インドの地方在住者に陰性証明の高い壁、日本の厳格さに苦渋(83)

【モハンティ三智江のインド発コロナ観戦記=2021年11月19日】11月に突入した。早いもので、今年も余すところ2カ月となったが、前々号(81)でお伝えした国際線の緩和がまたしても、見送られた。来年1月までの延期は、第3波を警戒してのことだろうが、感染状況は依然コントロール下にあり、緩和を首を長くして待ちわびていた邦人在住者にとっては、見事肩透かしに終わった。前情報では、いかにもありえそうな期待をもたせる論調だっただけに、残念だ。

東京都内東横線の自由が丘駅で下車、大井町線に乗り換えて次の駅が九品仏。徒歩数分で公園入口、突き当たり奥に紅葉の名所・浄真寺の山門が見えてくる(2016年12月撮影)。

エアメールも届かない現鎖国状態は一体、いつまで続くのか。来年3月には、2年経過を迎え、国際便渡航者には解除がひとしお待ちわびられる。

11月1日のデータは、新規陽性者1万2514人(累計3430万人、死者45万8000人、新規死者251人)と1万人台で、第1波が統制下にあった本年1月の水準まで落ちている。特筆すべきは最悪のマハラシュトラ州(Maharashtra、人口1億1420万人)で、新規は1172人(累計661万人、死者14万人)まで激減したことで、新規の最悪州は7167人(累計497万人)の
ケララ州(Kerala、人口3460万人)で、新規死者数も167人と、マハラシュトラの20人をはるかに上回り、ワーストだが、死者総数は3万1681人とずっと少ない。

当オディシャ州(Odisha、人口4600万人)も、新規488人(累計104万人、死者8333人、新規死4人)とコントロールされ、当地プリー(Puri)のホテル街も正常時の経済活動が再開され、活気が戻っている。我がホテル・ラブ&ライフも改築・ペンキ塗りが進められており、年末年始シーズンに向けての万全体制を整えている。

母国日本も、収束で喜ばしいが、友人知人から、激減した理由が定かでないとのメールが届いたので、インドの収束と比較して、私なりに推測を試みたい。

5月に感染大爆発したインドも収束までひと月ちょっとと早かったが、主因は集団免疫(首都デリー=Delhi=の抗体保有率は97%とのデータも)と厳格なロックダウン(都市封鎖)、ほかに「イベルメクチン」(コロナに効く、2015年にノーベル生理学・医学賞を受賞した日本人が開発した抗寄生虫薬)効果が挙げられている。

私見だが、日本の場合は、ワクチン接種が進んだことも挙げられようが、爆発して、すっと引くというデルタの特徴もあるかもしれない。インドの場合も、それがあったように思う。あと、東京に限っては、集団免疫ができていた可能性も無視できない。

感染爆発は、オリンピックで外国人が大挙して入国したせいと、国民の気の緩みにあったと思うが、ちょうど夏季だったこともあるだろう。インドも、ミッドサマーに大爆発した。

真っ赤に噴き上げたもみじの華麗さが目を射った。コロナ禍来、一番好きな紅葉の季節を2度見送る羽目に。

日本の動画ニュースでは、デルタの弱毒化、ウイルス自体のコピーミスで感染力が弱まったものに置き換えられたせいとの、仮説も報じられていた。

さて、世界の現況だが、アメリカのワーストは変わらないものの、英国(人口6720万人、新規3万7667人、累計906万人、死者14万1000人、新規死74人)やロシア(人口1億4410万人、新規3万9931人、累計838万人、死者23万4000人、新規死者1131人)でデルタ流行が収まらず、英国は規制を全面撤廃したことによる陽性者急増(重症・死者数は過去の爆発時より少ない)、ロシアはワクチン接種が32.7%と進まないことにあるようだ(あまりにも早く開発されたスプトーニクⅤに国民が懐疑的)。

インド政府は、ワクチンの1回接種者が10億人を突破した快挙を誇らかに謳い上げているが、2回完了者は未だ4分の1にも満たず、吹聴することでもないと思うのだが。14億人近い総人口の10億人を超えたとなると、つい自慢したくもなるのだろう。

しかし、英国同様、既に「デルタプラス」という変異種が見つかっており、予断は許さない。第3波は免れ得ないと思うが、2波程のTSUNAMI(ツナミ)ではないだろうとの予測だ。欧米始め、日本もこれから冬季に入り、ぶり返しが懸念される。

ちなみに、日本の波が2カ月ごとくらいに細かくぶり返しているのは、緊急事態宣言の緩さゆえだ。インドくらい厳格なロックダウンを敷けば、半年置き程度になるはずだ。

コロナが夏と冬に猖獗(しょうけつ)を極める季節性のものというのと、各国の規制の違い、国民の行動パターンによっても、周期は異なってくると思う。

未だにワクチン至上主義で、ワクチンパスポートが水戸黄門の印籠紛いの絶大な効果を発揮しているが、ワクチンによる集団免疫は難しそうだし、感染予防もないことがわかった今は、治療薬の年内開発がつとに待たれる(インド国内でも開発中で、治験第3ステージ)。

黄金(こがね)に染まった銀杏の神木。金色(こんじき)のカーペットが敷き詰められた境内を散策したのは5年前。デルタ収束の今は、色づき始めているだろう。

若い知人がモデルナ製を2回接種して、腕が上がらない痛みや、高熱、倦怠感、関節痛などの副反応があったことから、もっと慎重になるべきだったとの、ワクチン体験を寄せてきたが、そういう意味からも、より安全性の高いワクチン開発に期待したい。

