インド、東京五輪メダリストに興奮、新規は4万人前後に(77)

【モハンティ三智江のインド発コロナ観戦記=2021年8月17日】早いもので、7月も余すところ1日、今月は現地の義姉と日本の母が危篤という精神的にダブルの負荷がかかったが、そんな中、23日の東京五輪開会式はなかなか感動ものだった。

昨2020年に開かれるはずだった東京オリンピックはコロナ禍で1年延期の末、無観客で強行、各国の選手か競い合っての健闘は素晴らしいが、選手・関係者の相次ぐ感染が憂慮された(オリンピックの選手、関係者の累計で430人)。しかし、パンデミック下の異例の五輪開催は、暗い世相の中、希望の象徴でもあった(画像は聖火、競技場の外に置かれた。画像はいずれもウイキペディアより)

ドローン1824台による蒼い地球の美しさに見とれる一方で、世界地図が感染マップにも見えてしまったのは、パンデミック(世界的大流行)下の異例ずくめのオリンピックを象徴しているかのようで、インド、欧米、ブラジルが赤く点滅しだす妄想には参った。

個人的には、デルタ株急拡大のさなかのオリンピック強行は疑問視していたが、やはりこういうカタストロフィ下あえて開催し、スポーツを通して世界がひとつになるというのは、意義のあることかもしれない。絶望的な疫病流行下、一筋の希望を見る思いだった。いずれにしろ、歴史に残る無観客五輪として、末永く後世の人々の記憶に刻印されるだろう。

お膝元の日本選手の活躍はいうまでもないが、インドチームも健闘、24日には、重量挙げ女子49キロ級で、サイコム・ミラバイ・チャヌ(Saikhom Mirabai Chanu、26歳)さんが見事、銀メダルを獲得、現地メディアもこぞって1面に取り上げ、ヒーロー級のもてはやされ方をした。洪水やコロナ関連の暗いニュースが多い中で、唯一希望に繋がる朗報にも思えた。

さて、インドの感染現況だが、新規陽性者数は日々4万人前後で推移、2万9000人台まで落ちた日もあったが、本日7月30日付けのデータでは、新規4万4230人である(累計3160万人、実質90万人、死者42万3000人)。

実質ワースト州は、南部ケララ(Kerala、人口3460万人)で、未だに新規は2万人超(2万2064人)である(累計335万人、実質17万人、死者1万6585人)。次点はマハラシュトラ州(Maharashtra、人口1億1420万人)だが、新規は1万人を切って(7242人)、累計626万人、実質21万人、死者13万2000人である。

新規1615人の当オディシャ(Odisha)を含め(累計97万4000人、実質2万1000人、死者5768人)、全土ほぼコントロール下にある昨今、21州70カ所の2万8975人を対象にした調査では、3人に2人が抗体ができており(抗体率は1回目の接種者が81%、2回目の接種者が89.8%、非接種者が62.3%、全体で67.6%と、1月の調査の約3倍)、もしこの推論どおりなら、次の波は、デルタのぶり返しで新変異株でない限り、第2波級のTSUNAMI(ツナミ)は避けられそうだ。

東京オリンピックの女子重量挙げ49キロ級で、インドに銀メダルをもたらしたミラバイ・チャヌさん。重量制限で長期間大好物のピザを食べれなかった彼女は、勝利のインタビュー第一声で、「ピザを心ゆくまで食べたい」。これを受けて現地法人ピザハットは、インドのヒーローを惜しみなく讃え、一生ピザでおもてなししますと、祝福のプレゼント。

ワクチン接種も進み、1回のみは3億5600万人超に達したが(26%)、ワーストトップ8州の民の70%(オディシャは68%)に抗体がてきているそうだから、接種完了者が少なくても、集団免疫は獲得したということで、これはインドの逆転と言えなくもない。

やはり、日頃感染症蔓延の不衛生な環境に慣れているので、耐性ができている。24歳以下の若者が半分を占める若い人口構成ということもあるが、回復力がめざましく(現在97.39%)、体質が強靭だ。

が、無論、ここに至るまで、死者倍増と多大な犠牲を強いられてきた。公称42万4000人だが、アメリカ筋の調査によると、実数は10倍と言われる。酸素不足でバタバタ倒れ、火葬場に遺体が溢れ、地獄の様相を呈した記憶はいまだ、生々しい。

大気汚染による呼吸器系統死が年間170万人超と言われるから、その2倍以上だ。コロナ孤児と言われる、両親をコビッド19に奪われた子どもたちも多数、政府が救済に乗り出している。

