インド、新規18万台に半減、邦人家族が帰国後陽性の悲劇(72)

【モハンティ三智江のインド発コロナ観戦記=2021年6月22日】5月26日のサイクロンは、当地プリー(Puri)から220キロ離れたバラソール(Balasore)地方のダムラ(Dhamra)港に上陸、極めて強いサイクロンとの予報が出ていたので、ビビッていたが、前夜ちょっとした雨風が吹き荒れた程度で、無事免れた。

5月26日、当オディシャ州に上陸したサイクロン「ヤース(Yaas、アラビア語で木という意味)」。当地プリーは被害を免れたが、北部オディシャは村落地帯が浸水し、甚大な被害を被った。中央のモディ首相も視察に訪れ、日本円にして140億円の助成金が支払われることに(画像はウィキペディア)。

3日前から万全の防備体制を整えていただけに、やや拍子抜け、予報に反して弱めのサイクロンだったようだ。

とはいえ、高波や豪雨による洪水で浸水した村落地帯など、被災地を慮(おもんばか)ると、よかったと胸を撫で下ろすのもなんだか気が引ける。2019年5月に当地はスーパーサイクロンに直撃され、甚大な被害を被ったため、被災者のトラウマには感情移入できる。

5月はサイクロンシーズン、ほぼ毎年のようにベンガル湾(Bay of Bengal)の低気圧が発達して、サイクロン襲撃、近年は嵐のスケールも増して、スーパー級、当オディシャ州(Odisha)はそのたびに海岸部の低地エリアの住民を何十万人とシェルターに避難させ、1999年に2万余人の犠牲者を出した二の舞を極力避けてきた。

去年もこの時期、ロックダウン(都市封鎖)とサイクロンのダブルパンチに見舞われたが、当地に限って言えば、サイクロンは去年の方が強めだった。といっても、さらにその前年のスーパー級に比べるとずっとマイルドだったけど、まだ息子が避難帰省していなかった頃で、独りで不安な思いで、雨風に吹き荒れる一夜をまんじりともせず、過ごしたことを覚えている。

ただし、コロナに関しては、今年の方がメガで、避難所クラスターが出ないか、心配だ。マスクを着けていない人がいたみたいで、ソーシャルディスタンスも守られていなかったようだ。

サイクロン2日後の5月28日現在、当オディシャ州の新規感染者数数は6736人と、6000人台まで落ち込み、連日の1万人超に歯止めがかかった。が、実質陽性者は10万人超と他州に比べれば、地方にしては多い方だ(累計73万3000人、死者2618人)。

一方、インド全土だが、TSUNAMI(ツナミ)級第2波も漸減傾向にあり、新規数はピークの40万人超から半減(18万6000人)、都市部は軒並み急減している。だたし、死者数は新規いまだに3660人と、第1波時よりはるかに多く、世界ワーストの汚名の王座は揺るがない(累計2760万人、実質270万人、死者31万9000人)。

「ヤース」のインド上陸を軌跡を図解。

いずれにしろ、魔の5月がようやく終わろうとしている。自分でも、よく乗り越えられたと思っている。ドラマに振り回されたくないと思いつつ、気づくと、俯瞰(ふかん)の位置を忘れて、どっぷりはまり込み、目一杯振り回されていた。サイクロンを切り抜けた今、ようやく平静な境地に戻れた。

ほっと一息ついて、田村正和追悼ドラマも楽しめる余裕を取り戻した。

ちなみに、第2波急減の理由だが、ロックダウン効果と個人的には思い込んでいたが、日本の北里大学特別栄誉教授、大村智博士が2015年ノーベル医学生理学賞を受賞した発明薬、「イベルメクチン」の本格投与が功を奏したとも言われる。

イベルメクチンとは抗寄生虫薬、いわゆる虫下しだが(熱帯地の象皮病などに効果)、先進国では治験データが十分でなく未承認のため、ワクチンが行き渡らない途上国でもっぱら治療薬として使われているみたいだ。

アメリカの病院やオーストラリアの研究所でもコロナ抑制効果が報告されているが、ワクチンに比べ、副作用もないし、軽症に78%もの効果があるなら、今後もっと広く使われるべきだと思う。

