インド、第2波新規8万人台、イベルメクチンが効果も使用中止に(74)

【モハンティ三智江のインド発コロナ観戦記=2021年7月6日】6月13日、蒸し暑かったミッドサマーが終わって、例年通りモンスーン(雨季)に入った。朝から、じとじとした小雨が降って、太陽の隠れた空はどんより灰色だ。冷房フル回転から打って変わって、最速にダイヤルを合わせた扇風機が肌寒く感ぜられるほどだ。

雨雲の垂れ込めるベンガル湾(2016年7月)。当オディシャ州は6月17日から封鎖の段階的解除で、散歩も解禁されるので、42日後のモンスーンに入った雨季特有の曇海が見れるはずだ。

インド全土の新規感染者は、8日に8万人台と、第1波のピーク時の10万人弱を下回ったのを皮切りに、9万人台が4日続き、本日は8万0834人と減って(累計2940万人、実質140万人、死者37万人)、各州とも、段階的解除措置に踏み切り出した。

ただし、既に秋(9月から10月)の第3波が予測されているため、全土リバウンドを警戒し、状勢を睨みながら、少しずつといった慎重姿勢だ。また、新規死者数は記載漏れがあったようで、過日7000人台と世界最多記録を更新、昨日は4000人超、本日は3000人余である。

当オディシャ州(Odisha)は新規感染者4852人とピーク時から半減したが、地方州では依然多い方だ(累計84万7000人、実質5万8000人、死者3257人、新規死者47人と第1波より多め)。

ワーストのマハラシュトラ州(Maharashtra、人口約1億1200万人)も、新規1万0697人で、回復者数が1万4910人と上回り(累計590万人、実質270万人、死者10万8000人)、以下カルナータカ(Karnataka)、ケララ(Kerala)、タミルナドゥ(Tamil Nadu)、アンドラプラデシュ(Andhra Pradesh)とトップ5州の新規は6000人台から1万人台と、軒並み回復者数がはるかに上回る。

特筆すべきは首都デリー準州(Delhi、人口約2000万人)で、新規がたったの213人、実質3万人(累計143万人、死者2万4800人)で、ひと月半前に酸素不足で人が倒れ死に、地獄と化していたとは信じられない鎮静ぶりだ。

一方、1回のみのワクチン接種回数は2億回を突破したが、ペースは依然落ちており、中央政府は州任せにしていた方針を転換し、陣頭指揮を取り戻した。州単位だと、接種の足並みが揃わず、互いに出し抜こうとしたり、外国企業がワクチン売却を渋る弊害が懸念されていたのだ。


インド首相、ナレンドラ・モディ(2014年から在任、70歳)には、グジャラート州首相時代の2002年のグジャラート動乱でヒンドゥ教徒がイスラム教徒を虐殺するのを看過した黒い過去が。所属のインド人民党がヒンドゥ至上主義の理念を掲げるせいか、狂信的で、言論の自由に対する締めつけが前政権より厳しく、反対派への弾圧が水面下で続く

中央主導の、6月21日からの18歳以上の国民への無料接種を加速化すべく、諸外国からのワクチン買い付け(8月までの4億4000万回分を入手)と、本格的な接種再開に乗り出した。

第2波時治療薬としては目覚しい効果を発揮したイベルメクチン(ivermectin)は、保健省の使用薬リストから突如として外され、ワクチン一辺倒のWHO(World Health Organization、世界保健機関)の方針に則った形である。

実は、インドの弁護士連合会はWHOを訴えており、訴状内容は、インド側のイベルメクチン使用可否の打診に対して、未承認姿勢を貫いたせいで、助かるはずの命が多数犠牲になった、その責任を追及するというものだ。

確かに、西部ゴア州(Goa)政府はいち早くイベルメクチンを使用したことで死者数急減、しかし、南部タミルナドゥ州はWHOの指針に従って中止したため、他州に比べて、新規数もなかなか減らず、死者も多かったのである。

第2波の短期における驚異的な回復率は、1波時も使われていたイベルメクチンのおかげともいわれるため、残念だ。前の記事でも触れたが、同抗寄生虫薬は、日本の北里大学栄誉教授、大村智博士が発明し、2015年にノーベル生理学・医学賞に輝いたもので、アフリカで寄生虫による失明病(オンコセルカ症=河川盲目症)を治療するのに多大な貢献を果たしてきた。

