基に制作した、フランス映画「月世界旅行」(Le Voyage dans la Lune)といわれている。この映画では、強力な大砲から発射された宇宙船での月旅行を描き、宇宙旅行や異星人の設定、当時では革新的な特殊効果により、空想的な映像を具体化し、その後のSF映画に大きな影響を及ぼした。

1910年にはJ・シャーリー・ドーレイ(James Searle Dawley、1877?1949)がメアリ・シェリー(Mary Wollstonecraft Godwin Shelley、1797-1851)の小説「フランケンシュタイン」(Frankenstein)を映画化した。1925年の「ロスト・ワールド」(The Lost World)は、アーサー・コナン・ドイル(Sir Arthur Ignatius Conan Doyle、1859?1930)の原作で、1960年に「失われた世界」(The Lost World)としてリメイクされた。

1927年のフリッツ・ラング(Friedrich Christian Anton “Fritz” Lang、1890-1976)による「メトロポリス」(Metropolis)は、未来都市とロボットを登場させ、未来社会を描いたSF映画として有名で、SF的設定の確かさで本作がSF映画の始祖ともいえる。1930年代からはトーキーが入り、今日のSF映画に直接影響を残す作品が作られている。1931年のジェームズ・ホエール(James Whale、1889-1957)の「フランケンシュタイン」(FRANKENSTEIN)は、ロンドンの喜劇舞台が元になっているため、原作との相違点が多いが、モンスターの造形は、「フランケンシュタイン」のキャラクターを決定付ける影響があった。

1933年にはメリアン・C・クーパー(Merian C.Cooper、1893-1973)、アーネスト・B・シェードザック(Ernest B.Schoedsack、1893-1979)による「キング・コング」(KING KONG)が制作され、アメリカの「KING OF MONSTER」として幾度とリバイバル上映されている。

H・G・ウェルズ(Herbert George Wells、1866-1946)の原作では、1933年の「透明人間」(THE INVISIBLE MAN)、「獣人島」(ISLAND OF LOST SOULS、「モロー博士の島」)が制作されており、以後何度かリメイクされた。

1940年にはアニメ、1948年には実写版の「スーパーマン」(SUPERMAN)が、1943年には「バットマン」(THE BATMAN)が制作され、コミックヒーローの原作が映画化されている。この頃は、スペクタクルなSF映画よりホラーの「吸血鬼」や「狼男」、「ドラキュラ」、「ミイラ男」などが多く作成されている。

1950年代はSF映画ブームとなり、ジョージ・パル(George Pal、1908-1980)は特撮を生かした4本の本格SF映画を制作している。1950年の「月世界征服」(DESTINATION MOON)、1951年の「地球最後の日」(WHEN WORLDS COLLIDE)、1953年の「宇宙戦争」(WAR OF THE WORLDS)、1959年の「タイム・マシン」(THE TIME MACHINE)の4本だ。

1951年にロバート・ワイズ(Robert Wise、1914-2005)監督の「地球の静止する日」(THE DAY THE EARTH STOOD STILL)、同年の)ハワード・ホークス(Howard Winchester Hawks、1896-1977)が制作、監督した「遊星よりの物体X」、1954年に「海底二万哩」(20000 LEAGUES UNDER THE SEA)をウォルト・ディズニー(Walt Disney、1901-1966)が制作した。

1956年の「禁断の惑星」(FORBIDDEN PLANET)のロボットロビィは、1951年の「地球の静止する日」のゴートと、「宇宙家族ロビンソン』(1965年からのアメリカのテレビシリーズ)のフライディと共に、いわゆる「ロボット」のキャラクターを確立したといわれている。

1956年に独立系プロによる低予算映画「ボディ・スナッチャー/恐怖の街」(INVASION OF THE BODY SNATCHERS)が制作された。1957年には「縮みゆく人間」(THE INCREDIBLE SHRINKING MAN)をはじめ、この時代、放射能を題材にした映画が多く作成されている。日本では、1954年に本多猪四郎(ほんだ・いしろう、1911-1993)監督が「ゴジラ」を制作し、以後50年で28作品がつくられた。

