身近なスーパーヒーローを楽しめる新「スパイダーマン」(220)

【ケイシーの映画冗報=2017年8月24日】前々回の「パワーレンジャー」の起源である「戦隊シリーズ」や「仮面ライダー」、「ウルトラマン」といった “日本産ヒーロー”には、大きな共通項があります。「新作が常に新しいキャラクターとして作られる」ということで、「○○戦隊□□レンジャー」や「仮面ライダー△△」「ウルトラマンXX」といったような名前で新作が産み出されているわけです。

現在、一般公開中の「スパイダーマン:ホームカミング」((C)Marvel Studios 2017. (C)2017 CTMG. All Rights Reserved.)。制作費が1億7500万ドル(約175億円)。

それに対し、アメリカ産のヒーローは、「スーパーマン」(1938年)や「バットマン」(1939年)などのベテランでも、細部の改変があってもキャラクターに大きな変更はありません。スーパーマンの変身前はクラーク・ケント(Clark Kent)という名前の新聞記者で、本当は宇宙人だという設定や、バットマンの正体が大富豪ブルース・ウェイン(Bruce Wayne)であるといった具合です。

「スパイダーマン」はマーベル・コミックで1962年に生まれたキャラクターです。平凡な高校生ピーター・パーカーが、特殊なクモに噛まれたことから、クモの特殊能力を持つスパイダーマンとして活躍するというストーリーの骨子は、これまで作られた5本の映画シリーズとかわらないものの、本作での「ピーター/スパイダーマン」の年齢設定は最年少の15歳となっており、前シリーズまで描かれていた「少年がスーパーパワーを手に入れる」という課程はなく、冒頭からスパイダーマンとして活躍しており、新鮮味を感じさせる展開となっています。

ピーター(演じるのはトム・ホランド=Tom Holland)は、高校生ながら、放課後は自作のスーツを着てスパイダーマンとなり、ニューヨークの安全を守っていました。

ピーターの願いは、地球を守るヒーロー集団“アベンジャーズ”の一員となることですが、リーダー格のアイアンマン(演じるのはロバート・ダウニー・Jr=Robert Downey,Jr)に請われてお手伝いを1回しただけで、「まだ若いから」と正式な入団はかないませんでした。

実績と経験をもとめてヒーロー活動にいそしむスパイダーマンでしたが、飛行マシンを操るバルチャー(演じるのはマイケル・キートン=Michael Keaton)の一味が、エイリアンの技術で作った兵器を売りさばいていることを知ると、ひとりで解決しようと行動し、大きなミスをしてしまいます。その結果、アイアンマンから叱責され、彼から預かった特性スーツも取り上げられてしまいます。

それでも正義のために活動するスパイダーマンは、ついにバルチャーと対峙することになりますが、それは冷徹な現実と厳しい試練と向かい合うことになるのです。

スパイダーマンを演じたトム・ホランドは、これまでにないスパイダーマンを心がけたといいます。「今までとは違うロールモデル(お手本)を作りたいと思ったんだ」(2017年8月18日付読売新聞夕刊)

ミュージカルの出演からキャリアをスタートさせたホランドは、その高い身体能力で、スタントに頼ることなく多くのシーンでスパイダーマンを演じているそうです。
「今までのスパイダーマンにできなかった限界を突破することができたと思うし、(中略)スタントマンとしてどこまでできるかという挑戦が楽しかった」(前掲紙)

この挑戦という感覚は、監督のジョン・ワッツ(Jon Watts)も持っていたようで、彼はこれまでにあったスパイダーマンを研究し(日本で作られた実写版まで)、その上で「スパイダーマンが史上最高のスーパーヒーローである理由をみんなに思い出してもらいたい」(パンフレットより)という意図で本作を仕上げたそうです。

たしかに、クモに噛まれて超能力を得たピーター・パーカーは、その1点をのぞけば「オタクで宿題もちゃんとやる」(前掲紙)ごく普通の高校生です。親友に正体を知られて必死に誤魔化そうとしたり、才色兼備の先輩女性に憧れたりといった、日常的な学生生活を送っています。大富豪であったり、じつは宇宙人であったりといった難しい(面倒な?)背景を持っていません。

そのためか、本作のピーター/スパイダーマンは、明るく元気で「困った人を助けたい」や「悪事を見逃すことはできない」といった、純粋な動機でヒーローとして振る舞いますが、若さと未熟さから大きなミスをしてしまうという、これまた普遍的な状況といえるでしょう。

これは悪役であるバルチャーが「(自分の)会社と家族のために」悪事をはたらくことにも一脈通じています。称揚はできませんが、こうした発想を持ってしまうことも実社会ではあり得ることなのですから。

シリーズ全体で「あなたの親愛なる隣人」という一貫したキャッチコピーをもつスパイダーマン。本作は、このコピーどおりの身近なヒーローとしての活躍が楽しめる良作となっています。次回は「関ヶ原」を予定しています(敬称略。【ケイシーの映画冗報】は映画通のケイシーさんが映画をテーマにして自由に書きます。時には最新作の紹介になることや、過去の作品に言及することもあります。当分の間、隔週木曜日に掲載します。また、画像の説明、編集注は著者と関係ありません)。