インドも新変異株陽性者、日本の緩和撤回で邦人に衝撃走る(85)

【モハンティ三智江のインド発コロナ観戦記=2021年12月17日】11月のアフリカにおける新変異株発見のニュースは、緩和に動き出していた世界の動きに水を差す衝撃的な事件だった。来春に帰国目標を設定していた私個人も、せっかく見えてきた明るい兆しに影か差すようで、ショックを受けた。

東京の国際玄関・成田空港。インドから帰国するときは、たいてい成田着。ただでさえ厳しい成田の検疫局は、オミクロン騒ぎでピリピリ。来春、地獄の関門を突破できるだろうか(いずれも画像はウィキペディアより)。

そもそもは、11月11日にボツアナで採取された検体から見つかったのが最初とされるが、以後、南アフリカでも発見(12日から20日までで77例)、11月26日にWHO(世界保健機関)が「オミクロン株」として、懸念される変異株に位置づけた。

現時点では、詳細はわかっておらず、いたずらにパニックに陥るのは禁物だが、12月3日現在、世界35カ国に広がりを見せており、今日になってインドでも2人の陽性者が報告された。

南インド・カルナータカ州(Karnataka、人口6410万人、1日当たり陽性者363人、総感染者数300万人、死者3万8216人)における州都バンガロール(Bangalore、現ベンガルール、人口1125万人)の国際空港に南アフリカから到着した66歳の同国人の陽性が発覚、解析に回されていたが、本日オミクロン株であったことが判明したのだ。

もう1人は海外渡航歴のないバンガロール在住の46歳のドクター。前者は軽症、後者も既に退院したそうだが、濃厚接触者のうち5人の陽性が判明しているので、オミクロン株キャリアはさらに増えそうだ。

憂うべきは、後者の例で既に市中感染が広まっている証左と見られ、感染力がデルタより強いとされる新変異株の脅威がインド全土に広まることは時間の問題と思われる(著者注.12月6日にマハラシュトラ州=Maharashtra、ラジャスタン州=Rajasthan、首都デリー=Delhi=と計21例に増加)。

3日現在、インド全土(人口13億8000万人)の陽性者数は1日9000人台まで激減しており(9216人、5月のデルタ爆発時は1日40万人以上)、依然コントロール下にあり(総感染者数3460万人、死者47万人)、全土で経済再開の動きが加速化していたが、新変異株の出現で第3波がいっそう懸念される成り行きとなった。

インド政府は、アフリカはじめのリスク国からの入国規制を強化、従来の72時間前陰性証明と過去2週間の滞在歴のオンライン提出に加え、空港検査(非リスク国からは任意の5%、自費負担)、陰性でも1週間の自宅隔離(8日目に自主検査、以後7日間自主健康チェック)を講ずるなど迅速に対応したものの、入国禁止措置をとる他国に比べると、緩めで南インドで見つかった今、全土に広まるのは抑えがたいだろう。12月15日に予定されていた国際線の正常再開も見送られた。

一方、インドはデルタ大爆発で国民の抗体保有率が高いため、たとえオミクロン株に感染したとしても、症状は比較的軽いのではないかとの希望的観測もあり、中央政府も現段階では、いたずらにパニックに陥ることを戒めている。

インドからの帰国者は強制隔離が解かれ、14日自主隔離となっていたが、オミクロンでまたもや強制隔離が課されそうだ。公共の交通機関は使用できないため、地方に実家のある人はハイヤーか、都内のホテルが回す送迎車か、レンタカーが移動手段。都内に自宅があり、自家用車で迎えに来てくれる家族のいる人が羨ましい。

しばらく様子を見ないとわからないが、感染力は強いものの、現時点では無症状か軽症とのことで(南ア・ドクター談)、致死率も低いとの情報も出回っている。南ア政府は、いち早く新種を発見し、世界に知らしめたのに、いっせいに入国禁止に走った各国の過剰反応に心証を害しているとも聞く。

当オディシャ州( Odisha、人口4600万人、1日当たり陽性者252人、総数105万人、死者8415人)は、州都ブバネシュワール(Bhubaneswar)の空港への海外流入者に神経質に目を光らせており、検査は無論、7日の自宅隔離措置で臨んでいる。

ワクチン接種2回完了者が32.9%といまだ3分の1に満たないインドは、2回目の接種を加速化しているが、3回目のブースターに動き出している先進諸国に比べると、はるかに遅れをとっている。

オミクロン対応のワクチン開発が緊急に進む中、現行のワクチンでどこまで効くのかも疑問だ。接種率が高い国々でも、感染急拡大しており、ワクチン集団免疫説は幻想と化している。有効性は半年で、パンデミック(世界的大流行) が続く限りは、接種者は半年ごとに延々と打ち続けなければならないということだ。新株対応のワクチンが開発されても、また新たな変異種出現の脅威もあり、ネズミとイタチの追いかけごっこた。

オミクロン株が果たして、TSUNAMI(ツナミ)的大爆発を引き起こしたデルタ株を凌ぐかは、現時点ではわからず、とりあえずの対策としては手抜かりなく万全を期す努力をするしかなく、第2波で大失態をやらかした現政府は二の舞を踏まないよう、警戒が必要だ。

〇邦人関連情報/日本の水際対策、あわや帰国者の入国禁ず?

