俳優と監督の意思疎通が適切で成功した「J・ウィック2」(217)

【ケイシーの映画冗報=2017年7月13日】2014年(日本では2015年)、1本のアクション映画が世界中でヒットしました。「男の名は、ジョン・ウィック 伝説の殺し屋が、目を覚ます」。

現在、一般公開中の「ジョン・ウィック チャプター2」((C)2017 Summit Entertainment, LLC. All Rights Reserved.)。

主人公の名前と状況を簡潔に表現したキャッチ・コピーを冠したこの作品は、映画史に残るSFアクション「マトリックス三部作」(The Matrix、1999年から2003年)に主演のあと、代表作に恵まれなかったキアヌ・リーヴス(Keanu Reeves)にとって、大きなアピールとなりました。文字通りの「世界は気づく、新たな伝説に。」(別のキャッチ・コピー)ことになったのです。

ヒット作の常道として、ただちに続編が決定しますが、かつても本稿で記したように「ヒット映画の続編」というのは成功作ばかりとはかぎりません。とくに「アクション映画」の続編となると、ハードルが一気に高くなる傾向があります。

原因はさまざまですが、公開後の反響から生じる、スタッフやキャストの「見解の相違」というか、「前作の呪縛」も主な理由となり、キアヌ自身もヒット作の続編映画の主役を降板した経験があります。

制作費は4000万ドル(約40億円)で、興行収入は1億6680万ドル(約166億8000万円)。

こうしたネガティブな事情もあるのですが、結果的に「ジョン・ウィック チャプター2」(John Wick: Chapter2)は公開された各国でヒットし、日本でも好調な客入りだそうです。

愛犬を殺され、愛車を奪われたことで強制的に“現役復帰”をはたしたジョン・ウィックが、前作のとりこぼしである愛車を取り返すことでストーリーが幕を開けます。

過去を清算したジョンは静かな生活への回帰をのぞむのですが、突然の訪問者がそれを許しませんでした。

イタリアン・マフィアの幹部ダントニオ(演じるのはリッカルド・スカマルチョ=Riccardo Scamarcio)の依頼は、組織のトップに就こうとする彼の実姉ジアナを暗殺することでした。ジョンは断りますが、報復としてダントニオはジョンの新居を爆破します。ジョンとダントニオが交わした「血の契約」は殺し屋の世界おいて、絶対の掟だったのです。

ジアナを暗殺するため、イタリアのローマへ入ったジョンは、彼女の暗殺に成功しますが、そこからジョンの新たな戦いが幕を開けます。警護対象だったジアナを殺されたボディガードのカシアン(演じるのはコモン=Common)はジョンへの復仇を誓い、実姉の敵討ちということでダントニオの勢力からも狙われることになったジョン。

はげしい闘いを繰り広げながらニューヨークへ戻ったジョンに、さらなる危機が迫ります。ダントニオがジョンに700万ドル(およそ7億円)の賞金をかけたのです。世界中の殺し屋のターゲットとなったジョンの孤独な闘いは続くのでした。

前作と同様に、今回もキアヌが演じるジョン・ウィックは、その戦闘力を存分に発揮し、前作で披露された射撃とカンフーを合一した「ガン・フー」だけでなく、車を武器として使って相手を吹っ飛ばす「カー・フー」やナイフを使った格闘である「ナイ・フー(?)」まで、さまざま戦闘技術を駆使しますが、こうしたアクションのすべてが前作より確実にアップ・グレートされており、前述した「前作の呪縛」にとらわれてはいないようです。

これは主演のキアヌと監督のチャド・スタエルスキ(Chad Stahelski)をはじめ、制作サイドとの意思の疎通がスムーズであることの証明ではないでしょうか。

キアヌとスタエルスキ監督の出会いは「マトリックス」の撮影現場で、スタントマンだった監督はなんとキアヌが演じる主人公ネオのスタントを担当していたのです。作品的には同じ人物を演じた同志ということでしょうか、「お互いに慣れている」(パンフレットより)と語るキアヌには監督への絶大な信頼が感じられます。

なお、スタエルスキ監督は映画づくりについてこう述べています。「観客が15ドル払って映画館に足を運ぶのは、夢を見るためでしょう。夢を売るのが私たちの仕事なのですから、中途半端は絶対にダメです!」(月刊「コンバットマガジン」2017年8月号)

このコメントは記憶しておく価値があると思います。商業作品の本質をつかみ取った言葉ではないでしょうか。

ハリウッド・スターとしての最高峰は「複数のシリーズ作品に主演すること」だという説があります。「マッドマックス」(Mad Max、1979年から)と「リーサル・ウェポン」(Lethal Weapon、1987年から)に主演したメル・ギブソン(Mel Gibson)や「ロッキー」(Rocky、1976年)、「ランボー」(Rambo/First Blood、1982年から)という長期シリーズをもつシルヴェスター・スタローン(Sylvester Stallone)ら、本当の選抜メンバーといえるでしょう。

すでに3作目もスタートしているそうなので、キアヌ・リーブスも上記のスターの仲間入りをするのは確実です。次回は「パワーレンジャー」の予定です(敬称略。【ケイシーの映画冗報】は映画通のケイシーさんが映画をテーマにして自由に書きます。時には最新作の紹介になることや、過去の作品に言及することもあります。当分の間、隔週木曜日に掲載します。また、画像の説明、編集注は著者と関係ありません)。