この特効薬が一役買ったということなら、急減の根拠もより明白になる。全土の回復率は90%と高く、首都デリー準州(Delhi)の新規数は1072人(回復者3725人)、実質4万人(累計142万人、死者2万3812人)、つい3週間前まで、酸素不足で患者がバタバタ息絶える修羅場が繰り広げられていた地獄キャピタルとは到底信じ難い。

累計ワースト州のマハラシュトラ(Maharashtra、累計567万人、実質陽性39万人、死者9万2275人)、次点のカルナータカ州(Karnataka、累計252万人、実質陽性43万人、死者2万7405人)も、新規はそれぞれ2万1273人、2万4214人と、2万人台まで急落している。累計では、マハラシュトラがダントツだが、実質数はカルナータカの方が上回り、実質ワースト州は、南部カルナータカである。

第1波時は、西部の都会州に比べると、少なめで、帰国するには州都のバンガロール(Bangalore)発がいいかなと考えたこともあったのだが。

新規数のトップは南部のタミルナドゥ州(Tamil Nadu)で、3万3361人と、回復者数3万0063人を上回り、累計198万人(4位)、実質34万人、死者2万2289人である。累計3位はケララ州(Kerala)で245万人だが、実質25万人、ただし、他3州に比べると死者数が8063人と、異常に少ない。

これまで西のマハラシュトラ州ばかりが悪者扱いされてきたが、第2波では打って変わって南インドの都市部が真っ赤に塗り替えられた感じた。

実際、マハラシュトラ州は第2波大爆発に際しての対応を褒められることもあり、コロナ征伐落第生がやや威信を回復した感じ、カルナータカが模範生から転落したのは、気の緩みが大きな一因だろう。

さて、ワクチンを始め、各国からの救援物資が続々届いているが、英植民地来の煩雑で非能率的なお役所手続き、レッドテープ(官僚的形式主義)に引っかかり、全土に迅速に行き渡らない。

人の不幸につけ込む輩が跋扈(ばっこ)、闇で横流しのワクチンやレムデシベル薬(アメリカのギリアド・サイエンシズが開発生産、エボラ出血熱の治療のために開発された)、酸素ボンベの値を法外に釣り上げたり、市立病院でも1ベッドを高額で売ったり、天性のイカサマ師(チート)、インド人の不謹慎ぶりはとどまるところを知らず、第2次被害の人災を招いている。

接種ペースは、TSUNAMI級第2波に足元を掬われて遅々と進まず、現時点で1億5600万回超(1回のみ、全体の11.4%)、パンジャブ州(Punjab)が直接、米ファイザー(Pfizer)製のワクチン買い付けに乗り出したが、中央政府としか取引しないことを理由に一蹴され、最大野党の国民会議派(Congress I)が、州任せにしている中央の無責任ぶりを糾弾するひとコマもあった。

既にロシア製ワクチン、スプトーニクⅤ(Sputnik V)が市場に出回っており、インド最大の病院チェーン、アポロホスビタル(1983年創立、全国71院展開、クリニック・薬局も多数)では、接種体制に入っている。

滞っている事務上の手続きが早期に処理され、各州にワクチン始めの救援物資が行き渡ることを切に望む。

〇邦人関連情報/帰還者が空港で感染?

インドから帰国した邦人家族が検疫局の6日隔離(現在は10日)を終え、地方の自宅に戻り、数日後に陽性発覚したニュースは、私の注意を引きつけた。

持ち帰った証明書はもちろん陰性、空港の抗原検査もパス、隔離期間中の2回の検査も通っている。どこで感染したのだろうか。

インド滞在中、同家族は厳密にルールを守り、ほとんど室内から出なかったという。ということは、恐らくこのままインドに滞在していたなら、感染を免れたのではないか。帰国のために動き出したことが仇になったように思われる。移動中の特に空港が怪しい。

インドか(いまだ封鎖中で人は疎ら)、日本かはわからないが、日本の検疫局も、昨夏の米からの帰国者によると、防護服未着用、ソーシャルディスタンスなしでゆるゆると言われるので(今は改善したかもしれない)、待ち時間も長いし、ほかの帰国者からもらうこともありうる。