私はワクチン否定派ではないので、安全性と長期の効果が認められれば、打つことをためらうものでない。日本では、4人に3人が打って、2人が悔やみ、4人に1人が打たないとの統計が動画でまことしやかに出回っているが、真偽は定かでないものの、興味をそそられた。

私はいまだ未接種者で、慎重な姿勢は変わらないが、ワクチンパスが各国で採用されていることから、渡航上の便宜から避けられない事態になることを危惧している。グリーンパスの有無による分断・差別なきよう祈るばかりた。

最後に、最新速報として、WHO(世界保健機関)がインド国産のワクチン「コバキシン(Covaxin)」の緊急使用を認可したことを付け加えておく。

●在留邦人の帰るに帰れぬ事情

日本のデルタ流行が収束し、緊急事態宣言も解除されたが、水際対策は依然厳しく、陰性証明などの書類不備で強制送還される同胞が多くはないながらも、今もって、いるようだ。

私がぐずぐずと帰国を躊躇っている最大の理由は、書類の不備で搭乗拒否か、強制送還の憂き目を見、高額なチケットがふいになるリスクを恐れてのことだ。

情状酌量がいささかもない検疫局の厳格さには、途上国の在住邦人としては、戦々恐々だ。しかも、インドの田舎町在住。首都もしくは、日本便の出航する都会であれば、72時間前陰性証明の取得もまだしも、容易なのだが。

田舎なので、国内便で出航地まで飛ばなければならないのだ。先進国なら、医療機関に日本のフォーマットに記入してくれるよう頼むのも容易かもしれないが、いい加減で大雑把なインドの小タウン、どこから見ても不利、無理の大文字が頭に飛び交い、ため息、断念せざるを得ない状況が続いてきた。

とりあえず来春まで状況静観することに決めたが、本当は日印共に収まっている今のうちに、この絶好のチャンスを逃さず、帰った方が賢明なのかもしれない。春まで待つことは、一種のギャンブルだ。いつ何時インドは第3波、日本は第6波に見舞われないとも限らない。そうなったら、おじゃん、またしても何度目かのチャンスを逸することになる。

一体、いつまで延期し続ければいいのだろう。さすがの私も、我慢の限界た。過去2度のチケットのキャンセル代だけでも、安くないお金が飛んだ。臨時便の値段は平常時の3倍近く、高額なチケットが書類の不備でふいになったら、目も当てられない。

できれば、息子同伴で帰りたいと思っているので、2人分がパーだ。そんな危ない橋を渡れようか。仮に帰国がかろうじてパスできたとしても、再入国がまた厄介だ。コロナ禍でホテル業が行き詰まっている現状、まさにここに、帰りたくても帰れない、やむにやまれぬ事情があるのだ。

せめて、多少の不備かあっても見逃し、強制送還はなしという、日本政府の情状酌量があれば安心なのだが。途上国の邦人に今少し配慮した緩和をひとえに望む。

(「インド発コロナ観戦記」は「観戦(感染)記」という意味で、インドに在住する作家で「ホテル・ラブ&ライフ」を経営しているモハンティ三智江さんが現地の新型コロナウイルスの実情について書いており、随時、掲載します。モハンティ三智江さんは福井県福井市生まれ、1987年にインドに移住し、翌1988年に現地男性(2019年秋に病死)と結婚、その後ホテルをオープン、文筆業との二足のわらじで、著書に「お気をつけてよい旅を!」(双葉社)、「インド人には、ご用心!」(三五館)などを刊行しており、コロナウイルスには感染していません。

また、息子はラッパーとしては、インドを代表するスターです。2021年11月9日現在、世界の感染者数は2億5036万8055人、死者は505万5944人(回復者は未公表)です。インドは感染者数が3437万7113人、死亡者数が46万1389人(回復者は未公表)、アメリカに次いで2位になっています。

ちなみにアメリカの感染者数は4661万3141人、死亡者数が75万5636人(回復者は未公表)、日本は感染者数が172万3970人、死亡者数が1万8312人、回復者が170万3094人(ダイヤモンド・プリンセス号を含む)。インドの州別の最新の数字の把握が難しく、著者の原稿のままを載せています。

また、インドでは2020年3月25日から4月14日までを「ロックダウン1.0」とし、4月14日から5月3日までを「ロックダウン2.0」、5月1日から17日までを「ロックダウン3.0」、18日から31日を「ロックダウン4.0」、6月1日から6月末まで「アンロックダウン(Unlockdown)1.0」、7月1日から「アンロックダウン2.0」と分類していますが、原稿では日本向けなので、すべてを「ロックダウン/アンロックダウン」と総称しています。

ただし、インド政府は2020年5月30日に感染状況が深刻な封じ込めゾーンについては、6月30日までのロックダウンの延長を決め、著者が住むオディシャ州は独自に6月末までの延長を決め、その後も期限を決めずに延長しています。この政府の延長を「ロックダウン5.0」と分類しています。2021年3月から第2波に突入するも、中央政府は全土的なロックタウンはいまだ発令せず、各州の判断に任せています。マハラシュトラ州や首都圏デリーはじめ、レッドゾーン州はほとんどが州単位の、期間はまちまちながら、ローカル・ロックダウンを敷いています。編集注は筆者と関係ありません)。