魔力を持ちながら魅力的な女性を描いた「ハムナプトラ」(219)

【ケイシーの映画冗報=2017年8月10日】現代のイラクで活動するアメリカ軍人でありながら、軍の作戦よりも「宝探し」に奔走するニック(演じるのはトム・クルーズ=Tom Cruise)は、宝物が眠っているという武装ゲリラの拠点を爆撃で破壊します。

現在、一般公開中の「ザ・マミー/呪われた砂漠の王女」((C)Universal Pictures)。制作費が1億2500万ドル(約125億円)で、興行収入が6月からアメリカで公開されて以降、これまでに3億9769万ドル(約397億6900万円)となっている。

その地下には巨大な空間が広がっていました。未発見の墳墓だったのです。研究機関プロディジウムの女性研究者ジェニー(演じるのはアナベル・ウォーリス=Annabelle Frances Wallis)らと地下に降り立ったニックは、厳重に保護された柩(ひつぎ)を発見します。

古代エジプトで大罪を犯した王女アマネット(演じるのはソフィア・ブテラ=Sofia Boutella)のミイラが眠るその柩は、イラクからプロディジウムの研究施設のある英国に輸送機で向かいますが、機体は鳥の大群に襲われてロンドン郊外に墜落、生存者はジェニーひとりでした。

ニックが目を覚ましたのはなんと霊安室で、墜落事故に直面したのにかかわらず、無傷でした。驚きを隠せないニックに、プロディウムのヘンリー博士(演じるのはラッセル・クロウ=Russell Crowe)は、アマネットが邪悪な存在で、現代で力を発揮するためにニックが重要な鍵として選ばれたことを告げます。アマネットを倒すことがプロディウムと自分の仕事であり、ニックにも協力を求めますが、ヘンリーには裏の目的があるのでした。

前回の「パワーレンジャー」や春の超大作「キングコング 髑髏島(どくろとう)の巨神」など、最近のハリウッドでは過去作品のリブート(仕切り直し)の作品が増える傾向にあります。

6月9日に全米4035館で封切られ、公開初週末に3168万ドル(約31億6800万円)を稼ぎ出したが、これは「ミイラ誕生」をリブートし、1999年に公開された「ハムナプトラ/失われた砂漠の都」の4336万ドル(43億3600万円)を下回った。

これを「旧作からの積極的な掘り起こし作業」と好印象をもつか、「ネタ不足だから評価の定まった過去作品に題材を求めた」と消極的な発想とするかはわかれるところでしょうが、個人的には「作品が面白ければ」かまわないと考えています。

他者の作品を観て、「いい作品だったが、オレ(私なら)ならこうする」という発想は、作家や脚本家、監督や俳優といったパーソナリティには自然なことだからです。

本作「ザ・マミー/呪われた砂漠の王女」の源泉は1932年の「ミイラ再生」(The Mummy)というモノクロ作品です。そのころ広まっていたエジプトでの墳墓発掘が原因とされた怪死事件、「ファラオの呪い」を芯に据えた作品でした。この翌1933年にはオリジナルの「キングコング」(King Kong)もあり、映画の嗜好も今と似通っていたようです。

当然ながら、本作は「ミイラ再生」の単なる焼き増しではありません。最大の違いは「呪われた者」が「全身を包帯で覆われ、どちらかといえば鈍重」という旧来のイメージではなく、「恐ろしい魔力を持った力強く、かつ魅力的な女性」へと変更されていることでしょう。

監督のアレックス・カーツマン(Alex Kurtzman)によると、アマネット役を自身のイメージに合致したソフィア・ブテラに依頼し、彼女がオーケーするまで、粘り強く交渉を重ねたそうです。アマネット役が決定した2カ月後に、主役のニックがトム・クルーズに決定したとのことなので、カーツマン監督のアマネットというキャラクターへの意気ごみが感じられます。

たしかに主役こそハリウッドきってのスターであるクルーズですが、タイトルは「ザ・マミー」なのですから、アマネットが最重要であることは間違いありません。

カーツマン監督が語る「モンスター映画で重要なのは、彼らに対して恐怖を感じるのと同時に愛情を感じることなんだ」(パンフレットより)というポイントはキッチリと描かれています。

ダンサー出身で高い身体能力を持つブテラは、「悪のヒロインでありながら邪悪なだけではない」というアマネットのキャラクターを存分に引き出しています。決してセリフの多くない古代の王女は、全身を使った表現が重要となるからです。

興味深いのは、前回のディーン・イズラライト(Dean Israelite)監督のようなコメントを主演のクルーズもしていることです。「狼男やドラキュラ、ミイラが大好きだった。子どもの頃に観て怖かったことを憶えている」(前掲より)ので、幼少期の映像体験がどれほど強く影響するのかを、実感せずにはいられません。