インド帰り、しかも感染者ということで、風評被害もあるだろう。ただただお気の毒というほかはない。第2波大爆発でパニックに陥り、ほうほうの体で逃げ帰ったことが裏目に出るなんて。

TSUNAMIが収まるのを今しばらく我慢して待っていれば、愛しの母国で白い目で見られる辛さを回避できたかしれない。

タイミングというのは、本当に大事だ。肝に銘じておきたい。今なら大丈夫という好機が来るまでは動きたくない、否動けない。帰りたくとも、じっと辛抱強くこらえてチャンスを待つしかない。

もうひとつ、帰国体験者の声を。水際対策は、強制送還も稀でないほど、やたら厳しいが、一旦隔離が解かれると、日本はなんでもありの世界でユルユル、落差にびっくりするそうだ。

先の家族も厳格なインドの枷から外れて一気に緊張が緩んだ、つまり自国で安心という気の緩みから生じた感染だったのかもしれない。大爆発のインドで感染を免れ、地獄から逃げ帰ったはずの安心の母国で呆気なく感染してしまうとは、最大の皮肉かもしれない。

(「インド発コロナ観戦記」は「観戦(感染)記」という意味で、インドに在住する作家で「ホテル・ラブ&ライフ」を経営しているモハンティ三智江さんが現地の新型コロナウイルスの実情について書いており、随時、掲載します。モハンティ三智江さんは福井県福井市生まれ、1987年にインドに移住し、翌1988年に現地男性(2019年秋に病死)と結婚、その後ホテルをオープン、文筆業との二足のわらじで、著書に「お気をつけてよい旅を!」(双葉社)、「インド人には、ご用心!」(三五館)などを刊行しており、コロナウイルスには感染していません。

また、息子はラッパーとしては、インドを代表するスターです。13億人超と中国に次ぐ世界第2位の人口大国、インド政府は2020年3月24日に全28州と直轄領などを対象に、完全封鎖命令を発令し、25日0時から21日間、完全封鎖し、4月14日に5月3日まで延長し、5月1日に17日まで再延長、17日に5月31日まで延長し、31日をもって解除しました。これにより延べ67日間となりました。ただし、5月4日から段階的に制限を緩和しています。

2021年6月17日現在、世界の感染者数は1億7704万3560人、死者は383万3089人、回復者数は1億1517万0210人です。インドは感染者数が2970万0313人、死亡者数が38万1903人、回復者が2849万1670人、アメリカに次いで2位になっています。

ちなみにアメリカの感染者数は3349万8468人、死亡者数が60万0653人(回復者は未公表)、ブラジルの感染者数は1762万8588人、死亡者数が49万3693人、回復者数が1556万9556人です。日本は感染者数が77万9974人、死亡者数が1万4297人、回復者が73万7600人(ダイヤモンド・プリンセス号を含む)。インドの州別の最新の数字の把握が難しく、著者の原稿のままを載せています。

また、インドでは2020年3月25日から4月14日までを「ロックダウン1.0」とし、4月14日から5月3日までを「ロックダウン2.0」、5月1日から17日までを「ロックダウン3.0」、18日から31日を「ロックダウン4.0」、6月1日から6月末まで「アンロックダウン(Unlockdown)1.0」、7月1日から「アンロックダウン2.0」と分類していますが、原稿では日本向けなので、すべてを「ロックダウン/アンロックダウン」と総称しています。

ただし、インド政府は2020年5月30日に感染状況が深刻な封じ込めゾーンについては、6月30日までのロックダウンの延長を決め、著者が住むオディシャ州は独自に6月末までの延長を決め、その後も期限を決めずに延長しています。この政府の延長を「ロックダウン5.0」と分類しています。2021年3月から第2波に突入するも、中央政府は全土的なロックタウンはいまだ発令せず、各州の判断に任せています。マハラシュトラ州や首都圏デリーはじめ、レッドゾーン州はほとんどが州単位の、期間はまちまちながら、ローカル・ロックタウンを敷いています。編集注は筆者と関係ありません)。