一説には、アフリカで新型コロナ流行が予想をはるかに下回ったのは、日頃この虫下しを飲んでいるせいとも言われる。未だ有効な治療薬が開発されない現状では、ワクチンが進まない途上国ではミラクル既存薬ともいえ、副作用もないし、もっと推奨されてしかるべきと私見では思う。発明者の大村博士も、日本国内で治験を進め、一刻も早い承認を目指しているとも聞く。

なお、日本ほか諸外国で「インド株」で通用していた名称は、インド政府の抗議で「デルタ株」と改称され(WHOは5月31日、特定の国への差別的扱いを防ぐため、主な変異ウイルスをギリシア文字を用いた呼称に変えることを奨励)、イギリス株はアルファ株、ブラジル株はガンマ株、南ア株はベータ株と改称された。

さて、インド株改め、デルタ株(B1.617、B1.617・2、B1.617・3で、中でも2型が増加、日本でも市中感染例が懸念されている)の感染力は確かに強く(従来型の1.78倍)、あっというまに蔓延したものの、目を見張るような回復力(現在95%)を見ると、回復速度がやけにのろかった第1波に比べ、人々が脅威に思う程の毒性は有してないように個人的には思われる。

とにかく、第2波は最速で大爆発、が、TSUNAMI(ツナミ)は3週間でしぼみ始め、50日後の今や凪(なぎ)と化してしまった。B1.617という変異株の性質か、大々パニックに陥った魔の5月は、過ぎてみれば何だったのかと、素人の私は首を傾げるばかり、大騒ぎしたことの結果がこれで、唖然とさせられる。

もちろん、大勢の命が犠牲になった事実は消しがたく、甘く見て準備を怠った中央政府の責任ばかりか、殺到する患者に対処し切れなかった医療の不備による人災死は、汚点としてインド史に残るだろう。

パンデミック(世界的大流行)は一体、いつまで続くのか。あと、いくつの波を超えると、元通りの平和な世界に戻るのか。空恐ろしいことに、アメリカ筋の情報では、終息せずに続く、長期戦で下手すると10年単位との説もあり、終息を信じてインドの隔離に耐えている当方をひどく失望させた。ワクチンによる集団免疫幻想説、60%では無理で、90%説も出ており、ワクチン否定論者も少なくないことを見ると、この数字は不可能に等しい。

その一方で、2022年末終息宣言説(ビル・ゲイツ=William Henry “Bill” Gates Ⅲ)もあり、かすかな望みを繋ぐ昨今だ。ちなみに、パンデミックを予言し、変異株の出現も言い当てた、インドの天才少年占星術師・アビギャ君(Abhigya Anand)は、終息せず、ずっと続くと予言している。

神のみぞ知る、希望を捨てずに、帰国を夢見て、ヨガで免疫強化、目の前の仕事を淡々とこなすのみだ。

☆コロナ余話/パンデミック下のサバイバル術は?

インドのパンデミックは、昨年3月から始まり、かれこれ1年3カ月になる。常々不思議に思っていることだが、一般庶民は経済的にこの危機をどのように乗り切っているのだろうか。

その答の一端が英字紙の記事から窺われたので、ここに記してみる。曰く、金の装飾品を担保に入れて、現金化し、何とか凌いでいる家庭が多いらしい。

インドでは、ゴールドの需要が高く(世界一)、金は財産、嫁入り支度としても金製品は必須、中流以上の既婚婦人は、ネックレス、ピアス、リング、腕輪(現地語でバングル)、足輪(グングル)に至るまで、一式揃えて、嫁ぐのである。

なぁるほどと、思わず膝を打っていた。ちなみに、私事で恐縮だが、うちは貯金を切り崩し、ホテル収入ゼロの窮状を凌いでいるが、パンデミックが長引く、ほんとそれこそ半永続的となったら、どう切り抜ければいいのかわからない。

楽観主義の私はまあ、なんとかなるだろうと、思っているが(思いたい?)。パンデミック下、ただでさえストレスが大きいのだから、起こってもいない先のことを考えてもしかたないと、今は目の前のことを淡々とこなすのみだ。

〇トピックス/インド政府のSNS規制

インドの通信IT省が2月に発布した新ITルールに則って、TwitterやFacebookに対して、メッセージの始源者を開示するよう指示、個人のプライバシー侵害にあたり、守秘義務に反するとして、争いになっていたが、Twitterは要求に応じる構えだ。