それはさておき、第2波統制下にあるインドは、次の波前の静けさで、つかの間の平和を満喫、リベンジツアーで山間避暑地やビーチリゾート地に繰り出すアッパーミドル層が後を絶たない。

残念ながら、当地のホテル街は、未だ活気にほど遠く静まり返っている。延長に次ぐ延長ロックダウン(都市封鎖)で、閉鎖がいつまで続くかわからない。全土第3波を神経質に警戒しているため、新規数が抑えられても、緩和に慎重で、当面封鎖明けは見送られそうだ。

●コロナ余話/世界にデルタ蔓延

デルタ株の当事国インド(人口13億6641万人)では、地獄のあとのモラトリアムピースにひと息ついているが、世界の急拡大が懸念される。特にインドネシア(人口2億7000万人)はワースト(新規4万1168人、累計337万人、実質64万人、死者9万2311人)、インドの二の舞、急増する新規死者数(1759人)に墓地か追いつかないと聞く。

第1波ではほとんど影響を受けなかったベトナムも、共産圏ならではの超厳しい封鎖下にあり、邦人は食料の買い出しを除いて監禁状態と聞いた(人口9936万人、新規7447人、累計15万8000人、実質11万5000人、死者1306人)。マレーシア(人口3275万人、新規1万7150人、累計113万人、実質20万人、死者9024人)の方が、人口対比新規も死者数も多いのだが。

ワクチン接種が進んだはずのアメリカ(人口3億2900万人)とて、新規12万人超(累計3500万人、死者61万3000人)、インドの3倍弱で、新規死者671人と、インドの593人より多い。接種後のブレイクスルー感染も続出しているという。

個人的には、このコラムの連載記事中何度も取り上げているイベルメクチン(日本のノーベル賞医学者が発明した抗寄生虫薬)を試してみればいいのにと思うか、未承認なので駄目だろう。副作用もないし、新規死最悪のインドネシアなどインドの事例にならって、トライしてみればいいのにと残念に思うばかりだ。

いずれにしろ、案じた通り、世界各国が5月の時点て対岸の火事と見ていたインドのデルタ地獄が国外に広まってしまった。デルタの猛威が収まるのはいつか。7月31日に新規4000人を突破した東京(8月2日付け日本全国データ、累計93万7000人、新規1万人超、実質10万人弱、死者1万5211人)を例にとると、オリンピックと夏休みが終わるまでは増え続けるだろう。

骨抜きの緊急事態宣言でなく、強制的な夜間外出禁止令で人流を抑えるべきだと思う。他国は日本よりはるかに厳しい封鎖措置で臨んでいる。経済との兼ね合いもあろうが、国民になめられている名ばかりの宣言では駄目た。厳格なロックダウンに耐えてきたインド在住者としては、痛い実感を持ち、しみじみとそう思う。

●邦人関連情報/家族が危篤の場合は?

帰国者自らの報告情報をチェックするのが日課になっているが、フィリピンに恋人がいて、自身も行き来が困難になっている若い男性(ダイスケさん)が発信する動画が、家族が危篤で帰国した人の事例を引いていたので、大変参考になった(「家族が危篤です」と題した動画を2回連続配信)。

もちろん、隔離措置は免除されるわけでないし、国内乗り継ぎ便も不可、強制隔離の期間中(この人の場合は6日間で5日目)に親の容態が急変、検疫局に相談し、翌々日ハイヤーで12万円かけて帰郷した。自宅でさらに8日間の隔離義務を済ませたものの、病院側が面会禁止、結局別の病院に運ばれる母と駐車場で面会、ひと目会うことができたとの顛末だった。

ダイスケさんが、家族が危篤で帰国するケースは少なくないので、日本政府は何らかの救済措置を人道上講じるべきと、当事者の気持ちに寄り添って代弁してくれていたのが、ありがたかった。

それと同時に、海外在住者の覚悟と自己責任についても触れており、日本政府に何とかせよと要求するのは、甘えかもしれないと少し耳に痛かった。

私自身長年の海外移住で、日頃から親の死に目に会えないかもしれないことは、それなりに覚悟してきた。近年は、日本とインドを年2度行ったり来たりしていたので、現地配偶者が危篤の場合も、会えないかもしれないと覚悟してきた。

海外移住というのは本来、そうした覚悟のもとになされるもので、今さら政府に何とかせよと要求するのも甘いかもしれないが、パンデミックという緊急事態下であることを鑑み、人道的支援をついお願いしたくなってしまう私だ。

2019年11月に現地人夫が急死したときも、折悪しく一時帰国中で、最期の対面は叶わなかった。手持ちの航空券の日付変更が不可能だったため、葬儀にも参列できなかった。ある程度覚悟していたこととはいえ、罪悪感や悔いが後々まで残ったものだ。