オミクロン株発見を受けて、入国規制を強める各国にならって、日本政府は11月8日の緩和を撤回し、30日に全外国人の入国禁止措置に走ったが、続いて国土交通省からの航空券予約停止要請には、在外邦人間に衝撃が走った。

年末年始の帰省を予定していた海外在住者が、予約を取れなくなり、断念せざるを得ないケースが相次いた。私自身も、よもやの措置、オーストラリア政府同様の自国民入国禁止には、大ショックで、邦人保護の観点からの人権無視と憤慨したが、朝令暮改の撤回劇でひとまず胸を撫で下ろした。

それにしても、世界中の在外邦人を大混乱におとしいれて、人騒がせにも程がある。先走ったとの釈明だが、まぁ、疑わしきは罰せず、戦後の満州からの引き揚げ者のように、日本政府に見捨てられたのかと一瞬思ったが。

昨年末亡くなったなかにし礼(1938-2020)が国に見捨てられた恨みを、恋歌に置き換えているではないか。歌手、弘田三枝子(1947-2020)の「人形の家」は、男(日本政府)に捨てられ、部屋の片隅でほこりまみれの人形のようにになった女(引き揚げ者のなかにし)の恨み節だ。

まぁ、こうした愚策には、在外邦人が陳情に乗り出すなど、決して黙っていなかったと思うけど。お粗末な撤回劇に失笑しながらも、在外者の弱い立場の私は哀ししいことに、ほっと安堵せざるを得なかった。

今後、最悪のケースとして、インドからの帰国者は強制隔離がデルタ爆発時同様最長10日を課せらるれこともあるかもしれないが(現在はカルナータカ州からのみ3日強制隔離対象。6日にマハラシュトラ州が追加)、個人的には自費節約になるので、願ってもない。要するに、自国民でありさえすれば、帰れるのであれば、希望はあるということだ。2、3月の帰国に向けて、さらなる決断をもって臨みたい。

▽フィリピンの恋人との2年ぶりの再会ならず!/週末海外ノマド「ダイスケ」(YouTube)

たびたび紹介している動画発信者のダイスケさんだが、長いこと待ちわびたフィリピン政府の12月1日開国で、喜び勇んで11日のチケットをとったが、新変異株脅威を受けた同政府が朝令暮改で撤回、やむなくキャンセルに至った。

ライブ配信中に発覚しただけに、ショックをこらえて健気にリポートし続ける、息子のように若いダイスケさんには、泣けた。

渡航者、帰国者、みながオミクロンショックに揺さぶられている。世界的な緩和で緩んでいた気持ちがきゅっと引き締まり、緊張感が高まる昨今だ。ダイスケさんが、フィリピンの恋人と再会できる日が来ることを祈るとともに、重症のホームシックの私個人も、帰国が叶うようにと祈るばかりた。

※追記/年末年始シーズンで帰国者が多いこの時期の強制隔離措置の逆戻り、ダイスケさんの最新動画からは、施設が足らず、名古屋までチャーター便を飛ばせて収容のニュースも伝わっている。空港で7時間待機させられた人もいたようで、個人的にチケットの高騰と混雑を避けて日程を来春に延期したのは、賢明だったと思っているが、反面新変異株出現で今後どう状勢が変わるかわからず、在外邦人にとって帰国は鬼門の日が続く。

(「インド発コロナ観戦記」は「観戦(感染)記」という意味で、インドに在住する作家で「ホテル・ラブ&ライフ」を経営しているモハンティ三智江さんが現地の新型コロナウイルスの実情について書いており、随時、掲載します。モハンティ三智江さんは福井県福井市生まれ、1987年にインドに移住し、翌1988年に現地男性(2019年秋に病死)と結婚、その後ホテルをオープン、文筆業との二足のわらじで、著書に「お気をつけてよい旅を!」(双葉社)、「インド人には、ご用心!」(三五館)などを刊行しており、コロナウイルスには感染していません。また、息子はラッパーとしては、インドを代表するスターです。

2021年12月16日現在、世界の感染者数は2億7220万5417人、死者は532万9879人(回復者は未公表)です。インドは感染者数が3471万8602人、死亡者数が47万6478人(回復者は未公表)、アメリカに次いで2位になっています。

ちなみにアメリカの感染者数は5037万4543人、死亡者数が80万2510人(回復者は未公表)、日本は感染者数が172万9764人、死亡者数が1万8391人、回復者が171万0498人(ダイヤモンド・プリンセス号を含む)。インドの州別の最新の数字の把握が難しく、著者の原稿のままを載せています。

また、インドでは2020年3月25日から4月14日までを「ロックダウン1.0」とし、4月14日から5月3日までを「ロックダウン2.0」、5月1日から17日までを「ロックダウン3.0」、18日から31日を「ロックダウン4.0」、6月1日から6月末まで「アンロックダウン(Unlockdown)1.0」、7月1日から「アンロックダウン2.0」と分類していますが、原稿では日本向けなので、すべてを「ロックダウン/アンロックダウン」と総称しています。

ただし、インド政府は2020年5月30日に感染状況が深刻な封じ込めゾーンについては、6月30日までのロックダウンの延長を決め、著者が住むオディシャ州は独自に6月末までの延長を決め、その後も期限を決めずに延長しています。この政府の延長を「ロックダウン5.0」と分類しています。2021年3月から第2波に突入するも、中央政府は全土的なロックタウンはいまだ発令せず、各州の判断に任せています。マハラシュトラ州や首都圏デリーはじめ、レッドゾーン州はほとんどが州単位の、期間はまちまちながら、ローカル・ロックダウンを敷いています。編集注は筆者と関係ありません)。