第2波大爆発を招いた政府の失策に批判の声が高まる昨今、首相退陣を求める声もソーシャルネットワークで広がっていたことが、規制強化に繋がったようだ。初期にも批判コメントの削除や、反対派のアカウントをブロックするようにとの要請があったが、言論の自由に反するとして、ソーシャルメディア側ははねつけていた。

が、Twitter現地法人オフィスに警察が踏み込むなどの威嚇行為もあり、屈した形での500アカウントがブロックされた。Twitterは、インドにユーザー1億7500万人(世界2位)を有する。Facebook傘下のWhatsAppは5億3000万人のユーザーを抱えるだけに、現在首都デリーの法廷で係争中だ。

これまでも、反対派の意見を封じるなどの統制疑惑が持ち上がっていたが、インドのヒトラーとの異名をとる、強権モディ首相(Narendra Damodardas Modi、1950年生まれ)の締めつけはいよいよ厳しくなったようだ。

編集注:ウイキペディアによると、アドルフ・ヒトラー(Adolf Hitler、1889年4月20日-1945年4月30日)は、国家社会主義ドイツ労働者党(ナチス)の指導者で、ドイツ国の首相(1933年1月30日に就任)、および国家元首(総統=Fuhrer)だった。

1939年のポーランド侵攻に始まる第2次世界大戦を引き起こし、戦争の最中でユダヤ人に対する虐殺(1942年から1945年4月までにナチス政権下でアウシュヴィッツ=ビルケナウ強制収容所などでおよそ600万人のユダヤ人が虐殺されたとみられている)、障害者に対するT4作戦などの虐殺政策を推し進め、最終的に連合国の反撃を受け、すべての占領地と本土領土を失い、ヒトラー率いるドイツ国政府は崩壊した。ヒトラー本人は包囲されたベルリン市の総統地下壕内で自殺した。

(「インド発コロナ観戦記」は「観戦(感染)記」という意味で、インドに在住する作家で「ホテル・ラブ&ライフ」を経営しているモハンティ三智江さんが現地の新型コロナウイルスの実情について書いており、随時、掲載します。モハンティ三智江さんは福井県福井市生まれ、1987年にインドに移住し、翌1988年に現地男性(2019年秋に病死)と結婚、その後ホテルをオープン、文筆業との二足のわらじで、著書に「お気をつけてよい旅を!」(双葉社)、「インド人には、ご用心!」(三五館)などを刊行しており、コロナウイルスには感染していません。

また、息子はラッパーとしては、インドを代表するスターです。13億人超と中国に次ぐ世界第2位の人口大国、インド政府は2020年3月24日に全28州と直轄領などを対象に、完全封鎖命令を発令し、25日0時から21日間、完全封鎖し、4月14日に5月3日まで延長し、5月1日に17日まで再延長、17日に5月31日まで延長し、31日をもって解除しました。これにより延べ67日間となりました。ただし、5月4日から段階的に制限を緩和しています。

2021年7月1日現在、世界の感染者数は1億8215万3508人、死者は394万6015人、回復者数は1億1951万7978人です。インドは感染者数が3036万2848人、死亡者数が60万8454人、回復者が2936万6601人、アメリカに次いで2位になっています。

ちなみにアメリカの感染者数は3366万4894人、死亡者数が60万4714人(回復者は未公表)、日本は感染者数が79万8693人、死亡者数が1万4756人、回復者が76万5572人(ダイヤモンド・プリンセス号を含む)。インドの州別の最新の数字の把握が難しく、著者の原稿のままを載せています。

また、インドでは2020年3月25日から4月14日までを「ロックダウン1.0」とし、4月14日から5月3日までを「ロックダウン2.0」、5月1日から17日までを「ロックダウン3.0」、18日から31日を「ロックダウン4.0」、6月1日から6月末まで「アンロックダウン(Unlockdown)1.0」、7月1日から「アンロックダウン2.0」と分類していますが、原稿では日本向けなので、すべてを「ロックダウン/アンロックダウン」と総称しています。

ただし、インド政府は2020年5月30日に感染状況が深刻な封じ込めゾーンについては、6月30日までのロックダウンの延長を決め、著者が住むオディシャ州は独自に6月末までの延長を決め、その後も期限を決めずに延長しています。この政府の延長を「ロックダウン5.0」と分類しています。2021年3月から第2波に突入するも、中央政府は全土的なロックタウンはいまだ発令せず、各州の判断に任せています。マハラシュトラ州や首都圏デリーはじめ、レッドゾーン州はほとんどが州単位の、期間はまちまちながら、ローカル・ロックダウンを敷いています。編集注は筆者と関係ありません)。