5人の苦悩を描き、子供も大人も楽しめる「パワーレンジャー」(218)

【ケイシーの映画冗報=2017年7月27日】1960年代の特撮怪獣映画から、日本の映像コンテンツは海外市場へと乗り出し、それなりの成功を収めてきましたが、長期にわたって提供され続けた作品は多くありません。「はやりすたり」というものは、人間社会における不変の法則といえるものなので。

現在、公開中の「パワーレンジャー」((C)2016 Lions Gate TM&(C)Toei&SCG P.R.)。

そんな中、1975年に本国の日本でスタートした「戦隊ヒーロー」と呼ばれる作品群は、一時の中断はあったものの、現在でも放送中の長期シリーズとなっています。

この「戦隊ヒーロー」が1993年からアメリカで「パワーレンジャー」(Power Rangers)というタイトルでテレビ放送され、かの地でも人気を博しました。

特撮やアクションは日本の映像を使い、ヒーローたちが変身する前のドラマは現地アメリカで撮影したものを合致させたいわば“ニコイチ”の作品でしたが、「複数のメンバーが力を合わせて悪と戦う」というモチーフが、スーパーマンやバットマンといった単独のヒーローに慣れたアメリカでは新鮮だったことや、関連商品がヒットしたことから、かの地でも現在まで続く人気コンテンツとなっています。

その人気シリーズが、アメリカでの活躍開始から4半世紀を経て、制作費1億ドル(約100億円)の超大作「パワーレンジャー」として制作され、世界的なヒット記録を引っさげて故国に“凱旋(がいせん)”したのが本作です。

アメリカののどかな地方都市エンジェル・グローブ。地元の高校に通うジェイソン(演じるのはデイカー・モンゴメリー=Dacre Montgomery)やキンバリー(演じるのはナオミ・スコット=Naomi Scott)たち5人のティーン・エイジャーは、古くなった採掘場で不思議なコインを手にすることで、強靭(きょうじん)な肉体とパワーを得てしまいます。

戸惑う彼らは太古から地球に存在したというゾードン(声の出演はブライアン・クランストン=Bryan Cranston)から、6500万年前の戦いで力を喪ったはずの悪の化身リタ(演じるのはエリザベス・バンクス=Elizabeth Banks)が復活したことを告げられます。

そして、5人が協力してパワーレンジャーに変身して、強大な力を持つリタと戦うことを命じます。なにもわからないまま、「ヒーローになるための試練」に取り組むジェイソンたちですが、性別だけでなく、人種や生活状況もことなるメンバーということもあって、なかなか試練をクリアすることができません。

その一方、復活したリタは着実に力を増し、ついにエンジェル・ グローブの街に姿をあらわします。はたして5人の少年少女はパワーレンジャーとなって、リタの蛮行をくい止めることができるのか。

本作で興味深いのが、原典が子ども番組ということもあって、監督のディーン・イズラライト(Dean Israelite)をはじめ、主要キャストの多くが、幼少期に「パワーレンジャー」の映像やおもちゃになじみがあったということでしょう。こうした感覚は監督のこのひとことに集約されていると思います。
「大きくなると卒業してしまったけど『パワーレンジャー』は子ども時代の良い思い出として残っている」(パンフレットより)

かといって、イズラライト監督は本作を「テレビシリーズの単純なスケールアップ版」とはしていません。パワーレンジャーに選ばれた5人には、それぞれの挫折や家族の問題、そして自身の内面といった、現代の若者が持っている課題を描くということは、正味20分ほどの連続ドラマでは、こうした部分を丁寧に描くにはさまざまな制約(たとえば、変身後のアクション・シーンは劇中に必須)もあって不得手です。

さらに、5人そろったパワーレンジャーの登場は、クライマックスまで待たなければなりません。劇場作品としては派手さに欠けるかもしれませんが、個人的には楽しめました。鑑賞中、「パワーレンジャーに変身できない」もどかしさを登場人物たちと共有してしまったからです。

これはたぶん、こうした作品の世界観から「大人になって卒業」していないという個人的な事情なのでしょうが、これこそまさに、監督の術中にはまったということでしょう。「少年少女たちが、決して簡単に変身できないということ??このテーマを、ティーンをはじめとする観客たちも支持してくれると信じているよ」(前掲より)

長い歴史のある定番の作品には、どうしても歴代作に作品が固縛されてしまうきらいがあります。定番は定番で否定するわけではありませんが、過去作からの雄飛もときには必要な選択であり、本作は子ども向けというジャンルから離れても、魅力ある一作だと感じます。次回は「ザ・マミー/ 呪われた砂漠の王女」を予定しています。(敬称略。【ケイシーの映画冗報】は映画通のケイシーさんが映画をテーマにして自由に書きます。時には最新作の紹介になることや、過去の作品に言及することもあります。当分の間、隔週木曜日に掲載します。また、画像の説明、編集注は著者と関係ありません)。