インド、250万突破でホテル再開見通しつかず、汚れた海が美しく(34)

【モハンティ三智江のインド発コロナ観戦記=2020年8月28日】3月22日に全土に3日先駆けて始まったロックダウン(都市封鎖)は、本日8月15日で147日目、まさか5カ月近くも、軟禁生活を強いられようとは、思ってもみなかった。まず半年はと覚悟していたのだが、それはコロナ禍のことで、よりにもよって休業要請が今に至るまで続こうとは、想定外だった。

雨上がりの翌朝、海に出たが、ベンガルの波は荒かった。潮混じりの大気は心なしか乾いた触感、秋が近いことを肌身に感じた。

初期は当オディシャ州(Odisha)も、感染者が少なく、安全地帯だったし、西インドの感染爆発を横目に、東はまだまだと余裕があったのが、今や当州は感染悪州のひとつとなり、本日は2500人近い陽性者が出て、ピーク真っ盛りである。

それでも、あまりに長いロックダウンを強いられたせいで、緊張感も緩み、プリー町(Puri)は実質陽性者341人とこの3日ほど変わらず、州全体の実質数は1万7000人超と、回復数が追いつかず、日毎に1000人増しなのが懸念されるが、異様な緊迫感に満ちていた初期に比べると、住民も比較的落ち着いている。が、一歩外に出ると、大多数の人はマスク着用、メインストリートの人出も変わらず、少ない。

コロナ前の活気と喧騒は失われ、CTロードは静まり返っている。賑やかなことを好む、お祭り好きのインド人なのに、がらりと様変わり、結婚楽隊が大音響を轟かせ、行進する見慣れた光景も消えた。こうした自粛は厳しく、ストレスが溜まるだろう。

以前は、オフでも前の道の混雑はさして変わらず、信号がないため、横断するのが一苦労だったのだが、今はすいすい渡れる。そう、まるで私が旅行者だった33年前の、ホテルが数軒しかなかった頃の平和と静けさに戻ったみたいだ。

同時に、無人に等しい海も、ゴミが少なく、ホテルからの汚水垂れ流しもなくなって、美しさを取り戻したようだ。

2019年8月、徒歩圏内に祀られたガネーシャ神のパンダル(仮設寺院)に参拝し、商売繁盛を祈願した。まだ夫も健在で、新型ウイルスが跋扈する近未来など、想定外だった。今年のガネーシャ祭はコロナ下、意気が上がらないだろう。

季節は初夏から初秋へと変わり、雨続きの昨今、合間を縫って浜に出ると、海面すれすれを孵化したとんぼの大群が舞っていた。

重たい湿気に澱んでいた大気も、心なしか乾いて、気象病に苦しんでいた私には、過ごしやすい一日でほっとした。昨日は一日中雨で湿度が飽和状態、頭が重く、眠気にどんよりしていたが、今日は回復、家に戻る途上の空には、孵化したとんぼがうようよ舞いあふれていて、ああ、あと2週間で9月だなぁと、秋の兆しを肌に如実に感じた。

もうすぐ、ガネーシャ、象の頭の神様のお祭りだなあと思う。私のお気に入りのヒンドゥ教の神様でもあり、教育と商売繁盛のご利益があるのだが、休校に休業では、何を祈願すればいいのかと、迷ってしまう。再開後の繁盛か。

多分、今年は、近くの仮天幕の下に、ガネーシャの偶像が祀られることはないだろう。みんな、食べていくことが精一杯で、張りぼて偶像をこしらえるための寄付も集まらないだろう。

それでも、長年名高い聖地として、観光業で潤ってきた住民は、余力があるのか、州政府からの補償は一切なくても、よく持ちこたえている。

同業者は一体、どうやって凌いでいるのだろうと、時に不思議になるが、日頃商売敵、ほとんど付き合いがないため、情報が入ってこない。台所は火の車なのか、これまで貯めた預金で何とか凌いでいるのか。東浜は、20部屋前後の小ホテルがほとんどなので、実情はかなり苦しいはずなのだが。