制作会社のユニバーサル・ピクチャーズによると「ダーク・ユニバース」というブランドで、本作と同一の世界観で複数の映画作品が待機しているそうです。こうした制作体制は、前述の「髑髏島の巨神」も同様で、最近のハリウッドにおける一大潮流となっています。

プロディウムの施設には牙を持った人間の頭蓋骨や、異様な生物の標本が並べられ、ヘンリー博士のフルネームはヘンリー・ジキルという、創作されたもっとも有名な多重人格者です。他の作品にも、本作の登場人物は絡んで(巻きこまれて?)いくのは確実でしょう。次回は「スパイダーマン/ホームカミング」の予定です(敬称略。【ケイシーの映画冗報】は映画通のケイシーさんが映画をテーマにして自由に書きます。時には最新作の紹介になることや、過去の作品に言及することもあります。当分の間、隔週木曜日に掲載します。また、画像の説明、編集注は著者と関係ありません)。

編集注:ウイキペディアによると、「王家の呪い、curse of the pharaohs)」とは、エジプト王家の墳墓を発掘する者には呪いがかかる、という信仰で、1920年代のエジプトにおいて、王家の谷で古代エジプト第18王朝のファラオ、ツタンカーメン(Tutankhamun、紀元前1342年頃-紀元前1324年頃)の墳墓を発掘してミイラをとりだしたカーナヴォン卿(George Edward Stanhope Molyneux Herbert、5th Earl of Carnarvon、1866-1923)および発掘に関係した数名らが、発掘作業の直後次々と急死したとされる出来事からこうした伝説が生まれた。

何らかのガスが墳墓に溜まっていて、墳墓をあばいた時にそれを吸った影響ではないか、と見なす人がいたが、墓の開封に立ち会った人で実際に急死したのはカーナヴォン卿だけであり、そのカーナヴォン卿も発掘以前にヒゲを剃っていた時に誤って蚊に刺された跡を傷つけたことにより熱病に感染し、肺炎を併発したことが死因と確認されている。

コナン・ドイル(Sir Arthur Ignatius Conan Doyle、1859–1930)も王の墳墓を荒らす墓荒らしを懲らしめるために致死性のカビのようなものが意図的に配置されていたのではないかと見なした。現在では、古代エジプト墳墓の空気も調査されているが、有毒なガス、カビの存在は確認されていない。

ツタンカーメンの墓の発掘に直接携わった者で1年以内に亡くなったのはカーナヴォン卿だけだが、呪いの真相について、英国のエジプト考古学者であり、ツタンカーメン王の墓を発見したハワード・カーター(Howard Carter、1874-1939)と独占契約を結んだ新聞、タイムズに対抗した他の新聞社が、発掘関係者が死亡するたびに「王家の呪い」と報じたことが原因とされている。

「ダーク・ユニバース(Dark Universe)」は、ユニバーサル・ピクチャーズが歴代のモンスター映画をリブートした新シリーズを制作するもので、1920年頃以降、ハリウッド・モンスター映画を「1つのシリーズ」にまとめ上げる歴史的クロスオーバー作品をいう。

シリーズを主導するのはアメリカのプロデューサー、アレックス・カーツマン(Alex Kurtzman)とアメリカの脚本家、クリス・モーガン(Chris Morgan)で、ラッセル・クロウ(Russell Ira Crowe)演じるヘンリー・ジキル博士率いる研究機関「プロディジウム」を中心に描き、現代世界を舞台にしたアドベンチャー映画をめざしている。

現在、2017年の「ザ・マミー 呪われた砂漠の王女」以降に、企画されているのは、2019年の「フランケンシュタインの花嫁(仮)」、「大アマゾンの半魚人(仮)」(公開年未定)、「透明人間(仮)」(公開日未定)、「ヴァン・ヘルシング(仮)」(公開日未定)。

「狼男(仮)」(公開日未定)、「フランケンシュタイン(仮)」(公開日未定)、「魔人ドラキュラ」(公開日未定)、「オペラの怪人」(公開日未定)、「ノートルダムのせむし男」(公開日未定)などが予定されている。

ユニバーサル・スタジオは1923年の「ノートルダムのせむし男」をはじめ、1920年代だけでも「オペラの怪人」(1925年)、「猫とカナリヤ」(1927年)、「笑ふ男」(1928年)、「ラスト・ウォーニング(最後の警告、The Last Warning)」(1929年)、「ラスト・パフォーマンス(最後の演技、The Last Performance)」(1929年)などがある。