1960年にはアーサー・コナン・ドイル原作の「失われた世界」(THE LOST WORLD)と、1961年にジュール・ヴェルヌ原作の「SF巨大生物の島」(MYSTERIOUS ISLAND)は、共に登場する恐竜などに特撮を使用している。1964年に「博士の異常な愛情」(DR.STRANGELOVE OR: HOW I LEARNED TO STOP WORRYING AND LOVE THE BOMB)、1966年に「ミクロの決死圏」(FANTASTIC VOYAGE)、1966年も「華氏451」(FAHRENHEIT 451)、1967年に「バーバレラ」(BARBARELLA)、1967年に「魚が出てきた日」(THE DAY THE FISH CAME OUT)、1968年に「2001年宇宙の旅」(2001: A SPACE ODYSSEY)、1968年に「猿の惑星」(PLANET OF THE APES)が作られた。

当時、日本では、1960年に東宝のSFシリーズともいえる「電送人間」と「ガス人間第一号」が、1961年に「世界大戦争」、1962年に「妖星ゴラス」、1963年に「マタンゴ」や「海底軍艦」が公開されている。また、1961年に東宝の「モスラ」、1965年に大映の「大怪獣ガメラ」、1967年に松竹の「宇宙大怪獣ギララ」、日活の「大巨獣ガッパ」と怪獣が次々と生み出された。

1970年代になると、SF映画が多く作られ、話題作としては1971年の「アンドロメダ…」(THE ANDROMEDA STRAIN)、1971年の「時計じかけのオレンジ」(A CLOCKWORK ORANGE)、1972年に「惑星ソラリス」(Solaris)、1973年に「ソイレント・グリーン」(SOYLENT GREEN)、1973年に「ウエストワールド」(WESTWORLD)。

1973年に「イルカの日」(THE DAY OF THE DOLPHIN)、1974年に「ダーク・スター」(DARK STAR)、1976年に「未来世界」(FUTUREWORLD)、1976年に「地球に落ちて来た男」(THE MAN WHO FELL TO EARTH)、1977年に「スター・ウォーズ」(STAR WARS)と「未知との遭遇」(CLOSE ENCOUNTERS OF THE THIRD KIND)、1979年に「スター・トレック」(STAR TREK:THE MOTION PICTURE)、「エイリアン」(ALIEN)、「タイム・アフター・タイム」(TIME AFTER TIME)などがある。日本では、1973年に「日本沈没」が公開された。

とくに「スター・ウォーズ」や「未知との遭遇」や「エイリアン」などは世界的なSFブームを巻き起こし、マニアックな映画としてしか認識されていなかったSF作品を誰でも楽しめるエンターテインメントへと評価を変えた。

1980年代には1982年に「E.T.」(E.T. THE EXTRA-TERRESTRIAL)、1982年に「トロン」(TRON)、「ブレードランナー」(BLADE RUNNER)、「遊星からの物体X」(THE THING)、1984年に「ターミネーター」(THE TERMINATOR)、1985年に「バック・トゥ・ザ・フューチャー」(BACK TO THE FUTURE)、1985年に「未来世紀ブラジル」(BRAZIL)、1987年に「ヒドゥン」(THE HIDDEN)、1987年に「プレデター」(PREDATOR)と後に影響を及ぼす作品が目立った。

1990年代になると、1992年に「透明人間」(MEMOIRS OF AN INVISIBLE MAN)、1994年に「スターゲイト」(STARGATE)、1995年に「12モンキーズ」(TWELVE MONKEYS)、1996年に「インデペンデンス・デイ」(INDEPENDENCE DAY)、1997年に「フィフス・エレメント」(THE FIFTH ELEMENT)、1998年に「アルマゲドン」(ARMAGEDDON)、1999年に「13F」(THE THIRTEENTH FLOOR)、1999年に「マトリックス」(THE MATRIX)などが公開された。日本では、1995年に「ガメラ 大怪獣空中決戦」などが健闘した。

21世紀になると、主なものとして2001年の「エボリューション」(EVOLUTION)、2002年の「バイオハザード」(RESIDENT EVIL)、2011年の「世界侵略: ロサンゼルス決戦」(WORLD INVASION)などが作られている。

2004年8月26日の英国の「ガーディアン誌」が発表した科学者グループによるベスト10は以下の通り。
1位 ブレードランナー
2位 2001年宇宙の旅
3位 スター・ウォーズ/スター・ウォーズ/帝国の逆襲
4位 エイリアン
5位 惑星ソラリス
6位 ターミネーター/ターミネーター2
7位 地球の静止する日
8位 宇宙戦争
9位 マトリックス
10位 未知との遭遇