風の便りに、当地最大の大衆ホテル(155室、西浜在)が、従業員の半数を解雇、残りのスタッフも給与半減で、当座凌いでいるとの噂が伝わってきた。ちなみに、当ホテルは目下2人のスタッフで賄っているが、休業中なので、十分である。

インド全土の感染者数は、ついに250万人を突破した。

●コロナ余話/ステイホームの気晴らし2・往年の日本ドラマ鑑賞

軟禁生活の気晴らしに、昔の日本のドラマを観ることが多く、最近は、1989年のTBSの土曜スペシャル、2時間ものを楽しんだ。

タイトルは「過去の消えた女」で、主演は高橋恵子(たかはし・けいこ)、三田村邦彦(みたむら・くにひこ)とのコンビだ。

純粋なエンタメで頭を使わず、エンジョイできた。改めて、インターネットはありがたいなぁと思った次第。インド在住でも、往時の邦画やドラマがユーチューブ(YouTube)にたくさんアップされているので、無料で観放題なのだ。

高橋恵子は、私のお気に入りの女優だが、私見では、結婚前の関根恵子時代の方がスキャンダラスで面白かったと思う。が、高橋姓に変えてからは、美貌に成熟と色香が加わり、ルックス的には磨きかかかった。34歳頃の作品で、子供も産まれていたはずだが、透明感のある、気品に満ちた美しさで、目の保養になる。

お相手の三田村邦彦は、村上龍(むらかみ・りゅう)のセンセーショナルな芥川賞受賞作品「限りなく透明に近いブルー」(1976年)の映画化(1979年)にあたって(作者自身が監督)、主役に抜擢された男優で端正な顔立ちだが、私の趣味ではない。

筋書きはネタバレになるので、ここには記さないが、ミステリーじみたドラマとだけ、付け加えておく。高橋恵子ファンなら、必見。

(「インド発コロナ観戦記」は「観戦(感染)記」という意味で、インドに在住する作家で「ホテル・ラブ&ライフ」を経営しているモハンティ三智江さんが現地の新型コロナウイルスの実情について書いており、随時、掲載します。モハンティ三智江さんは福井県福井市生まれ、1987年にインドに移住し、翌1988年に現地男性(2019年秋に病死)と結婚、その後ホテルをオープン、文筆業との二足のわらじで、著書に「お気をつけてよい旅を!」(双葉社)、「インド人には、ご用心!」(三五館)などを刊行しており、感染していません。

また、息子はラッパーとしては、インドを代表するスターです。13億人超と中国に次ぐ世界第2位の人口大国、インド政府は3月24日に全28州と直轄領などを対象に、完全封鎖命令を発令し、25日0時から21日間、完全封鎖し、4月14日に5月3日まで延長し、5月1日に17日まで再延長、17日に5月31日まで延長し、31日をもって解除しました。これにより延べ67日間となりました。ただし、5月4日から段階的に制限を緩和しています。

8月26日現在、インドの感染者数は316万7323人、死亡者数が5万8390人、回復者が240万4585人、アメリカ、ブラジルに次いで3位になっています。州別の最新の数字の把握が難しく、著者の原稿のままを載せています。また、インドでは3月25日から4月14日までを「ロックダウン1.0」とし、4月14日から5月3日までを「ロックダウン2.0」、5月1日から17日までを「ロックダウン3.0」、18日から31日を「ロックダウン4.0」、6月1日から6月末まで「アンロックダウン(Unlockdown)1.0」、7月1日から「アンロックダウン2.0」と分類していますが、原稿では日本向けなので、すべてを「ロックダウン/アンロックダウン」と総称しています。

ただし、インド政府は5月30日に感染状況が深刻な封じ込めゾーンについては、6月30日までのロックダウンの延長を決め、著者が住むオディシャ州は独自に6月末までの延長を決め、その後も期限を決めずに延長しています。この政府の延長を「ロックダウン5.0」と分類しています)