コメディの根底にある重いテーマを読み取って欲しい「テッド2」(169)

【ケイシーの映画冗報=2015年9月10日】舌鋒鋭いことで知られるある評論家が、こんな一文を記しています。
「ホンネとはワイセツで醜悪なものである。だから、みんなルールや互譲というパンツをはき、汚いホンネを覆(は)いて生活している」

この表現によれば、「命を宿したクマのぬいぐるみ」である本作の主人公テッドは、“ホンネまるだし”の存在ということになるでしょう。パンツを履いたテディベアというのは寡聞(かぶん)にして知りませんので。

本作「テッド2」(Ted2)は、コメディ作品としては異例のヒットとなった前作「テッド」(Ted、2012年)で「外見はかわいらしいぬいぐるみだが、中身は下品でスケベな中年オヤジ」という鮮烈なキャラクターで登場したテッド(声の出演はセス・マクファーレン=Seth MacFarlane)が活躍する続編となっています。

8歳から30年近くもテッドと親友だったジョン(演じるのは、マーク・ウォールバーグ=Mark Wahlberg)が、前作のラストで恋人と結ばれてから数年、今度はテッドが恋人のタミ=リン(演じるのは、ジェシカ・バース=Jessica Barth )と結婚することに。

ところが、親友の幸せを素直に喜べないジョンがいました。結婚が破綻し、現在は独身となっていたためです。そして、幸せだったはずのテッドとタミ=リンの家庭も、ほどなくしてケンカばかりの倦怠期を迎えることになります。

それを克服するため、テッドはあるアイディアを授かり、実践しようとするのですが、大きな問題に直面してしまいます。「ぬいぐるみのクマは子どもを持つことができない」という法律の壁で、個人というか個クマにはどうすることもできない事情でした。

「困ったときには弁護士だ」というジョンのアドバイスで、弁護士事務所をたずねたひとりと1匹ですが、あまりにも特殊な案件ということで、担当するのは弁護士見習いのサマンサ(演じるのは、アマンダ・セイフライド=Amanda Seyfried)ということになります。

最初はその若さから不信感をもったジョンとテッドでしたが、彼女が両者が愛してやまないマリファナについてじつに寛容(かんよう)であることから意気投合し、裁判でテッドの人権(クマ権?)を勝ち取ろうと対策に奔走(ほんそう)します。この前代未聞の裁判の結果は・・・。

そして、もうひとつ、テッドには存亡の危機が迫りつつあるのでした。「喋(しゃべ)って歌って踊るぬいぐるみの不良中年クマ」というキャラクターだけを拾い上げると、「単なる思いつきのキワモノ」と感じられるかもしれません が、このシリーズの根底にはしっかりとしたテーマが存在しています。

前作では、「子どものときの友情の誓いは将来にわたって有効か?」という意外と(失礼)、冷徹(れいてつ)な現実でした。大人になり、恋人もいるジョンは、経年劣化はあっても外見はかわらないテッドとの関係を永遠には続けられないというものです。

ぬいぐるみと違い、人間はかならず、年齢を重ねていきますから。本作では「現実にあり、認識されている存在を抹消することはできるのか」というものとなっています。たしかに、荒唐無稽な〈現実には存在しないはず〉のテッドですが、スクリーンの中では実在し、親友も仕事も家庭もあるわけですから、市民権(アメリカの国民である証明)を求めるのは、けっして奇異なことではないはずです。

1861年から1865年まで戦われたアメリカの南北戦争によって「開放」されたはずのアメリカの黒人たちが、20世紀になっても人種差別に苦しめられていたことは、歴史の語るところです。劇中に、黒人奴隷の問題を正面からとらえたテレビドラマ「ルーツ」(Roots、1977年)の画面が映ることからも、監督、脚本もかねたセス・マクファーレンの意図は、テッドという“異なる存在”に置き換えた「アメリカで生活すること」にあると思います。

たしかに、年齢制限(視聴が15歳以上)がなされるほど、やりたい放題で、上記の記述を借りれば“パンツを履いていない”テッドなのですが、多少 (かなり)、ハチャメチャかつ下品ではあっても、たしかに実在(劇中では)しているのですから。

一見、お笑いとさまざなま映画やテレビ、時事ニュースといったネタを重視したコメディではありますが、マクファーレン監督の語る「テッドがマトモな大人になることは決してないけれど、彼の人生も、他の人の人と似通ったところがある」(パンフレットより)は、説得力があると感じます。

「自分は立派な大人だ」と胸を張れる人物はどれほど存在しているでしょうか。自分もふくめてですが。次回は「キングスマン」を予定しています(敬称略。【ケイシーの映画冗報】は映画通のケイシーさんが映画をテーマにして自由に書きます。時には最新作の紹介になることや、過去の作品に言及することもあります。当分の間、隔週木曜日に掲載します。また、画像の説明は著者と関係ありません)。