今後の推移を見ないと、なんとも言えないが、現況下での帰国は至難である。デルタ株本国からの未接種帰還者ということで、病院側の拒絶もあろう。コロナ前と違って、付きっきりで看病できるわけでない。移動することでの自身の感染リスクもあるし、万が一広げてしまったらと思うと、躊躇いが先に立つ。親族のみならず、周囲に多大な迷惑をかけてしまうだろう。

なんという因果な時代だろう。親が危篤でも飛んで帰れないなんて。病院でずっと付き添ってあげれないなんて。私にできることは、祈るのみだ。自己流レイキで、遠隔ヒーリングにもトライしている。念(おも)いが通じたのか、昏睡状態だった母が目を開け、痛いと短い言葉を発したと後日、朗報が届いた。

●トピックス/パンデミック下YouTubeでひと稼ぎ

出稼ぎ労働者だったアイザック・ムンダ(Isak Munda、35歳)さんは、コロナ禍で失職、家族を養うため、初の動画発信にトライ、3000ルピー(約4380円、インドの物価は日本の3分の1から4分の1)でスマートフォンを購入、自分の住むオディシャ州のローカルフードを紹介し始めた。

田舎のシンプルな手料理動画は当たって、5ラークもの大金が流れ込んだ(ラーク=lakhは10万ルピーの単位で約14万6000円×5=73万円)。一端の稼ぎ手YouTuberとして自立したのである。

モディ(Narendra Damodardas Modi、1950年生まれ)首相がホストの「心のこと」(マーン・キ・バート)というラジオ番組でも取り上げられ、賞賛された。

今や登録数は10万人を超えた。最新動画は、オディシャの夏の味覚、「ポコラ」、冷ヨーグルト発酵茶漬けを紹介し、大好評だ。

(「インド発コロナ観戦記」は「観戦(感染)記」という意味で、インドに在住する作家で「ホテル・ラブ&ライフ」を経営しているモハンティ三智江さんが現地の新型コロナウイルスの実情について書いており、随時、掲載します。モハンティ三智江さんは福井県福井市生まれ、1987年にインドに移住し、翌1988年に現地男性(2019年秋に病死)と結婚、その後ホテルをオープン、文筆業との二足のわらじで、著書に「お気をつけてよい旅を!」(双葉社)、「インド人には、ご用心!」(三五館)などを刊行しており、コロナウイルスには感染していません。

また、息子はラッパーとしては、インドを代表するスターです。13億人超と中国に次ぐ世界第2位の人口大国、インド政府は2020年3月24日に全28州と直轄領などを対象に、完全封鎖命令を発令し、25日0時から21日間、完全封鎖し、4月14日に5月3日まで延長し、5月1日に17日まで再延長、17日に5月31日まで延長し、31日をもって解除しました。これにより延べ67日間となりました。ただし、5月4日から段階的に制限を緩和しています。

2021年8月13日現在、世界の感染者数は2億0472万9264人、死者は432万4483人(回復者数は未公表)です。インドは感染者数が3207万7706人、死亡者数が42万9669人(回復者数は未公表)、アメリカに次いで2位になっています。

ちなみにアメリカの感染者数は3619万0179人、死亡者数が61万8479人(回復者は未公表)、日本は感染者数109万0260人、死亡者数が1万5372人、回復者が92万1521人(ダイヤモンド・プリンセス号を含む)。インドの州別の最新の数字の把握が難しく、著者の原稿のままを載せています。

また、インドでは2020年3月25日から4月14日までを「ロックダウン1.0」とし、4月14日から5月3日までを「ロックダウン2.0」、5月1日から17日までを「ロックダウン3.0」、18日から31日を「ロックダウン4.0」、6月1日から6月末まで「アンロックダウン(Unlockdown)1.0」、7月1日から「アンロックダウン2.0」と分類していますが、原稿では日本向けなので、すべてを「ロックダウン/アンロックダウン」と総称しています。

ただし、インド政府は2020年5月30日に感染状況が深刻な封じ込めゾーンについては、6月30日までのロックダウンの延長を決め、著者が住むオディシャ州は独自に6月末までの延長を決め、その後も期限を決めずに延長しています。この政府の延長を「ロックダウン5.0」と分類しています。2021年3月から第2波に突入するも、中央政府は全土的なロックタウンはいまだ発令せず、各州の判断に任せています。マハラシュトラ州や首都圏デリーはじめ、レッドゾーン州はほとんどが州単位の、期間はまちまちながら、ローカル・ロックダウンを敷いています。編集注は筆者と関係ありません)。